ギターヒーロー二代目【完結】   作:怒雲

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茜音色

 

 

 

肩で、息をする。空色の瞳は、夕焼けの茜色を映していた。

 

 

「…………」

 

心が、昂っている。

 

もう、随分と長い事感じなかった気持ち。

 

胸が、踊っている。

 

もう、随分と永い事忘れていた感情。

 

 

あの日からずっと……蓋をしていた想いが、溢れだしていた。

 

 

 

 

「……───ッ」

 

ダメだ。蓋をしろ後藤ふたり。その気持ちになっちゃダメ。お前は───

 

「ふたりちゃあん!」

 

 

「うわっ!」

 

いきなり肩を掴まれてふたりは驚く。

 

「いえーい!良かったよぉ!」

 

「あ、ちょ、離し……」

 

 

酒臭い!しかめっ面になるふたり。

 

まったくと呟き。酒カスから離れながら……見てくれた人達を見た。

 

 

 

みんな、笑顔。聴こえる拍手の音色。

 

 

 

「…………」

 

 

………いい、のかな。ちょっと、くらい。

 

……今回だけ。今回だけ、だから。明日からは何時もの後藤ふたりに戻るから。

 

音の奴隷でいいから。だから……。

 

 

 

 

「あの~すみません」

 

「チケット、買っていいですか?」

 

「二枚下さい!」

 

 

「え、あ……」

 

「……ありがとう、ございます」

 

少し呆気にとられつつ、ふたりは二枚のチケットを取り出した。

 

「その、いいんですか?」

 

「もちろん!初めて生でライブ見たけど、すっごく良かったです!」

 

「今度のライブも頑張って下さい!」

 

「さっきの曲もやりますか?」

 

「……はい。やりますよ」

 

 

きゃぴきゃぴした様子を眺めながら、良かったね、ふたりちゃんと心の中で呟きつつ……廣井きくりは相棒(おにころ)を取り出す。

 

 

「こんなキラキラした時代が、私にもあったはずなんだけどなぁ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あ、その……ふへへ。や、やった、です、ね……きくりちゃん』

 

『あ、う、うん。ありがとう、ひとりちゃん』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、廣井さん。今日はありがとうございまし───って、まだ飲むんですか……?」

 

 

しかも、何故かちょっと泣いてる。

 

 

「ごめんごめん!すぐ幸せスパイラルキメるからぁ~!」

 

 

今夜はやけ酒だぁ~!と叫ぶきくりに、なんで……!? とふたり。

 

 

 

「すみませーん! ここでのライブはやめてくださーい!」

 

と、警察の介入によりその場はお開きとなった。

 

 

 

 

 

 

 

日もすっかり落ちて来た。遠くに、花火が上がる。

 

「……あと、一枚か」

 

さて、どうしよう。残り一枚くらいは、なんとかなるかな……?

 

 

 

 

 

「最後の一枚。私が買うよ?」

 

振り返ると、花火の光に照らされながら優しく微笑む廣井きくりの姿。

 

「それで、ノルマ達成でしょ?」

 

「……いいん、ですか?」

 

 

こういってはなんだが、この人は本当に凄い人だ。

 

見せられるだろうか。この人を満足させられるライブを……。

 

 

「もちろん! はい、お金。……おにころ五本分以上のライブ期待してるよー」

 

「……急に安っぽく感じますね」

 

苦笑混じりに言って、チケットを差し出す。

 

 

 

 

………もしかしたら。さっき感じた戸惑いを察してハードルを下げてくれたのかもしれない。

 

「ばいばーい、ふたりちゃーん。またライブしよーねー」

 

そう言って去って行く彼女の後ろ姿に手を振って、ふたりもまた身を翻した。

 

 

なんというか……不思議な人だった。優しい人だった。

 

そして、凄い人だった。演奏の実力も。

 

 

 

大人のバンドマン………かっこいいな。

 

歩きだそうとして、あれ?とふたりは思う。

 

そう言えば、名前を名乗ったっけ?

 

 

 

 

まぁいいかと歩き出したその瞬間。

 

 

「待って待ってぇ~!」

 

 

 

声に振り返ると、Uターンして来たらしい廣井きくりがそこにいた。

 

 

「どうかしたんですか?」

 

小首を傾げる。忘れ物でもしたのだろうか? それとも、何か言いたい事とか?

 

 

 

 

 

 

 

 

「チケット買ったら帰りの電車賃なくなっちゃったぁ~!……お金貸してぇ!」

 

 

「………───」

 

脳裏に浮かぶ、草が主食の青いベーシスト。

 

 

「ごめんねぇ、ライブの時に返すからぁ~!」

 

死んだ魚の如しその眼で、後藤ふたりはお金を手渡す。

 

 

なんというか……この人もあの人も、なんで素直に尊敬させてくれないのだろうかとふたりは思う。

 

 

 

…………というか、ちょっと良い面を見ただけで尊敬しそうになる自分は、もしやちょろかったりするのだろうか。

 

 

 

「あ、そうだ」

 

 

ロインを送る。チケット売れましたと。

 

 

「…………」

 

花火に目をやる。明日からはまた、何時ものわたしだ。

 

でも、今だけ。もう少しだけ、この余韻に浸っていたい……。

 

 

 

遠くで大きな花火がうち上がり。そして消えて行く。

 

少しばかり、後藤ふたりはそこに残ってその光景をしばらく眺めているのだった。

 








ちょっとした捕捉シリーズ

廣井きくり

みんな大好き、ぼざろが誇るアル中ベーシスト。
25歳。ちなみに、ひとりは生きていたら27くらいである。
この世界線だとひとりの方が歳上であり、本編と違い立場が逆だった模様。
ひとりがいなくなった為に酒の量が増えた……とかはなく、本編となんら変わらない生まれついてのアル中である。

ただ、ひとりは彼女のライブを見る事は出来なかったと思われる。
ひとりのバンドメンバーだった人達とは今でも交流があるらしい。



ついでにちょっとした後書き

見てくれている方々。ここ好き、高評価、感想を書いてくれる皆々様。生きる気力、頑張る力をもらっております。この場を借りて感謝です!ありがとうございます!
よろしければ、これからもお付き合いよろしくお願いいたします!
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