ギターヒーロー二代目【完結】   作:怒雲

27 / 99
ギターヒーローの夢

 

ぐちゃぐちゃの心のままに、ふたりは準備をする。

 

本来ならば、虹夏、喜多、リョウの誰かが、ふたりの不調に気付けただろう。

 

 

しかし……今回は、誰もその余裕がなかった。

 

 

 

 

全力で滑るMC。ここも、仕方ない。なんにせよ、ふたりにはろくに聞こえていない。

 

 

 

 

───あれ? わたし……考えてみたら、なんでギターなんて弾いてるんだっけ?

 

ふと思った。

 

一曲目が始まる。一心不乱。やるにはやった。

 

酷いものだった。音の奴隷にすらなれない、無様な音色。

 

 

ふたりは、もう分からなくなっていた。

 

 

 

ギターを弾くのは、姉のため。姉のため? それが、なんで?

 

ギターヒーローの真似をどれだけしたって、本物になんてなれない。解ってる。

 

本物の宣伝に、なるの?

 

 

終わった物語を続けるなんて不可能だ。

 

じゃあ、なんで?

 

……ただ、生きる理由が欲しかっただけじゃないの?

 

わたしは、姉の為に生きてます。だから許して下さい。

 

わたしは、楽しみません。だから赦して下さい。

 

 

 

 

みんなとっくに許してくれてる。じゃあ、誰に?何に赦しを乞うの?

 

………結局、何がしたいのか。どうしたいのか解らない。

 

きっと、わたしは。八歳の頃から、なにも成長していなかったんだ。

 

あの頃から、なにも………。

 

 

 

 

一曲目が終わった。あと、二曲。

 

 

 

 

 

「やっぱ全然パッとしないわぁ~」

 

「早く来るんじゃなかったね~」

 

 

 

 

…………。

 

 

 

 

本当に、最低だ。本当に、無力だ。

 

なにがどうしたいのか。

 

 

 

………解ってるよ。最初から。お姉ちゃんが助けてくれたから、わたしは生きてる。

 

なのに、こんな顔でステージに上がるなんて……お姉ちゃんが見たら、悲しむって事くらい。

 

 

 

でも、どうしたらいいか、わからなくて。この気持ちを、どうしたらいいか。

 

 

 

 

 

 

「喜多ちゃん!次の曲紹介しなきゃ!」

 

 

こんな状況でも。表面だけでも明るくあろうとする、虹夏の声が耳に届いた。

 

 

 

……本当に最低だ。みんなにも、迷惑をかけて。

 

間違いなくわたしが。一番中途半端な理由でバンドをしている。

 

 

 

───こんな時、お姉ちゃんならどうするんだろうか。

 

 

 

わからない。自分には、なす術がない。

 

 

……この状況が、自分への罰ならばそれはそれでいい。

 

 

でも、結束バンドは何も悪くない。誰か、誰か助けてほしい。助けて、助けて……。

 

 

 

 

……辛いよ。だれか、助けて……。

 

 

 

 

 

「………お姉ちゃん」

 

 

ふと呟いて。涙が零れないように瞼を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───じゃあ、今回だけ。ちょっとだけ、ギター借りるね、ふたり?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっと、次も私達のオリジナル曲で───」

 

 

喜多が言い終わるその前に……彼女の真横で、猫背の虎が雄叫びを上げた。

 

 

 

 

 

 

誰もの目が……心が、ステージに向く。雷鳴を撃ち鳴らすかのようなギターの音に。

 

 

 

壁際で眺めていた星歌と、同じ場所で優しく微笑みながら観ていた廣井が、目を見開いた。

 

 

星歌は驚愕の表情を。廣井は、酔いが覚めた顔を。

 

 

 

別に、突然上手いギターソロが始まっても、この二人はそこまで驚きはしなかっただろう。

 

いや、レベルによっては驚きこそするかもしれないが、ここまで心が乱れる事はなかったはずである。

 

星歌はドヤ顔をし、それを廣井が写メをとる。なんて事をするくらいの余裕はあったはずだ。

 

 

 

 

 

 

……違うのだ。ステージに、有り得ない人物がいる。

 

 

 

「後藤………」

 

「………ひとりちゃん?」

 

 

死んだ筈の人間が、ステージにいた。

 

 

 

 

 

 

 

明らかに。文字通り憑かれたかのような演奏に、三人はあっけにとられていた。

 

 

 

 

 

──虹夏ちゃん!

──リョウさん!

──喜多ちゃん!

 

 

 

 

 

 

聞こえない筈の声が聞こえて、弾かれるように演奏を始める三人。

 

 

 

こうして、『結束バンド』の演奏が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふたりは、夢を見ていた。何時の頃だったか──初めて楽器を手にとった頃の夢。

 

初めてのタンバリン。嬉しくて楽しくて、何度も練習してたっけ。

 

抱えたまま寝ちゃったり……。

 

先生に誉められて、嬉しくなってもっと練習して……。

 

楽器って、楽しくて……。

 

ああ、わたしって。ちゃんと音を楽しめてたんだ。

 

それさえも、自分で汚してた。

 

『ねぇねぇふたりちゃん』

 

『さっきの、ふたりちゃん少しだけ速かったから……今度は、もうちょっとゆっくりがいいかも…』

 

『………』

 

『ふたり……はやくないよ……。いっぱい練習したもん……』

 

『うぅん、ちょっと速かったよ』

 

『はやくないもん……たくさん練習したもん』

 

 

そう言って、泣き出した。ああ、この頃からなにも変わってないんだ。

 

それから悲しくなって、練習やめて、ずっと泣いて……。

 

 

 

 

 

 

ギターの、キラキラ星が聴こえた。お姉ちゃんが、わたしと一緒に演奏する為に、練習してくれたんだ。

 

懐かしいな……。

 

 

『とぅいんくるとぅいんくるりとるすたー』

 

『とぅいんくるとぅいんくるりとるすたー』

 

 

 

 

『大丈夫。音楽は、頑張ってる人を絶対に裏切らないよ。明日、応援いくから』

 

 

そう言ってくれて。あの子と仲直りして。

 

 

 

………大好きだったお姉ちゃん。

 

そうだ、あの日からだ。

 

元々大好きだったけど。

 

 

 

『うん!ふたりのほしが一番輝いてたよ』

 

 

 

この日から──お姉ちゃんは、わたしにとってのヒーローになったんだ。

 

辛い時に、道を探してくれる……普段はアレだけど、絶対に助けてくれるヒーロー………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──目を開けて。これは、ふたりのライブだから。

 

 

 

 

 

ハッと、目を見開く。

 

 

後は頑張ってと。優しい声が聞こえた気がした。

 

 

 

「お姉ちゃ──!」

 

 

振り返ると、笑顔の虹夏。

 

微笑むリョウと、楽しそうな喜多ちゃん。

 

 

 

「あ………」

 

観客達も、笑顔になっていた。

 

 

 

 

ぐっと、ギターを握る。その心は、タンバリンで演奏した、あの頃のようだった。

 

 

「それでは三曲目、行きまーす!」

 

 

 

ギターを弾く。……今は、考えるのをやめよう。

 

幸せなこの気持ちで。優しいこの気持ちで。

 

 

 

 

 

結束バンドの演奏が始まり、終わる。

 

 

 

 

 

 

「ちょっと、いいじゃん……」

 

「ね……」

 

舞台から降りる時。そんな声が、耳に届いた。

 

 

椅子に座って、机に身体を預けて。ふたりは少し、目を閉じた。

 

今のは、なんだったんだろう?

 

わからないけど……今は、優しい気持ちで。少しだけ、眠る。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。