───それで。ふたりは何がしたいの?
「……わかんないよ」
何時もの悪夢の部屋。ふたりは、後藤ひとりの形をした自分の分身と向き合っていた。
──私の事を忘れて、楽しくやるの?
「……そんなわけ、ないじゃん」
胸が、ぎゅってなる。最初から解ってる。
コイツはわたしだ。わたしなんだ。
罪と罰の象徴。……だからこそ、コイツの言葉は刺さるのだ。
───幸せになりたいの?
「わからない」
───悲劇を忘れたい?
「無理だし、忘れちゃいけない」
───じゃあ、何時もみたいに独りにならなきゃねぇ。
「それも違うって、解ってる」
変わらないといけないんだ。向き合ってくれた人達に向き合う為に。その優しさに報いる為に。
今まで、言い訳ばかりでずっと、逃げてた。目を背けて来た。
一人でずっと、拗ねてた。小さな子供みたいに。
優しい両親。姉のバンドメンバー。結束バンドのみんな。ファンになってくれた人達。
そして……いつか、謝りに行きたい。昔の友達に。
小学生から中学生にかけて、手をとろうとしてくれた、かつての友人達に。
───そっ。まぁ、好きにしたら。
「……ねぇ」
「……ねぇ、お前なら、なにかわかる……?」
わたしがどうしたらいいか。どうしたら変われるか。
───さぁね。知ってても、教えてあげない。
「………」
まぁ、知ってる筈がない。コイツは、わたしなんだから。
───まぁ、どうしてもというなら教えてあげてもいいよ? 条件があるけど。
「条件? ……お姉ちゃんの虚言なら消さないよ?」
───……なんでそこはそんなに頑ななの。
「だって、お姉ちゃんの事を宣伝する為に……何時か、ギターヒーロー虚言集とか出したいし」
───待って。なんでそんな邪悪な事考えてるの……。
はぁ、とふたりはタメ息。何故か姉の姿のわたしは。変なとこだけ、本物にちょっと似てる。本当に、ちょっとだけ。
───よし、こうしよう。……冷凍庫のアイス食べていいよ。
「……ここ夢の中だし。それに、わたしもうそれで喜ぶ年齢じゃないよ……」
また、目が覚める。今日も押し入れで寝落ちしていた。
変わる。成長。前に進むという事。
思ってたよりも、どうすればいいか解らない。
考えても解らないし、最早魂に刻まれた罪悪感が邪魔をする。
でも、頑張らないと。もうあんな無様な『後藤ふたり』には戻りたくない。
再びタメ息。オーディションのときにも思ったけど、本当に難しい。
「………さて、準備しなきゃ」
今日は、約束がある。
結束バンドのメンバーで、遊ぶ約束。
断ろうとも思ったが、それだといつもの自分と変わらない。
差し出してくれた手を振りほどくのは、もうやめる。
「あ、ふたりちゃん!こっちこっち!」
駅で、迎えにやって来た喜多。駄洒落ではない。いいね?
お洒落な格好の喜多ちゃん。
対するふたりはピンクジャージ……ではない。
今日はギターを弾く予定がないし、バンド活動の一環でもない。
純粋に、友達と遊ぶ為の一日。
白いブラウスに青いスカートといった衣裳に、目をキラキラさせる喜多。
「やっぱり、可愛いわねふたりちゃん!……学校の制服も、ちゃんと着ればいいのに」
「……それは、まぁ」
………変わるのならば、ピンクジャージも着ない方がいいのだろうか?
いや、それは発想が極端な気がする。いやでも?
「ふたりちゃん?」
心配そうにする喜多に、ハッとするふたり。
「あ、いや、なんでもない、ごめん。……それで、今日はどうするの?」
「うーん、実はちゃんと決めてないのよねぇ~」
「……そうなの?」
「うん。だから、今からSTARRYで決めるのよ!」
そう言って、彼女はキターン!と笑う。
……今更だけど、この音は何処から出てるんだろうか。
「ねぇ、ふたりちゃんは何処行きたい? どんな事が好き?」
「え……えっと」
昔の自分を思い出す。好きな事は、たくさんあったはずだ。
探せ探せと、頭の中の後藤ふたりが記憶の段ボールをあら探し。
「……急に言われても困るわよね。STARRYに着くまでに、考えてみて!」
再び鳴り響くキターン!の音。
うん。その音源については考えなくていい。わたしのやりたい事を考えろ後藤ふたり。
しかし思い付かない!
変わろうと思った挙げ句この様である……。
お前は思ってた以上に薄っぺらい人間だね後藤ふたり……もしかしたら人間以下かもしれないよ。ミジンコ以下かもしれないよ。
「だ、大丈夫ふたりちゃん?」
「……大丈夫。生きてる」
そう言って、片手を挙げる。
とにかく、STARRYに着くまで時間はある。
考えろ、考えろ後藤ふたり。変わるんだ。そのために来たんだから……。
そう思って歩く後藤ふたり。
いや、そもそも。普段ならやらず避けてた事だからといって、遊びに行くのが変わるという事なのだろうか?それが成長に繋がるのか??
───なんか、もう早くもわからなくなってきたよ……。
「ふ、ふたりちゃん、本当に大丈夫……?」
「あ、はい。サイボーグです」
「ふたりちゃんが変なこと言ってる!?」
「あ、いや、噛んだだけ」
……まぁ、いいや。とにかく信じよう。
かなぐり捨てて来た事の中に、きっと答えはある。
そうして、ふたりはSTARRYの階段を降りるのだった。