暗い部屋の中。聞こえるギターの音色と、押し入れの中にいる背を向けている姉の姿。
……ああ、またこの夢か。
───どう、ふたり。学校は、楽しい?
「楽しくないよ」
───どう、ふたり。バイトは楽しい?
「楽しくないよ」
───どう、ふたり。バンドは楽しい?
「………楽しんで、ないよ」
───ライブのステージは、私の場所だったのにね。
「………」
───私から奪い取った場所で浴びる光は、心地良いね。ふたり?
「……大丈夫だから。有名になるために、仕方なくやってるだけだから……。
楽しんだり、しないから……」
───うん。信じるよ、ふたり。でも、罰を与えなきゃね。
「……罰?」
───うん。動画の私が遺したコメント。あれ消しといて。
「嫌だけど?」
───え?
「え?」
鳥の鳴く声で、ふたりは目を覚ました。
少し、頭痛がする。頭を軽く振りながら、ノートを見た。
作詞のノート。前のミーティングで、なんやかんやで自分が作詞する事になったのだ。
「………楽しんで、ないよ」
ポツリと呟き、パソコンに目を向ける。
そこには、検索した売れ線バンドの歌詞。
「……」
ギターヒーローの動画を適当に開く。
『最近始めたライブスタジオでのバイトが楽しい~!
早くも後輩にお仕事教えたりとか忙しくなってきた!
今回は推しアーティストが一緒で仲良くなった友達から教えてもらった曲、弾いてみた!
ソロでミスったのはご愛嬌!』
「………」
まぁ、気持ちは解る。
しかし、これを消すなんてとんでもない。これだってある意味では姉の才能だ。
呆れの方が強かったが、最近では一周回って感心して来た。
バスケ部エースの彼氏とか、もう面白い。
後藤ふたりは押し入れから這い出て朝の空気を吸い込んだ。
あれから、最初のライブを終えた。
最近流行りの曲をやったライブ。やっぱり、本来の実力は出せなかったけれど。
でも、たの─────
「………ッ!」
違う、違う、違う………。
違うの……お姉ちゃん。
ピロリンと、スマホからロインの音が響く。
「………」
別に、嬉しいとかじゃないから。だから………。
「今日は、ふたりちゃん来れないってさ」
昨日の打ち上げとかしたかったんだけどなー、伊地知虹夏は少ししょぼくれる。
初ライブは、とりあえず無事に終わった。
お世辞にも良い出来ではなかったものの、それなりに盛り上がり良かったと虹夏は思う。
「MC滑ってたけど」
「うっさい」
盛り上がりの一番の要因は喜多ちゃんだろうなと思う。
彼女の友人が結構来てくれたのだ。流石は学年で人気の高い陽キャである。
それに、と虹夏はライブを思い出す。
最初の方は、相変わらず辛そうに後藤ふたりは演奏していた。
でも、終わりの方になると……その音は、確かに変化していた。楽しそうにしていたのだ。
ドラムというポジションで良かったと虹夏は思う。お陰で、あの子の変化がよく見れた。
この調子で、ライブを。音楽を、演奏を楽しんで欲しいなと、虹夏は思うのであった。