そして、文化祭当日となった。
一日目。演奏は、明日。
「おかえりなさいませ御主人様!」
後藤ふたりは、メイド服を着用し、一年二組の教室でSTARRYでもよく見せる愛想笑いというか営業スマイルを振り撒いていた。
こういう笑顔は、出来るのだ。
容姿は普通に……というか結構な美少女な彼女はかなりの戦力となっている。
彼女の姉──後藤ひとりも、こういう事が出来ればもっと美少女認定されていた事だろう。
しかし……彼女の営業スマイルは。他人、もしくはよく知らない相手だからこそ出来るのだ。
「やっほー!ふたりちゃんいる~?」
「ふたり。もてなせ」
やって来た先輩二人に、えっ、とふたりの表情が引き吊った。
「……ライブは明日ですよ?」
「いやぁ。せっかくだからメイド服ふたりちゃん見ておきたくってさ~」
そう言って、虹夏はニヤニヤと笑う。
「あ、先輩達も来たんですね~」
そこに更に、喜多ちゃんも現れた。
喜多は来るだろうと思っていたが、虹夏とリョウが来る事はほとんど考えていなかったふたりは、微妙な笑みを浮かべる。
いや、冷静に考えれば来そうな性格はしてるけど……。
「えっと……まぁ、席にどうぞ」
「ふたり。ご主人様は?」
とりあえず席に案内しようとしたふたり。
しかし直後、ふたり的には余計な発言がリョウから飛んで来た。
「はい?」
「お客様は神様。ふたりの、お帰りなさいませご主人様が聞きたい」
一見すると、いつも通り無表情。しかし、それなりに付き合いが長くなったふたりには、少し口元がピクピクしているのが見えた。
後ろの虹夏も、多少悪ノリしニヤニヤしており、喜多は苦笑。
「……お帰りなさいませご主人様!」
眉間に皺を寄せながらも、ふたりはなんとか笑顔を絞り出して案内。
「ご注文をどうぞ。……全部オムライスですけど」
そう言って渡されたメニューを受け取り、へぇ、と虹夏は呟く。
「オムライス専門なの?」
「いや、オムライスしかないんです」
メニューに目を通すと……一見、沢山種類があるように見える。
ふわぴゅあとろける魔法のオムライスだの、ユニコーンのゆめかわキラキラオムライスだの、もうむりまぢむりだの。
「メニュー名が違うだけで、全部一緒ですよ。メイド服で予算なくなったみたいで」
マジかと微妙な表情をする虹夏と喜多。リョウは何時もの無表情ふたりを眺めている。
「それにしても、ふたりちゃんメイド服似合ってるね~」
「私服もですけど、やっぱりこういう甘い系似合いますよね~」
「ど、どうも……」
誉められて照れてそっぽを向くふたりを、虹夏と喜多は微笑ましげに眺めていた。
……いたが、途中で二名の目から熱が引く。
そして視線は、胸元。
……あれ? 私服の時にちょっと思ったけど、ふたりちゃんおっきくない?
……ふたりちゃん、背はとても低いのになんでそこはちょっと大きめなのかしら?
「……あの。なんですか?」
妙にニコニコし始めた二人を見て、ふたりは若干後ろに下がる。
それからリョウを見ると、彼女は小さく頷いてみせた。
「ふたり。ビジュアル方面で売り出していこう」
「嫌です」
突然なにを言い出すんだ山田さんは。
「MVはふたりを水着にしよう」
「やりませんよ?」
「それかガムテープ巻いて海の上で弾かせよう」
「絶対やりませんからね?」
はぁ、とタメ息を吐き出しつつ……とりあえず、何故か虹夏と喜多の目線が怖いので、逃げるようにふたりはオムライスを作りに行く。
正確には、レンジでチンしに行く。
レンジから取り出して、上からケチャップをかけたらはい完成!ふわぴゅあとろける魔法のオムライスの出来上がりである。安っぽい魔法もあったものだとふたりは思う。
「はい、ふわぴゅあとろける魔法のオムライスです…」
どうでもいいけど、名前が長い。
そんな不満を抱きつつ、ただの冷凍食品オムライスを持って来たふたり。
しかし、そこには何時もの大天使ニジカエルではなく、堕天使ニジファーが現れていた。
「すみませーん、店員さん。この美味しくなる呪文ってやつお願いしまーす」
「ニヤニヤ。ニヤニヤ」
ふたりの表情が凍り付いた。そういえばそんなのあったっけ。
とりあえず山田さんは擬音を口に出さないで欲しい。
「先輩達、楽しそうですね……」
若干呆れつつ、ふたりを見る喜多。
「……いや、あの、えっと」
「お客様は神様だふたり。観念してどーぞ」
「メイドさーん。お願いしますよ~」
「………」
ニヤニヤしている二人を一瞥し。
はぁ、とふたりは諦めのタメ息を吐き出して。
「ふわふわー!ぴゅあぴゅあみらくるきゅんッ!オムライスさん、おいしくなーれッッ!!!!」
そしてヤケクソに言うのだった。
そんな様子を喜多は苦笑しながら眺めて。
「………」
「ん?どうかしたの?」
少し、呆然とふたりを見ている二組のクラスメートに尋ねた。
問われた彼女は、ハッとした顔をした後、取り繕うように笑う。
「あ、いや……。後藤さん、ああいう顔するんだなって」
「ああ……」
怒ったというか拗ねた顔こそしているものの、生き生きとしたその表情は何処か楽しそうにも見える。
「……ふたりちゃん、いろいろあったみたいで」
「……そっか」
「でも最近は、ああいう顔も見せてくれるようになったのよ!」
キターン!と笑う喜多に、そっか、とクラスメートも笑った。
そして、軽く頷いてふたりの方へ行き。
「後藤さん。休憩入っていいよ?」
「え? ……今から?」
「うん。せっかくバンドの友達来てるんだから、文化祭回ってきたら?」
そう言って、クラスメートの子はふたりに笑いかけた。
「あ……えっと……」
少し視線を泳がせて。それからふたりは、ちょっと困ったら様に笑う。
「……じゃあ、お言葉に甘えて」
その表情も、クラスメートには初めて見せる顔だった。