喜多郁代は、後藤ふたりの事は知っていた。
その美麗な容姿は元々目立つし、なにより面食いな彼女としてはいつか必ずお友達になりたいと思っていたからだ。
そんな気になるあの子がギターを持ってやって来た。
喜多郁代は、つい先日ギターを始めたばかりである。
その為に解らない事が多い。
もう、何が解らないのかも解らないくらいちんぷんかんぷんなのだ。
そこに、ギターを担いでやって来た後藤ふたり。
喜多ちゃんは、それを天啓の類だと受け取り、昼休みに早速彼女のもとに向かったのである。
ただ、クラスにはいなかった。
クラスメイト曰く、昼食時は何処かに消えてしまうらしい。
そんな所もミステリアスで素敵! くらいの気持ちでとりあえずふたりを探す喜多郁代。
とはいえ簡単には見付からず、今日は諦めようかと思った所でギターの音色が聴こえてきた。
音の案内を元に振動の震源地に行くと、果たしてそこに後藤ふたりは居た。
光の差さない、埃の舞い散る謎スペースで。独り掻き鳴らすギター。
「………」
普段はうつむき気味で、物憂げで消えてしまいそうな繊細さと儚げな顔。
話し掛けられれば、パッとした明るい笑顔。彼女が今まで見せていたどれとも違う表情を見せていた。
鬼気迫る表情。石にかじりつくような必死さ。
全身全霊全力全開の力。それが小さな身体中からほとばしるかの様な……。
耳は音に囚われ、目は彼女の姿に捕らわれ、魂(こころ)は完全に幽閉されてしまった。
演奏が、終る。振動が余韻を遺して、少女は目を瞑り小さく息を吐いた。
少しばかりポカンとした後、弾かれるように喜多は声をあげた。
「感動!後藤さん、ギター上手いのね!」
「わっ……!」
突然現れた人物に驚く ふたり。
この人は───誰だっけ?
クラスメイトではないはずである。いたら、流石に忘れない。そんな容姿をしている。
「えーと……ごめんね。誰だっけ?」
少し困り気味に尋ねる。あっちはこっちを知っているのに、こっちがあっちを知らないというのは、なんかこう、形が良くない。
「あ、ごめんなさいね? 私は喜多って呼んで」
私ったら、うっかりうっかりみたいな軽い調子で自己紹介をしている喜多郁代を見上げながら、はぁ、とふたりは呟く。
なんとなく、苦手なタイプだ。かつての自分ならば、むしろ好きなタイプだったと思う。
なんなら、同じようなタイプだったかもしれない。
────ただ。今は、この輝きが眩しい。
「えーと、後藤ふたり……」
何故か知っているようなので必要はないかもしれないが、自己紹介はちゃんとしておく。
「ねぇ、後藤さん。すっごくギター上手いね。バンドとかやってるの? 他にもいろいろ弾けるの?」
うわ、すっごいグイグイ来るこの人。
キターン! と妙な音が聴こえた気がして、耳の異常をとりあえず疑う。
「あー……バンドはまだだね。いつかは誰かと組んでみたいとは思うよ」
当たり障りなく返事をする。バンドは、ちょっとやってみたい。便利そうだから。
姉の音を届ける為の、良い宣伝になると思うし。
「そうなんだ。ねぇねぇ、私もギターやってるんだけどね? と言っても、最近始めたばかりなんだけど……」
ここいらで切り上げようと思ったが、逃がすか! とばかりに会話が続く。
ふたりとしては、さっさと話を切り上げたかったし、実際に他の人達ならそれが通った。
小、中学の頃は……みんな自分に遠慮していたし、高校(いまげんざい)でも、みんな彼女のはっているバリアのような意思に気付いているのか、あまり積極的には話し掛けてこない。
しかし、目の前にいるキラッキラの彼女は違う。
テンションぶち上がり状態なせいかもしれないが、ふたりの張ったATフィールドを難なくぶち壊しながら踏み込んで喜多のだ。
逃げようとしてもムダ……
ワタシ リア充……強いね……
やさぐれてしまっても、基本的に心根は優しいふたりは、押しに圧されて……しかも、ギターの先生になる事になってしまうのであった。