デジタルモンスター研究報告会   作:タマリリス

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進化したコマンドラモン

進化したコマンドラモンは、島の開拓に多大な貢献をしてくれている。

チーム内では、やはりその話題で持ち切りだった。

 

シンは働く重機ロボットを見て目を丸くしている。

「はぁ~、しかしすごいッスね。爬虫類のデジモンが、あんなデカイロボットに進化するなんて…。ケンキモンでしたっけ?面影ぜんぜん無いっすね」

 

あのロボット…ケンキモンは、「本体に附属するアイテム」だよ。

 

「アイテム?…ああ、コマンドラモンの銃や爆弾、ガスマスクみたいなもんッスか?」

 

そうそう。

本当の本体はコクピットの中にいて、ケンキモンとは別の名前を与えている。

でもだいたいいつもロボットに乗っているから、便宜的にケンキモンと…外側のロボットの名前で呼んで管理することにしている。

 

「あれ動力源は何ッスか?」

 

たぶん…電気じゃないかな。

中に乗ってる本体が普通に食事をして、そのエネルギーを電気に変換してロボットにケーブルを接続して供給してるらしい。

 

「じゃあ別々には動けないんスね」

 

どうだろう…?

長いケーブルを繋げたままコクピットから降りて、ロボットと中身が一緒に作業してるとこもたまに見るよ。

ケーブルを切り離してるところはまだ見たことない。

 

「あのロボットは戦ったら強いんスかね?」

 

野生のガニモンが餌を狙ってきたときに応戦してるところを見たことがある。

あのパワーショベルを思い切り振り下ろしてガニモンをひっぱたくと、かなりダメージを与えることができるみたいだ。

 

「じゃあもう楽勝なんスね!蟹鍋食い放題じゃないッスか」

 

ところがガニモンは弱くない。

下半身のキャタピラーとか、機械の接合部をハサミで狙われると、さすがに損傷するみたいだ。

 

「デジモンの怪我みたいに自動で治るんスか?」

 

損傷箇所は、中の本体が頑張って修復してるよ。

あとは金属疲労とかに気を付けてるのか、メンテナンスもちょくちょくやってるみたい。

 

「ウーン、機械のロボットって硬い!強い!ってイメージありますけど、自動修復できずメンテナンスがめんどいってのは弱点ッスね。ロボットアニメだとその辺描かれないから盲点っすわ」

 

逆に言うと、ある程度の怪我を自分で治癒できるのが生物の肉体の強みとも言えるね。

 

だから、ガニモンみたいな「強い成長期」くらいなら相手にできるけど、成熟期デジモンと戦うとなると…

かなり損傷しそうだ。

 

そこへ、スポンサーさんから通信が来た。

『ハーッハッハ!おめでとう諸君!ついに念願のコマンドラモン進化に成功したねぇ!』

 

あ、どうも。

私が挨拶をすると、カリアゲもこっちに来た。

 

「おっすスポンサーさん。そうなんだよ!あの後蟹鍋を作るための器を拾いに行って、ガニモン鍋をコマンドラモン達が食べたんだけどよ、それがきっかけで進化したみてーだ!なんで蟹鍋食ったら進化したんだろうな?」

 

『フム?蟹鍋を?』

 

ガニモンのカニ味噌…いわゆる中腸線ですね。

 

「へー、カニ味噌ってそういうもんなんだ…脳味噌かと思ってたぜ」

 

肝臓とすい臓の機能を持った部位です。

それを食べた途端進化しました。

 

『ウーム、成熟期への進化の条件っていうのは分からないものだね』

 

それなんですが…

ひとつ仮説が立ちました。

 

『おや、なんだね?』

 

カリアゲは何だと思う?

 

「え、俺?そうだな…。コマンドラモンが進化できた理由か…。成長期のままでいた時間の長さ、戦闘経験の多さ、餌の質の良さあたりじゃねえか?」

 

おおっ、かなりいいとこをついている。

コマンドラモンの場合、そこに「住処の広さ」も関わってきそうだ。

 

「住処の広さ?関係有るのか?ニワトリとか狭いところでも卵産むよな」

 

…ユニバース25という実験を知ってる?

 

「ん?なんだそれ?」

カリアゲは首をかしげている。

 

「ネズミの楽園を作る実験だね、ケン」

そこへやって来たのは…メガだ。

こういう話題好きそうだもんね。

 

「まあうん、オタクはみんな好きだよ、こういうライトな哲学。何不自由のない楽園を作ったら、最終的に過度な少子高齢化が進んで破滅した…というものだね。それがデジモンの成熟期となにか関係有るの?」

 

さすがメガ。

だけどここで重要なのは、その前に行われた…『楽園を作るのに失敗した方』の実験だ。

 

「なんだっけそれ?」

 

狭い領土の中でネズミを殖やそうとしたけども、いくら餌をたくさん与えてもあまり殖えなかった…というものだよ。

 

「実験に失敗した例だね」

 

ただ失敗に終わっただけじゃない。

ネズミは「狭すぎる土地では無駄に子を産まない」ことが分かった、貴重な知見だよ。

 

『なるほど!さしずめ、個体数の密度が高くなりすぎることを避ける本能があるということだろうね!』

 

ところで、成熟期まで進化する系統のデジモンは、「女王蟻」や「女王蜂」に似た性質を持っている…という話はしたっけ。

 

「前に聞いたことがあるね。なぜ成長期デジモンはデジタマを産まないのか、なぜ成熟期は個体数が少なめなのか…。それは成熟期に産卵のタスクをすべて押し付けているからだ、と。それが女王蜂に似ているんだね」

 

そうそう。

同じ巣に女王蜂や女王蟻が2匹も3匹もいたって仕方ないからね。

 

『興味深い話だねぇ!それで住処の広さとは…?』

 

つまり、今まで我々がデジモンを飼育していたサーバー内のビオトープは、成熟期デジモンがデジタマを産む環境としては狭すぎたんだ。

 

『なるほど!フローティア島という十分広い土地に移り住んだおかげで、デジタマを産む役割になっても個体数密度が過剰に高くならずに済むわけだね!』

 

そういうことです。

カンナギ・エンタープライズがサラマンダモンを育て上げた際に、環境負荷を与えたと言っていましたが…

逆に言うと、サーバー内のデジタル空間では成熟期にまで進化させることができず、異なる環境でなければ進化させられなかったということです。

 

『カンナギが…何?サラマンダモンを…?なんだって?』

 

え…

あ!!しまった!

クルエが頭を抱えてこちらを見ている。

 

『我々のところにもサラマンダモンはいるが…まさか…』

 

えっとあの、それは…!

 

「分かったぞケン!こういうことだろ!カンナギもスポンサーさんが羨ましくなって、ランサムウェアデジモン対策のために、サラマンダモンを育て上げた、と!…どうだ!」

 

…流石カリアゲ。ご明察だ。その通りだよ。

内緒の話だから、内密にね。

 

「っしゃあ!やったぜ!」

「流石っス!カリアゲパイセン!Foo~!」

 

『…今のは聞かなかったことにしよう!ハーッハッハッハ!』

 

助かります。

 

『つまり、戦闘経験や住処の広さが、デジモンが成熟期に進化する条件…ということだね?』

 

…私はそう思っていました。

つい先日までは。

 

『ち、違うのかね?』

 

私はそういう固定観念を持っていました。

デジモンが成熟期になるのには、何か共通の条件があるのだと。

 

ですが私は、根本的な勘違いをしていたんです。

 

『根本的な勘違い…?何かね?』

 

そうです。即ち…

「成熟期に進化する共通の条件など無い」ということです。

 

『条件が…無い!?』

 

デジモンが進化して姿や形、持っている形質が大きく変化するのなら…

生命の仕組み、それ自体もまた進化するんです。

 

我々のいるリアルワールドの生物でも、生命の仕組みそのものが極めて特異に発達した種がいます。

 

『生命の仕組み…。文脈的には、生殖や成長の仕方かな』

 

はい。

たとえばミツバチの女王ですが…

産まれたときには、女王蜂は他の働き蜂と同じ幼虫で何も差は無いんです。

 

しかし、ハチミツを食べて育った幼虫は生殖能力のない働き蜂へ成長し、さらに高栄養なローヤルゼリーを食べて育った幼虫は生殖だけが役割の女王蜂になります。

 

「へぇ…何を食べて育ったかで最終的な姿が変わるんだ」

メガが頷いている。

 

もっと凄い例があるよ。

クマノミという魚は、産まれた当初は性別が決まっていないんだ。

だけど、ある程度成熟すると、群れの中で最も体が大きい個体がメスになり、二番目に大きい個体がオスになるんだ。

 

そのつがいが群れを去ると、残った個体同士でまた背比べ性転換が始まるんだ。

 

「えぇ…どんな生態してるの?信じられない…」

 

他にも、カツオノエボシというクラゲに似た生き物は、幼体が成長すると一度複数の個体に分裂して、それらが大きくなってから再度合体したりする。

 

「わけわかんないなぁもう!?」

 

サルパっていうホヤの仲間も変な成長の仕方をするんだけど…複雑怪奇すぎて説明が長くなるので省きます。

 

とにかく、リアルワールドの生物達の中には、生命のサイクルそのものを進化させる種がいるということです。

 

ならばデジモンだって、様々な種が系統を発達させるにつれて、『何をすれば成熟期になるか』という条件設定そのものを進化させていると考えられるんです。

 

『なるほど…有り得る話だ』

 

だから、成長期デジモンを成熟期へ進化させたいと考えた場合…

全デジモン共通の条件を探すのでなく、その種の系統の野生デジモンを生態観察し、何をすれば成熟期になるのか、個別に推測する必要があるということです。

 

『道理で、クラッカーもスカモン系統以外の成熟期を戦線に出してこないわけだね』

 

『そういえば、キンカクモンのデジタマはまだ進化しないのかね?ここまで進化しないとなると、タマゴ自体がもう死んでるようにしか思えないのだが…』

 

どうなんでしょうね。

リアルワールドのダチョウとかは40日くらいで孵化しますが、昆虫の卵は冬を越すくらい長い間孵化しないこともザラですからね。

 

『コマンドラモンやブイモン達のデジタマは拾ってからもっと早く進化したはずだったが…』

 

コマンドラモンやブイモン達のデジタマは、デジタルワールドで産まれてしばらく経ったものを拾ってきました。

しかし、キンカクモンは産まれた直後のデジタマを持ってきた。

その違いのせいかもしれませんね。

 

『ふむ。…まあ、その話は置いておいてだ。新しい姿へ進化したケンキモンは、どんな様子かね?』

 

今はパートナー達と一緒に井戸を掘っていますね。

 

『おや、井戸か。いよいよ作るんだね』

 

今までは、遠くで汲んだ水をデジタルゲート経由で運んでいたのですが、毎回デジタルゲートを使っているとデジタルゲートのエネルギーが尽きますからね。

それに頼らずに水を確保する手段を用意したんです。

 

『しかし、随分井戸を後回しにしたものだね。まさか製鉄所を先に作るとは』

 

デジモンは我々の世界の動植物と異なり、必ずしも水を水として飲む必要があるわけではないようです。

 

原始的な代謝機能を退化させずに持ち続けているデジモンは、体内に吸収したデータを組み替えて、自分の肉体を作ることができます。

そこには当然「水」も含まれます。

 

だから、パルモンとマッシュモンは、データを食べればそれを変換して水を作れるから、水という形で水分を経口摂取する必要がないみたいですね。

 

ただし、データ変換をするためにエネルギーを消耗するので、水をそのまま摂取できるならそれに越したことはないようです。

 

『デジモンは皆乾燥に強いということかね?』

 

…オタマモンは乾燥に強くないので、水浴び場が必要になりますね。

 

『なるほど…。しかし、井戸を掘れるのか?パワーショベル、フォークリフト、クレーンだけでどうにかなるとは思えないがね』

 

ケンキモンの中身…本体は、左腕がドリルになっているので井戸を掘り進めるのが得意なようです。

 

しかも本体の両腕は様々な工作機械に付け替え可能なので、井戸の内壁を固める作業や、ロープを設置する作業もお手の物です。

もっと技術を磨けば、ポンプですら作れるようになるかも。

 

それに加えて、外装であるケンキモンの腕も換装が可能なようです。

今は穴掘建柱ドリルのアームを作ろうと考えているみたいですね。

 

『…随分欲張りなんだね?元コマンドラモンくんは』

 

彼には「後悔する覚悟を持って欲しい」と言いましたが、あれで後悔することはないと思います。

 

『すると、井戸作りはケンキモンの本体が一人で進めているのかね?』

 

井戸はそうですが…

農業用の水路を作るのは、他のデジモンは達もやってますよ。

 

ブイモンが前に作ったツルハシや、ケンキモンが新しく作った道具を使ってます。

 

『ツルハシ?ガニモンを倒したアレか…。ツルハシで水路が掘れるのかい?』

 

ブイモンが作ったツルハシは2本有るのですが…

ツルハシって先端が前後に飛び出してますよね。

片側は尖っていて、硬い地面を砕いたり敵の装甲を破壊できるわけですが…

もう片側の用途は少し違います。

 

一つは先端に鋤(すき)がついており、地面を掘れるようになってるんです。

農作業で畑を耕すのに使えるんです。

 

『へえ、便利だね。もう一つのツルハシも片側が鋤なのかね?』

 

いえ、もう一本は、片側が斧になってます。

木を切り倒すのには必需品ですね

 

『ハハハ、いい武器だね!ブイモン君もなかなかいいものを作るじゃないか!』

 

…それなんですけども。

ケンキモンがですね、ブイモンを遥かに上回る器用さで道具を作ってしまうものでして。

 

鍛冶作業もケンキモンがやるようになってますね。

 

『お、おぉ…』

 

…ブイモンは「オイラのいちばんがなくなっちゃった」と言ってました。

 

『…そうやって劣等感を抱いて悩めるのは、彼の長所だと思うがね』

 

私もそう思いますが…本人としてはそうでもないようで。

 

『ブイモン君の様子は?』

 

ワームモンと一緒に、デジクロスの練習に励んでますね。

「もうオイラにはこれしかない」と言っています。

 

『…あまり思い詰めないでもらいたいものだね』

 

もしも次にセキュリティデジモンが出撃する機会があったら、ケンキモンの戦闘力を試してみようと思ってます。

 

『…いいや、ダメだ』

 

え?

 

『最低2つ、デジタマを産ませてからだ。それが条件だ。それまでは、クラッカーデジモン討伐目的でのケンキモンの出撃は許可できない』

 

「な、なんでだよ?せっかく戦力が増したんだぞ!」

カリアゲがモニターへ詰め寄る。

 

『予期せぬ強敵の出現で、ケンキモン君が失われてしまうことは、我々出資者間の会議では容認できないリスクと判断されたんだ』

 

「そんなこと言ってたら勝てる相手にも勝てねえだろうが!今までの新たな敵との戦いで、コマンドラモンがどれだけ必須の立ち回りをしてたか知ってるだろ、スポンサーさん!」

 

『無論知っているよ』

 

「ならなんでだよ!」

 

『…我々出資者はね。無償でお金を配るおじさんじゃないんだ。出資した以上の利益を回収できる見込みがなければ、原理上出資ができない。それは分かるかね?』

 

「ま、まあ、分かるけどよ…」

 

『では君達の研究が今後事業として大きな利益を見込める可能性とは何か?それは君達のチームによるセキュリティ活動…では、ない。「セキュリティデジモンを開発すること」だ』

 

「…」

 

『ようやく今、コマンドラモンというマッシュモンに並ぶかそれ以上に強力な戦力を量産できる機会が整ったんだ。我々出資者としては、そのケンキモン君を前線に出し、デジタマを遺さずにロストしてしまう可能性は決して許容できない』

 

「…コマンドラモンがいなかったら…新しい敵との戦いで、敵わないかもしれねえぞ。全滅する前に退却はさせるけど…、クラッカーの被害にあった人を護れないかもしれねえだろ」

 

『そうだね』

 

「そうだねって…!」

 

『そのときは護れなくていい。そういうときもあるさ』

 

「それでいいのかよ…」

 

『いいとも!ケンキモンがコマンドラモンのデジタマを産めるようになるなら、たとえその一人を助けられなくても、のちのち数十、数百の人々を助けられるようになるだろう!ならば我々は後者をとるよ』

 

「…納得いかねえ…。また前みたいにクレカ会社とかが狙われたらどうすんだよ…」

 

『君達だけで抱え込まなくていい。ローグ・ソフトウェアだって君達のようにセキュリティデジモン開発をしているし、実績も出している。彼らが穴埋めをしてくれるだろう。…君達にくらべてか~な~り割高だがね』

 

あっちは割高なんだ…。

 

「…分かったよ。ケンキモンがデジタマ産むまで待てばいいんだろ。仕方ねえ…コマンドラモンの役割がなくても戦えるように、鍛錬あるのみだ!」

 

デジモン育成の方は任せたよ、カリアゲ。

 

「おうよ!」

 

『ケン君はこれからどうするのかね?』

 

私はここ最近はケンキモンの観察をしてデータを取っていましたが…

そろそろまた野生デジモンの観察に戻ろうと思います。

 

『そうか!基礎研究を頑張りたまえ』

 

さて…

久々に、デジタルワールドの野生デジモンを観察しよう。

 

この頃興味深いデジモンの出現が報告に上がっていた。

そちらを観察しに行こう。

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