あれから少し時間が過ぎた。
後藤ふたりはSTARRYに向かいながら少し息を吐く。
そろそろ暑い季節になって来た。年中ピンクジャージだった姉は正気の沙汰じゃない。
自分は、戒めや決意。いろいろな事を忘れぬ為にとこのダサいピンクジャージを常に着ているが、常にキッチリ前もしめていた姉は、どんな理由があってこのジャージを身に着けていたのだろうか。
少し前に、歌詞が完成した。山田リョウはそれを気に入り、作曲にとりかかっているらしい。
作詞には、ふたりとしては思っていたより時間がかかった。
本気で書こうとすると、かなり難しい。姉もよく徹夜してまで作っていた事を思い出す。自分もやった。
我ながらあんなに熱中するとは思わなかった。姉の気持ちが理解出来て、ちょっぴり嬉しいなとふたりは思う。
あと、なんかへんなサングラス着けて踊り狂っていた事も思い出す。自分はやらなかったけど。
どんな心境でやったのか。これは理解出来なくていいやと、ふたりは思う。
「あ。ふたりちゃん、喜多ちゃん。おはよーう!」
STARRYに着くと、伊地知虹夏が笑顔で手を振る。
それに軽く手を振って返す。
それから少しして山田リョウがふらりと現れて。
「曲出来た」
そう短く言った。
「……え? かなり良くない??」
「……」
凄いなと、素直にふたりは思う。
こういうのって、ベースしかやってない人にも出来るものなんだろうか。
「ふたりの歌詞見てたらインスピレーション湧いてきて、結構捗った。いい歌詞だね、ふたり」
「……ありがとうございます」
少し、照れた様に微笑むふたり。
ふむ、と虹夏は思う。ここ最近、なんか知らない間にリョウとふたりの仲が進展していた。
喜多ちゃんがなにやら喚いているが、何かあったのかなと虹夏は考える。
前にリョウに直接聞いたところ、カレー奢ってもらったとの事だ。
つまり……どういう事だってばよ?
「諸君」
そこに、虹夏の姉である伊地知星歌が現れて。
「お待ちかねの給料だぞ?」
そう言って、フフンとドヤ顔で封筒を見せる星歌さん。
一万円。まぁ、嬉しくはある。ただ……。
「それじゃあ、虹夏さん」
どのみちノルマ代として消えるものだ。まぁ、お金あって特別何か欲しいわけじゃないので別にいい。
「ごめんね~」
申し訳なさそうに受け取る虹夏。
元々バンド活動をするためにやっているのだから問題ない。
ただ、アルバムやらミュージックビデオやら作るのにだいぶお金がかかるらしい。
家の距離的に、これ以上バイトを増やすのは流石にごめんだ。
まぁ、睡眠時間減らせば良いだけの話だが。後藤ふたりの命とは削る為にある。
「……よし、それじゃあ来月ライブ出させてもらえるよう、お姉ちゃんに頼んで来るね!」
あれ? まだ頼んでなかった?
「え?まだ頼んでなかったんですか?」
ふたりが思った疑問を、喜多が口に出す。
「だいじょーぶ!この前もすぐに出させてくれたし! ね? おねーちゃん?」
「は?? 出す気ないけど」
………温かい空気が、ピシリと冷えるのを感じた。
「え……あ、集客出来なかった時のノルマなら払えるよ……?」
「お金の問題じゃなくて、実力の問題」
「この前は出してくれたじゃん……」
「思い出作りの為にな」
「………」
胃が、キリキリする。ふたりとしては、すぐにこの場から立ち去りたくなって来た。
横目に喜多を見ると、心配そうにその光景を眺めていて、リョウはどこ吹く風といった感じ。に見える。
「お、お客さん盛り上がってたよ……?」
「あんなん仲良しこよしが集まっただけだろ。次も来てくれるの? あのクオリティで」
「……ッ」
「言っとくけど、五月のライブみたいなクオリティだったら出さないから。
一生仲間うちで楽しく放課後やっとけよ」
「…………ッッ!」
「なに? まだなにかあんの?」
「三十路なのにいまだにぬいぐるみ抱かないと眠れないくせに~~!!!」
バーカ バーカと捨て台詞と共に走り去る虹夏と、まだ二十九だ!! と 怒る星歌。
そこに、山田リョウがすかさず星歌に向けて歩を進める。
頼もしき先輩の後ろ姿だ。何か、言ってくれるのか。
「ぬいぐるみって、これの事?」
「………──ッ!消せ!今すぐ消せ!!」
何か言ってくれたというか、やってくれたというか……この状況をなんとかしてくれるかと思いきや、火に油を注ぐリョウ。PAさんもなにやらよって行き、あらカワイイとか言っている。
ふたりとしてもその画像にはちょっと興味があるが、そんな場合じゃない。
「あ、あの……」
喜多がリョウを連れて虹夏を追うのを見て、なら自分はとふたりは星歌に話し掛けた。
ライブ出来ないのは、困る。バンドにならない。
「ああ、ふたりちゃん。丁度いいや、虹夏に伝えてくれる?」
「……?」
話を聞くと、ようはちゃんとオーディション受けろ。身内特権に甘えるなと、そんな話だった。
そりゃそうだと、ふたりは安心した。
だからリョウさんは余裕あったのかもしれない。
ロインで場所を聞いて、とりあえず虹夏達がいる所まで着くと、虹夏はなにやら不貞腐れていた、
なんというか、明るくしっかりしたイメージがふたりにはあったので、こういう子供っぽい反応は新鮮に感じる。
とりあえず、星歌店長からの伝言を伝えると、拗ねてた顔から一変し笑顔になった。
「それにしても一週間後か~」
短いなとふたりは思う。実際、自分と喜多ちゃんが弱い。
「二人の分はオケ流しとくから、当て振りの練習だけちゃんとしといて」
「え……わたしだけ?」
「……ふたりと郁代の分は流しとくから」
「コラコラ、そんな事しない──って、喜多ちゃんどうしたの!?」
「い、い、いくよって、だ、誰の事ですかねー」
どうやら、自分の名前が好きでなかったらしい。滅茶苦茶狼狽えた喜多ちゃんの姿がそこにあった。お姉ちゃんみたいな顔になってる。
「きたー!いくよー!……って、駄洒落かーい!あはは!」
そして暴走していく喜多ちゃん。
それを楽しんでいる山田や、巻き込まれないようにと距離をちょっととるふたりを見ながら、結束してよー!と虹夏は叫ぶのだった。