ライブで使うTシャツのデザイン。
確かに、みんな同じ格好の方が映えると思う。お姉ちゃんのバンドも、ライブ用のTシャツ作ってたなとふたりは思う。
しかし、いざ描いてみようとすると思い付かない。
うーんとふたりが頭を抱えている間に、できました~!と喜多ちゃん。
なんというか、体育祭とかでみるようなやつが出てきた。積極的に、ああいうのを作っていたりするのかもしれないなとふたりは思う。
「優勝って何!?」
そんなのないけどとツッコミ虹夏と、ノリですよと喜多ちゃん。
あの服はどうかと思うが、描けていない自分に批判する権利はない。
そういえば、お姉ちゃんは体育祭とか嫌いだったな。自分も好きじゃないけど。
「ふたりちゃんは何か描けた?」
「……描けました、けど……」
自信無さげにふたりは見せる。
「……おー。うん、可愛いけど……」
ポップな犬の足跡やらが描かれたTシャツ。そこに、ロックバンドらしさはない。
「結構難しいですね……お姉ちゃんが描いたやつは、バンドメンバーの人達には絶賛されてたけど……」
「えっ、そうなの?」
ギターヒーローさんが描いたライブTシャツ……。
「……それ、残ってたりしない? ちょっと、見たいんだけど……」
「ありますよ。基本的に、お姉ちゃんのは全部遺してますので」
そう言って立ち上がり、棚の方へと向かう。
「わたしはあんまし好きなデザインじゃないですけど……」
「そうなの? うーん、でもメンバーの人達からは好評だったんでしょ?」
わくわくしながら、初代ギターヒーローの遺したデザインを拝見する虹夏と喜多。
───ダッッッッッッセェェェッ!!!!
そして驚愕した。
ふたりは、虹夏と喜多の表情からいろいろ察する。
「……え、これバンドの人らには好評だったって事は……」
「これ、採用されたの……?」
恐る恐ると尋ねる二人に対し、首を横に振る。
「あ、採用はされなかったんだ」
「はい。それで行くつもりだったけど、ファスナーやらチェーンでお金かかるから、泣く泣く不採用という形になったみたいで」
「…………そっか!」
としか言いようがなかった。
そこに、両親から声がかかる。どうやら、昼食が出来たらしい。
既に良い香りが漂って来る。両親のはしゃぎっぷりから察するに、下はホームパーティーとなっている事は理解出来た。
「やっほー、ふたりちゃん」
予想外なのは、姉のバンドでかつてギターボーカルやってた人がいるくらいか。
「……お姉さん、なんでいるんですか?」
「ふたりちゃんがバンド組んで、しかもメンバーが遊びに来ると聞いて飛んで来ました!」
察した。ふたりは思う。部屋の飾り付けはこの人も手伝ったに違いない。
そう言えば見掛けなかった犬のジミヘンを見るに、部屋の飾り付けを終えた後は親のかわりに散歩していたのだろう。
「ささ、座って座って」
父が促して、それぞれ座る。
「……ん? んん?ねぇ、キミ。もしかして、星歌さんの妹さん?」
お姉さんはそう尋ねた。主に、頭のてっぺん辺りを見ながら。
「え? はい。おねーちゃんの知り合いなんですか?」
「うん。ひとりちゃんとバンドしてた頃の、まぁ、気持ちライバルみたいな関係だったからね」
「………え」
それはふたり的にも初耳である。
「……じゃあ、店長……星歌さんって、もしかしてお姉ちゃんと知り合いだったり……?」
「店長?……ああ、バンドやめてライブハウスやってるんだっけ? 知り合いも知り合いー。
いやぁ、しかし……ひとりちゃんの妹と、星歌さんの妹が一緒にバンド組むとは……」
なんだかおばあちゃんになった気分だよと、勝手に沈むお姉さん。
「……」
虹夏としても初耳だ。一言だって、そんな話聞いていない。
まさか───ふたりちゃんの事、気付いていない??
そんな筈はないけどなぁ、と思いつつ、帰ったら聞いてみようと思う虹夏と、今度バイトの時に聞いてみようと思うふたり。
「さて、私はそろそろ帰るかな」
少ししてからお姉さんは立ち上がり。
「ごめんねふたりちゃん。ちょっと、近くまで付き合ってくれない?」
「………」
ああ、成程。そういう事か。
少しタメ息混じりに、いいですよと立ち上がる。
「あ、そうだ。その前に──喜多ちゃんだったっけ?同じギターボーカルだった者として、最高にロックなパフォーマンスを教えて──」
「さぁ、行きましょうかお姉さん」
余計な事する前にご退場願おう。
おっとりして見えるこの人は、ライブで全方位に中指立てたり、マイク投げ付けたりするような人でもある。
キラッキラの笑顔で観客に向けて、汚いハンドサインをする喜多ちゃんの姿が頭に浮かんだが、そんな未来は来なくて良い。
そうやって出ていく二人を見送って……両親は目を合わせて、少し息を吐く。
「ごめんなさいね、バンド活動をちょっと邪魔しちゃって……」
「それでも、ふたりについて……いろいろ聞いたり、話したい事があったからさ」
真面目な口調の二人を見て、虹夏も少し姿勢を正した。
なんというか、不自然な形で娘を外に出したのだ。そういう話なのだろう。
……きっと、重い話なんだと思う。
でも、聞いておくべき事なんだと、覚悟を決めた。