──りちゃん! ───ふたりちゃん!!
「後藤さん!生き返って!」
はっ、と後藤ふたりは息を吹き返した。なにか、よくない夢を見ていた気がする。
……まぁ、寝たらだいたい悪夢だし。今回も悪い夢を見ただけだよね。
そう思い直した視界に映る、横断幕と変な格好でクラッカーを鳴らす両親の姿。
…………あれれー?おっかしいぞー?
夢ならそろそろ覚める筈だ。
『ジャスト一分だ。――悪夢(ユメ)は見れたかよ?』
なんて言って、ウニ頭のかっこいいお兄さんとか出てきても良い頃合いのはず。
「ささ、入って入って」
両親に歓迎される虹夏と喜多を見ながら、おかしいなと現実逃避をやめないふたり。案外、往生際が悪い。
「いやぁ、ふたりちゃんがお友達を連れて来るなんて……何年ぶりかしら?」
「今日はお友達記念日だね!」
おいばか、やめろ。ふたりは思う。
姉の時も似たような事を言っていたことをふたりは思い出す。
あの時は自分もはしゃいでいたが。
「……お母さん、お父さん。今日はその、遊びに来たわけじゃないから……」
だからまず、その変なタスキと星形サングラスを外して欲しい。
ちなみに、どちらも姉の遺品だ。
ふたりの言葉に、解ってる分かってると、親指を立てる両親。一体全体、なにを理解(わか)っているというのか。
「……っていうか、なんでわたしの制服着てるの?」
四捨五入して五十になる母に尋ねてみた。ちなみに、制服も姉のお下がりだ。
「だって、ひとりちゃんもふたりちゃんも全然着てくれないでしょ?
それに、お母さんだってまだまだいけるわ」
なにがいけるというのか。
「セーフよセーフ」
いいや、アウトだ。
(主婦+世間-娘の制服)×年齢=職質(アウト)だ。
光の中へ飛び出すな。
そんな両親とふたりを様子を眺めながら、苦笑しながらも虹夏と喜多は視線を交わし、安心したように笑う。
素敵な両親……かはさておき、楽しい両親だ。
ふたりは、険しい顔こそしているものの、仲良しなんだろうなと解る。
ちゃんと温かなものがそこにあって。そして……後藤ふたりが、ちゃんと後藤ふたりであれる場所なんだろうなと、そう思えた。
………まぁ、歓迎の仕方は正直ちょっと引いてしまったが。
「……とりあえず、わたしの部屋に行こっか」
昼食の準備に取り掛かる両親を一瞥し……後藤ふたりは先頭を歩く。
とりあえず部屋まで行けば大丈夫だ。わたしには、あの場所(自室)があるからいいんだよ。
扉を開く。電気は消えている。
しかし、部屋から溢れ出す色とりどりな光の粒。
喜多は不思議そうに。虹夏は怪訝そうに。
「……───ぎょっ!?」
そしてふたりは全力で驚愕した。
出掛けて迎えに行くまでの、それほど長くもない時間。
その間に、自分の部屋が魔改造されていたのだ。
まず目に付くのが真ん中に設置されたミラーボール。
壁にはwelcomeの文字やらなんやら。
風船とかも飾り付けられている。
「あ……えっと」
落ち着け虹夏。彼女は思う。
多分、というか間違いなく、今一番ダメージを受けてるのはふたりちゃんだ。
どうでもいいけど、驚いた時に『ぎょっ!?』って口に出す人初めて見た。
「……わぁ。なんか、嬉しいですね!こんなに歓迎されてるなんて!」
喜多ちゃんの優しいフォロー!しかし、それは今のふたりにはダメージだ!
というか、この状況ではなにをやってもダメージだろう。
「はっ、はっ、はっ………ファー…ブルスコ…ファー…ブルスコ…ファー」
「ふ、ふたりちゃん、顔とかいろいろやばいって……!」
すでにだいぶSAN値を削られているふたり。二人が家に着いてから、十分も経たずにこのダメージである。
「……あ、飲み物持って来ますので、適当に寛いでいて下さい……あ、あとその邪魔な風船はてきとーに割って遊んでて下さい……」
そう言って、ふらふらとふたりは一階へと降りていく。
それを苦笑混じりに見送って、改めて部屋の内装を見た。
「いやぁ……それにしても、凄い飾り付けだねぇ~」
「本当ですねぇ」
あの陽気な両親がやったのだろう。ふたりの反応から見るに、迎えに行って帰って来るまでの短時間で。
しかし、と思う。親がやったであろう飾り付けを除くと、わりと殺風景な部屋だ。必要なものしか置いてなさそうな感じである。
………だからこそ目に着く。マンゴー仮面って、なに?
変な段ボールのオブジェを二人は見る。
これも、両親の飾り付けなのか。それとも、はたまた別のなにかか。
「それ、姉のです」
いつの間にか戻って来たふたりが告げる。
「初ライブの時と、なんかのライブの時に使ったみたいで」
「……使ったの!?……これを!!?」
なんに使ったのだろうかと喜多は思う。
「………」
死んだ魚の眼で、淡々とテーブルにコップを置くふたり。
ミラーボールの明かりを切って、部屋の電気を点ける。
それから、用意されていた謎のツイスターゲームを片付けてから、ふたりは座った。
まだ今日は始まったばかりだ。
とはいえ、流石にこれ以上ヤバい事は起きないだろう。少なくとも、初手が強すぎて感覚も麻痺してきただろうから何が起きてももう大丈夫だ。
「それじゃあ、始めましょうか?」
「あ、うん。そだねー」
目を游がせながらも虹夏が座り、喜多ちゃんも座った。
そうしてようやく、Tシャツのデザインを考えるという本来の目的にとりかかる事が出来たのだった。