ギターヒーロー二代目【完結】   作:怒雲

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キリトリ線で区切れた君の世界

 

 

「……はぁ」

 

伊地知虹夏は少しタメ息をついた。

 

「さっきのロイン、まずかったかなぁ~」

 

 

 

 

『大丈夫です。絶対売ります今日売るために頑張りますのでいげませんすみません、必ず売るので心配しないて下さい、絶対大丈夫です、今日で裁きます必ず』

 

 

 

 

 

所々誤字りまくったロイン。ふたりちゃん、だいぶ繊細だから追い詰めてしまったかも……。

 

「……裁くって、ちょっと面白いね」

 

誤字を見て笑う山田リョウに対し、そだねー。と虹夏はやんわり笑う。

 

「カレー代をいまだに返さない、どっかの青いベーシストに対する思いがそう誤字らせたのかもねー」

 

「……いや。まさか、そんな」

 

思いあたる節があるらしい山田を見ながら、やれやれと虹夏は呆れ呟く。

 

 

「……ねぇ喜多ちゃん。ふたりちゃんって、学校でどんな感じ?」

 

以前、一度聞いた事はあるが。

 

あの日と今では、見える景色は違うはずだ。

 

 

「そう……ですね。以前話した通り、基本的に独りでいますね……話し掛けられたら、笑顔は見せてくれるんですけど、その……」

 

「接客で見せる感じのやつ?」

 

リョウの言葉に、喜多は頷く。ふたりは、営業スマイルは完璧だ。

 

「やっぱりみんな、壁を感じるみたいで……だんだんと、誰も話さなくなってるみたいで……あ、嫌われてるわけじゃないみたいですよ?」

 

嫌われていない、という話に虹夏は胸を撫で下ろす。

 

 

「みんな、後藤さんと仲良くしたいみたいで……私は、どうやって仲良くなったの? とか、よく聞かれますしね」

 

苦笑混じりの言葉に、そっか、と虹夏は笑う。

 

 

それからスマホのロインを見た。

 

『無理しなくていいよ! 私も、喜多ちゃんもいるから頼ってね!(リョウもいるけど)』

 

 

というロインに対し、既読すら着かない。

 

 

「……ふたりちゃん、大丈夫かなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いえ~い!これが私のマイベース!

スーパーウルトラ酒天童子EX!かっこいいでしょお!」

 

 

大丈夫じゃなかった。現状彼女は、アル中の不審者(職業不明)に絡まれている。

 

「あ、はい」

 

なんでこんな状況になってるのだろうかとふたりは思う。

 

廣井きくりと名乗った、赤紫髪の酒カスは、自分のベースを掲げながら、昨日のライブも大活躍だったんだよ!とか言っている。

 

 

 

話によると、この酒クズはどうやら、ライブの後の打ち上げで飲みまくり、その後も半分意識なしで呑み耽り、気付いたら全然知らないここに来ていたらしい。

 

ここはどこ私は誰状態だそうだ。

 

 

 

「……そんなになるまで飲んじゃダメですよ」

 

呆れ半分、心配半分にふたりは言う。

 

なにせ今現在。まだ酒飲んでいるからだ。絶対早死にすると、女子高生から見ても解る呑みっぷりだ。

 

 

「だって、お酒を飲んだら嫌な事ぜーんぶ忘れられるからねぇ」

 

 

幸せスパイラルの説明を始めるきくり。ふたりから言わせてもらえば、幸せとは名ばかりである。

 

完全完璧に負のスパイラルだ。

 

 

「そう言えば、ふたりちゃんはなにしてたのぉ?」

 

 

「あー……えーと」

 

一応、バンドマンなら事情も分かるだろうと説明するふたり。

 

あわよくば、さっきの水と味噌汁のお礼に買ってくれないかと思うが、金持ってそうに見えないので望みは薄そうだ。

 

 

 

「うっ…ぐすっ、ふたりちゃんは悲劇の少女だったのかぁ」

 

まるでマッチ売りか何かを見るような目をする廣井きくり。

 

ええ。だから忙しいので帰ります。

 

 

 

そう言おうとした矢先、彼女は立ち上がった。

 

 

「よ~し。命の恩人の為に、お姉さんが一肌脱いであげよう!」

 

そう言って、本当に上着を脱ぎ出すきくり。

 

 

「えっ、ちょ……は?」

 

突然なんだこの人。ふたりは思う。

 

生憎だがノンケのふたりは引き気味だ。

 

 

 

「今からぁ。キミと私でぇ……ここで路上ライブをやるんだよ!」

 

「………路上、ライブ?」

 

 

……ああ、成程とふたりは思う。いや、でも脱ぐ意味は?

 

「ビラとかあったら良かったんだけどぉ、ん~まぁ!今日はお祭りあるし人多いし!

なんとかなるっしょ~!」

 

そう笑ってまた酒飲むきくり。

 

「あ、でも機材何もないですよ?」

 

「だいじょぶだいじょぶ~。あ、もしもし、私ぃ~

生 き て ま ぁ す !

今からライブやんだけどぉ~」

 

 

 

 

そんなこんなで、あれよこれよと機材が運ばれて来た。

 

運ばれて来る前に、ギターケースにいれていたライブ用の楽譜等を見せつつ、路上ライブって許可とかとらなくて大丈夫なんだろうかとふたりは思う。

 

 

「金沢八景のみなさぁん!今からライブやりまぁす!」

 

元気に宣伝するきくりを横目に、大丈夫だろうかこの人とふたりは思う。また酒飲んでるし。

 

 

ふぅ、と息を吐く。緊張はするが、やれる。

 

 

わたしは音の奴隷。いつも通り、必死にやるだけ。いつも通り。

 

 

「…………」

 

「さて、始めるけどその前に~」

 

 

 

ニヤケていたその目から、ふざけが消えた。

 

 

「一応言っておくね。今、君の目の前にいる人達はちゃんと君の前にいるんだ。

それと、敵なんていない。だから、勝ち負けなんて存在しない」

 

そう言って、慣らすようにベースを鳴らす。

 

「そこを理解しなよ?」

 

「………?」

 

 

 

………よく、解らない。当たり前の事にしか聞こえない……けれど……

 

 

さ、弾くよ? と優しく声をかけられて……路上ライブは始まった。

 

 

 

始まってすぐに、気付く。

 

 

この人───上手い。

 

確かに、ミスはある。当たり前だ、この人はさっき楽譜をちょっと見ただけだ。酒を呑みながら。

 

初めてやる曲で、ちょっとのミスもないはずがない。

 

 

だが……彼女はそんなもん、なんのその。即興でアレンジをしつつ違和感を消している。

 

違和感を消している。それで完璧にふたりの演奏を支えていた。

 

 

バチとゲタのベーシスト。廣井きくり。

 

 

挫折と苦悩を知る天才。百戦錬磨の大ベテラン。

 

 

 

 

ちょっとの演奏で、ふたりは心を奪われそうになる。

 

本気で上手いと思ったのは。姉以外では初めてだった。

 

 

 

 

「………ッ」

 

 

負けるもんか。

 

 

わたしだって、ギターヒーロー二代目を名乗ってるんだ。

 

別のバンドの人に、聞き惚れる訳にはいかない。負ける訳にはいかない。負ける、もんか。おねえちゃんの名前を汚さない。

 

 

負けない。負けるもんか。────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「頑張れ~!」

 

 

 

 

 

 

────…………。

 

 

「ちょっとあんた何言ってんのよ?」

 

「なんかギターの人、辛そうだったからつい……」

 

 

「…………」

 

演奏をしながら、ふたりは初めて顔をあげた。心をあげた。

 

 

 

今まで動画サイトにあげて、感想すらろくに見てなかった。精々、ちゃんと二代目として恥ずかしくないかどうかの確認くらいだった。

 

初ライブの時も、ただ弾く事ばかりで観客の顔なんて見なかった。強いて言えば、ソロでない演奏は新鮮だと思ったくらいだ。

 

 

 

 

 

 

ちゃんと、そこにいる人達。

 

心配してくれている人。笑顔で聴いてくれている人。

 

 

 

 

目の前にある。確かな人の温もり。

 

 

 

 

 

孤独な音の奴隷としては、決して見えなかった景色。

 

 

 

 

 

「………!」

 

 

弾き方が、変わった。まだぎこちないが、姉のトレースではない。

 

今まで無理矢理押さえ付けて来た、後藤ふたりとしての弾き方。

 

 

 

 

 

 

───そっか。夢中になったんだね、ふたりちゃん。そっかそっか、本当はそんな風に弾きたいんだ。

 

 

廣井きくりは微笑む。

 

 

───どう? 演奏って素敵でしょ? ライブって楽しいんだよ。

……でも。君は多分、今日が終わればまた、その気持ちに蓋をするだろうね。

 

 

 

 

──でも、今はまだきっと、それでいい。忘れないでね、今のその気持ちを。そうすれば、何時かきっと………。

 

 

 

 

 

 

きくりは、静かに空に視線をやった。

 

 

 

──ねぇ。ねぇ、ひとりちゃん。何処かで、見てくれてる?

 

この子、とても良いよ。欠点の克服には時間がかかると思うけど、必ず上がってくる。

 

 

 

………君の妹だからとかじゃないよ!この子がこの子だからだよ!私の勘は当たるんだ!

 

 

───だからさ。何処かで、見守ってあげてね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───ありがとう。きくりちゃん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────え?」

 

 

 

懐かしい匂いがした。……気がした。

 

 

愛しい風が吹いた。……ような。

 

 

 

雑踏の中。いるはずのない面影をきくりは探す。

 

 

そして……当たり前の結果に少し苦笑しながら、きくりはベースに視線をやった。

 

 

 

少しばかり、心臓の音は乱れたが。最後まで彼女のベースが乱れる事はなく……演奏は、終わった。

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