時は進み今は9月。すでに二学期が来ていた。
後藤ふたりは何時も通りのピンクジャージを着こなして何時も通り学校にいる。
学校生活は、特に変わった事がない。
これからは他人からの誘い等とは、逃げずに向き合おうと思ってはいたものの、一学期の時点で壁を作り過ぎた為……積極的に話し掛けてくれる人は今のところいない。
まぁ、いいのだけどと思うが、同時に、いや、ダメだろ。変わるんだろ?と告げる自分がいる。
焦らずとも良いとも思うが、だからといって歩みを止めていいわけでもないはずだ。
しかし、今までそんな立場を貫いておいて、今更交流をもとうとするのも都合の良い話だ。
まぁ、仕方無いかと思うしかない。
「では、二組の出し物はメイド喫茶に決まりました!」
メイド喫茶。そう、文化祭の出し物である。
この時期の姉は、「盛り上がってるか~い。アリーナー」と、青ざめた顔でニヤニヤしていて怖かったなとふたりは思い出す。
高校に入ってからは、そわそわしたり急に叫んだりしてやはり怖かったが、なんやかんや楽しそうだった。
文化祭ライブか……。
結束バンドで。と思ったが、虹夏さんもリョウさんも他校だ。喜多ちゃんとだけ出るのもなー、とふたりは頬杖を付いた。
まぁ、特別出たいかと言われるとよく分からないし、いいかなとも思う。
……お姉ちゃん。毎年楽しそうだったなぁ。
「ねぇ、ふたりちゃん」
昼休み。何時も通り練習しようとしたところで喜多が口を開いた。
「その……文化祭ステージ、出てみない?」
「……」
まぁ、喜多ちゃんならそういう提案しそうだと思った。
「わたしと喜多ちゃんで?」
「え?……ああ、結束バンドで!他校の生徒も呼んでいいみたいなの」
「………そうなの?」
知らなかった。じゃあ、いい宣伝になるしステージの経験も出来る。
むしろ、やらない理由がない。
「じゃあ、今日 虹夏さんとリョウさんに聞いてみよっか」
そう答えると、喜多はパッと顔を明るくさせた。
虹夏さんとリョウさんなら、普通にOKしてくれるだろう。
「おはようございます」
そして放課後。STARRYに着くと、早速リョウと虹夏の姿があった。
「おはようございます!あ、先輩達はテスト勉強中ですか?」
「おっはよ~! そうだよー」
机の上で勉強をする二人を見ながら、そういえば進学校だったっけと思う。
それなら勉強も大変だろう。自分達は、それほどやらなくても赤点くらいは回避出来るけど。
「次に赤点取ったらやばいから勉強教えてやってんだって」
それを聞いて、赤点? とふたり。
「あはは。伊地知先輩、頑張って下さいね」
そしてナチュラルに虹夏をディスる喜多ちゃん。
「えっ……私が教えてるんだけど……」
「え?」
「え?」
固まる虹夏と喜多をよそに、やっぱり山田さんかとふたりは思う。
虹夏さんは夏休みも、あまり遊ばず真面目に勉強してたらしいし。
「え……まさか、リョウ先輩が……?
リョウ先輩、勉強出来ないんですか……?」
「できません!!」
ばーんっ!とテストの答案をドヤ顔で見せるリョウ。普段の彼女からは考えられない無駄に良い返事だ。
すみませんと全力で謝る喜多ちゃんと、ちょっと不服そうな虹夏。
それから喜多はリョウを見る。
「リョウ先輩……思慮深くて無口なのも会話のレベルが私達と吊り合わないからだと思ってたけど……」
「……思慮深い人は草食べる生活になったりしないと思うよ喜多ちゃん」
多分だけど、山田さんなんも考えてない。
「いや~~~~! 脳みそ小さすぎて頭の中で転がる音がする~~~~!」
頭を抱える喜多ちゃんと、この音を次の曲に使えるかもと前向き(?)な虹夏ちゃん。
「まぁいいや。それより喜多ちゃんとふたりちゃんも手伝ってよ。一人で全部教えるの大変でさー」
「……? お二人の高校こっちより頭いいですし、そうでなくても二年生の授業は解らないですよ?」
「だいじょーぶ! いや、全然大丈夫じゃないけど。……今やってるの、中一の範囲だから!」
「中一の範囲!?」
「そこから!?どうやって高校入ったんですか!?」
話を聞くと、受験前はほぼ一夜漬けで頑張って……必要がなくなったら忘れてしまうらしい。
連立方程式楽しい。そう呟くリョウを、喜多ちゃんは完全にヤバい奴を見る目で見ていた。
…………あれ? これって文化祭ライブとかやってる場合じゃないのでは?
切り出そうとしたものの、躊躇するふたり。
なんというか、思ってたよりヤバい。0点なんて漫画以外で初めて見た……。いや、お姉ちゃんも結構とってたか。
ちなみに勉強を頑張り過ぎるとベースの弾き方を忘れてしまうらしい。そんな馬鹿な。
「……まぁ、教えられるところなら教えられます、けど……」
流石に中一の範囲からなら。ちなみに喜多ちゃんは憧れのリョウ先輩の実態を知り……ショックが大き過ぎて機能停止しているのだった。