「文化祭? いいじゃん!出よう出よう!」
気付けば修羅場が終わり、ニコニコ笑顔な虹夏がいた。
山田リョウの、家の机じゃないとまったく勉強が頭に入らないという発言により、勉強会はお開きとなったのだ。
「ここでやるのとは違った良さがあるよ~」
虹夏とリョウは、中学の時に文化祭でライブした事があるようだった。
リョウが別のバンドにいた事は知っていたが、虹夏も別のバンドにいたのだろうか。
それとも、中学での文化祭のためだけのバンドだったのか。
「マイナーな曲弾いて会場お通夜にしてやった」
虹夏がどんなライブをしたのかは解らないが、山田リョウはそんな事をドヤ顔で言った。
……その時のバンドは、文化祭の為の即興バンドだったのか、それとも以前いたバンドだったのか……。
後者なら、売れ線に走るようになった理由って………。
そこまで考えて、ふたりは考えるのをやめた。
「私もリョウと文化祭ライブしたことないし、出たいな~」
「じゃあ、決まりですね!」
喜多がとても嬉しそうに笑いながら、両手を叩く。
みんなやる気であり、既に結束バンドの空気は温かい。
「………」
そんな光景を眺めながら、心はモヤモヤ。ふたりは思う。
この気持ちに折り合いをつけるには、きっとこの気持ちそのものに慣れなきゃいけない。だから、場数を踏みたい。
………そして。出来るなら。叶うなら。いつか、心の底から───。
───願っても、いいのかな?
「じゃあ、三曲。全部、結束バンドのオリジナル曲で行こう」
リョウと虹夏の話から、そういう方向に進んでいた。
「でも、全部オリジナルはちょっと攻め過ぎじゃないですかね……?」
少し不安そうに喜多が言って、確かにとふたりは思う。
でも、それほど心配していない。なんというか、喜多ちゃんの人気は学年で凄いので、キターン!でごり押せそうな気がしなくもないからだ。
「他にも文化祭出るバンド、全部コピーバンドでしたよ?」
「ん~そりゃ勿論、コピー曲のほうが盛り上がると思うけど! 私達は結束バンドの曲を皆に聴いて欲しいからね~。
こんなバンドがあるって、知ってもらうにはこれが一番かなって」
そう言って、ニコニコ笑う虹夏ちゃん。
「それに、文化祭なんてよっぽどじゃない限り盛り上がるもんだよ!」
そんな虹夏様の御言葉に、うんうんとふたりは頷く。
それこそ、喜多ちゃんがキタキタキッタ~ン!!!と盛り上げてくれる事だろう。………。
「まぁ、まれに例外はあるけど……」
と、希有な例外を作った人が呟いた。
「大丈夫。仮に滑っても怖くない。四人いるから、痛みは四等分……」
「……リョウさん、さっきのドヤ顔でした話って、もしかして強がりだったりしますか?」
突然、ヤル気だったにも関わらず弱気な発言をかましたベーシストに、ふたりは疑いの目を向けた。
すると山田リョウは、少し固まって。
「………たまに、お通夜状態になったライブたまに夢に見る……」
まさかあんなにしらけるとは……そう呟いて、リョウは机に突っ伏した。
「リョウ、みんなにも同じトラウマ植え付けようとしてない?」
はぁ、と虹夏はタメ息。そんな様子を眺めながら、青春ですね~とPAさんは呟く。
ちなみにこの話題が出た際に、なになに?ライブすんの~!?とはしゃいだ廣井きくりの姿はここにない。
何故なら、奴はその直後に酔いが回りきり、見事な粗相を働き追い出されたからである。
「………」
やる気が漲るメンバーを一瞥し、眉間に皺を寄せながら星歌はパソコンとにらめっこ。
多分、晴れ舞台を観に行く為に予定を調整してるんでしょうね~とPAさんは思うのだった。
そんなこんなで、今日は解散。
一人、ふたりは歩く。文化祭。姉にとって、叶えた夢のひとつ。
自分にとっては、通過点……なのだろうか。
少し目を閉じる。イメージする。舞台の上で、みんなと一緒に……クラスの人達が観る演奏。
どくんと動く心臓。少しだけ熱くなる身体。
……それと相反するように。
──ねぇふたり。本当に良いの? なんで、そこにふたりが立つの?
そんな声が聞こえた気がする。ダメ、弱気になるな。
電車に乗り、座る。
お姉ちゃんがそんな事を言う訳がない。思うわけないって知ってる。お前がそんな奴なのを、お姉ちゃんのせいにするなよ後藤ふたり。
胸を押さえつけ、身体を丸めた。一人になった途端に、襲い来る自分。さっき感じたモヤモヤ。罪悪感。
ここで、負けるな。変わらないといけないんだろ? また、迷惑をかけるぞ。
ぎゅっと、目を閉じる。考えるな考えるな考えるな────
─────とぅいんくるとぅいんくる りとるすたー。
ハッと目を開けた。ふいに頭に浮かんだあの景色。
それが、心のモヤモヤを。暗雲を振り払ってくれた。
ふっと、少しだけ微笑んで……ふたりはぎゅっと、ギターケースを抱き締める。
────うん。頑張る。……ありがとう、お姉ちゃん。
ガタンガタンと、電車は揺れた。
「……とぅいんくる とぅいんくる りとるすたー」
まばらに利用する乗客達に聞こえないように、ふたりはひとり、小さく呟き歌った。
はうあいわんだー わっゆーあー。
あっぷぁばうだ わーそーはい。