ギターヒーロー二代目【完結】   作:怒雲

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時よ動け。お前は美しい。

 

こうして、ライブは終わった。

 

後藤ふたりは、少しだけ眠った後、居酒屋にいた。

 

 

ライブの打ち上げである。伊地知星歌の奢りだそうだ。まぁ、未成年なので酒は呑めないが。

 

 

近くにいる酔っ払いも奢って貰う気満々だが、コイツは自腹である。当たり前だよなぁ?

 

 

 

未だに、ふたりは夢見心地で妙な気分だった。

 

心が宙に舞うような、ふわふわした気分。

 

 

しばらく料理を食べる。少食になってしまった彼女にしては、何時もより多く食べた。

 

食べてる際に、なんとなく。少しだけ歯が痛い気がする。何処かにぶつけたのだろうか?

 

 

とりあえず満足出来た為に、外に出て空気を吸う。

 

星の少ない、夜空を見上げる。

 

 

 

 

 

 

 

──何も出来なかった。

 

 

今回のライブは、本当に自分は何も出来なかった。

 

一番、お荷物だっただろう。……なんで、ギターを弾くの?

 

 

 

立ち返る疑問。こんなにも自分が中途半端だとは思わなかった。

 

 

………いや、ずっと目を反らしていたんだ。

 

 

姉の為に。ではなく、姉のせいにして。

 

 

 

 

「……お姉ちゃん」

 

 

なのに、わたしを、助けて、くれたの……?

 

 

 

 

「あ、ふたりちゃんここにいたんだ」

 

ふと声をかけられた。そちらを向くと、虹夏の姿。

 

 

「虹夏さん……」

 

「や、ふたりちゃんの姿が見えなかったから、どうしたのかな~ってさ」

 

何時も通り、朗らかに彼女は笑う。

 

「………ごめんなさい」

 

「……? なんでふたりちゃんが謝るのさ?」

 

「わたし、ライブでは全然ダメダメだったから……」

 

「ん~。しょうがないよ!……っていうか、みんなダメダメだったしさ。

だから、この話はおしまい!」

 

何かを言おうとしたら、人差し指を口に当てられて。そう言って遮られる。

 

 

一緒に並んで、少ない星を見る。

 

少しだけ涼しくなった、晩夏の風が吹いた。

 

「あのさ」

 

ふと、虹夏が口を開く。

 

「私、夢があるって前に言ったよね?」

 

「……はい」

 

 

「……私ね?小さい頃にお母さんが事故で亡くなってさ」

 

「………───え?」

 

目を、見開くふたり。対して虹夏は、大丈夫だと言うように微笑む。

 

「父親はいつも家にいなくて……お姉ちゃんだけが家族だったんだ」

 

「寂しがる私をね? ライブハウスに連れて行ってくれるようになったの。

あの頃の私には、全部がキラキラして見えて……凄く、幸せな空間だったんだ」

 

 

………。

 

「そんな私を見てたから、お姉ちゃんはバンド辞めてライブハウスを始めたんだ。

STARRYはね。お姉ちゃんが私の為に作ってくれた場所なんだよ」

 

 

お姉ちゃんは絶対そんな事言わないけどね、と虹夏は笑う。

 

 

「だから、私の本当の夢はね。お姉ちゃんの分まで、人気のバンドになる事!

そしてお姉ちゃんのライブハウスを、もっともっと有名にすること!

……お母さんに届くくらいの輝きを放つ場所にしたいの!」

 

 

「………」

 

この先輩も、消える事なんてない傷口を見せて、何かを伝えようとしてくれている。

 

 

 

 

………虹夏さんは、強いなぁ。

 

親を喪う悲しみなんて、想像したくない。

 

自分のせいだとか、関係ない。居て当たり前の大好きな人がいなくなる苦しみは、痛い程に解る。

 

 

この人は、そんな雨に降られながらも、強く笑ってられる人。

 

……空元気であっても、明るく前を向こうと出来る人。

 

 

 

 

お前とは違うね、後藤ふたり。

 

──ねぇ、後藤ふたり。お前だけが不幸だとでも思ってた? 悲劇のヒロインにでもなったつもりだったの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………強いなぁ。羨ましいなぁ。……わたしも、そう……なれるかなぁ……。

 

「でも、バンド始めてみたら、やっぱり私の夢って無謀なんじゃないかって思う時もあって……」

 

今日も、アレだったしねと虹夏は苦笑する。

 

「……でもね、そんな時は何時も思い出すようにしてるの。お母さんが昔、言ってくれた言葉」

 

夢はね。どんな辛いときも。

道を照らしてくれる光になるんだよ───……。

 

 

 

大事な大事な、おまじないの言葉。

 

ちょっとだけ強くなれて。ちょっぴり前を向ける小さな魔法。

 

 

 

リョウさんは、今度こそこのバンドで自分達の音楽をやる事。

 

喜多ちゃんは皆で何かをする事に憧れてる。

 

 

 

みんなが大事な想いをこの『結束バンド』に託していた。

 

 

──なのに。わたしには、なにもない。

 

 

「………その、ごめんね」

 

「……? なんで、虹夏さんが謝るんですか……?」

 

「その、ふたりちゃんの事。この間、聞いちゃったからさ」

 

「……隠してる訳じゃ、ないですから」

 

「……うん。ねぇ、ふたりちゃん。ふたりちゃんには、やりたい事ってある?

……本当は、ギターだけが全てって訳じゃないんでしょ?」

 

………。その通り。昔の自分には、沢山あった。

 

さっきまで思っていた事。どうしてあなたはギターを弾くの?

 

 

少し目を閉じて。考える。

 

 

 

「……結局、わたしにはもう、これしかないから」

 

なにもかもを捨ててきた。沢山あった時間を、ギターに捧げてきた。

 

もうきっと、他の生き方は出来ない。それに───。

 

 

 

 

 

 

 

思い出した事もあった。いつも見ていた、お姉ちゃんの姿。

 

なかなか上手に弾けなくて、すぐに飽きてしまっていたけれど……あんな風に弾けたらって。

 

 

「……そっか」

 

虹夏は少しだけ考えて。

 

「じゃあ、一緒に探すよ」

 

「……え?」

 

「ふたりちゃんが、本当にやりたい事!……ふたりちゃんの夢を!」

 

そう言って、伊地知 虹夏は片手を差し出した。

 

 

……そうだ。わたしは、変わらなきゃいけない。

 

どうしたらいいかわからないけど……変わらないといけないんだ。

 

 

……今のままじゃ、ダメなんだ。

 

 

 

 

 

バンドの為にだとか、ここでこの手を取らないと空気が悪くなるだとか、そんなものでなく。

 

後藤ふたりは。後藤ふたりの意思で。小さな決意と共に、差し出されたその手を掴んだのだった。

 

 

 

八歳の頃に止まっていた歯車は。少しずつだが廻りだしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

伊地知星歌と、廣井きくりは別の居酒屋にいた。

 

二人だけの二次会。話題は勿論、ライブの話。

 

 

「なんだったんでしょうねぇ、アレ……」

 

「……さぁね」

 

二曲目のライブ。不思議な事に、観客も。虹夏達もよく覚えていないらしい。

 

なんか凄かった!のは覚えているが、具体的にどんな演奏をしたのか誰もよく覚えていないようだった。

 

 

「……まぁ、覚えてなくて良かったんじゃない?」

 

少なくとも、アレは現実で。後藤ひとりが後藤ふたりを助ける為に、憑依かなにかしたのだと。星歌と廣井は思っている。

 

 

あの演奏は、後藤ひとりでなくては有り得ないと。

 

 

「あー……確かに。特にふたりちゃんは、知らない方がいいかもねぇ……」

 

と廣井は同意した。

 

あの演奏は──酷かった。

 

 

 

一番の時は良い。しかし、一番の終わりにかけて星歌は嫌な予感がした。

 

二番が始まる前。妹のライブをもっと盛り上げたいと、お姉ちゃんはしゃいじゃったのか、内のモンスターが暴れ出したのかは知らないが、ここらで急に。変にテクニックを披露し始めた。

 

 

いきなり、ギュイーンギュイーン!とアドリブで音を掻き鳴らし、隣の喜多ちゃんがビクッとした。

 

ここらで星歌は眉間に皺を寄せる。廣井は、自分のペースを取り戻そうとアルコール摂取。

 

唐突に入る背ギターや左利き奏法。それ事態はいいのだが、途中からノミのようにぴょんぴょんしながらやるもんだから台無しだ。

 

 

リョウは楽しそうだったが、虹夏と喜多が死んだ魚のような目になる。

 

 

そして二番の最後に見せる歯ギター。

 

伊地知星歌。完全に真顔。

廣井きくり。大爆笑。

ファン二名。ドン引き。

 

ちなみに、興味ない。観とくのタルいと言ってた二人組は、まるで珍獣を見るかのように舞台を観ていた。

 

 

 

 

まだなんかやる気だったようだが、喜多と虹夏がキレ気味なのに気付いたのか。

 

 

猫背の虎は、借りて来た猫のように大人しくなる。

 

この際、イキッてすみませんという声が聞こえた気がした。まったくだ。

 

妹の身体でなにしてんだ。

 

 

最後は、ちゃんと真面目に演奏し、なんやかんや、いい雰囲気で終わる。

 

 

 

ちなみに、もしも虹夏と喜多に気付かなかったら……こいつはギターを使って、武田信玄!とかやり始めただろう。

 

そんな事したら観客の空気はなんかこう、えらい事になっていたはずだ。

 

 

 

危うく後藤ふたりは、とんでもない空気でバトンタッチされるところであった。

 

 

 

……ライブの映像は記録していたのだが、この二曲目は不自然に記録されていない。

 

恐らく、星歌と廣井しか知らない光景。

 

 

 

………まぁ、確かに『なんか凄かった!』光景だが、自分がぴょんぴょん跳ねたり歯ギターやらかす姿を、後藤ふたりは知らなくて良いだろう。

 

 

なんにせよ……最後に盛り上げたのは、ちゃんと後藤ふたりと結束バンドの力であった。

 

 

 

「まぁ、やっぱり幽霊っているんですかねぇ」

 

「……どうだか」

 

「いやぁ、私の家にも出るもんでして」

 

「………なんの話?」

 

「この前も、隣の部屋から啜り泣く女の声がしたんですけど……私の部屋、隅だから隣とかないんですよ!あはは!」

 

「……」

 

「お前、STARRY出禁な」

 

「………なんで!??」

 

 

別に、特別幽霊などを信じてるわけではないが。

 

そんな話を聞かされては気味も悪い。

 

 

 

やれやれと呟きつつ、新しいグラスと酒を、星歌は虚空に向ける。

 

廣井きくりもまた、誰もいない場所にグラスを向けて、呟いた。

 

 

 

──────今日のライブに、乾杯。

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