それから、ふたりは結束バンドと共に文化祭をまわる。
お化け屋敷、クレープ、射的に……秀華高校の文化祭は、本当に充実していた。
中学の頃。文化祭になんて興味がなかった。
楽しむという事に興味がなかった……わけでは、なかったんだと今なら思う。
ずっと蓋をして、独りになっていた。光に目が焼かれないように。
だって。幸せになる資格なんてない。
でも、今。こうやって文化祭をバンドメンバーと……『友達』と、歩きまわっている。
自分で限界を感じるまで追い込んで。差し出された手を取って浴びる光は、目なんて焼かない。優しい光。
でも、それでもまだ闇は晴れない。そこから伸びる自分の手が、心を掴む。
「……とぅいんくるとぅいんくるりとるすたー」
でも、大丈夫。前に、虹夏の言ってくれた言葉を思い出す。
『……でもね、そんな時は何時も思い出すようにしてるの。お母さんが昔、言ってくれた言葉』
自分にとっての、魔法の言葉。
ちょっとだけ心を軽くして、ちょっぴり前に進むためのちっぽけな魔法の歌。
とっておきの唄。
「ふぅ~……いやぁ、本当にすっごく充実してるねぇ~……」
うちとは大違い。と虹夏はちょっぴり苦笑。
「ふたりちゃん、大丈夫?」
少し調子悪そうに座るふたりに喜多が声をかけた。
ふたりは、大丈夫ですと苦笑する。
「なんっていうか……こういうお祭りって久しぶりで……歩き疲れたっていうか、目が回ったっていうか」
本当に、不思議な気分だ。
最近は本当に、世界が廻ってる気がする。
置いて行かれないかと、少し不安になったり、むしろ置いていかれて良かったのではと思ったり。変な気分だ。
でもね……今は、悪くないよ。きっと。
「……その、ありがとう喜多ちゃん」
「え?」
不思議そうに目を丸くする喜多に、少し気恥ずかしそうにふたりは言葉を続ける。
「いや、その……あの日、喜多ちゃんがわたしに話し掛けてくれなかったら、きっとわたしはまだ……独りでギター弾いてたんだろうなって……」
独りで、いじけながら。
そう、初めて学校にギターを持って来たあの日。
─────空が割れた日。
だから、ふと……お礼を言いたくなった。
「……どういたしまして」
ふたりの言葉を受け取って。少し考えてから、喜多はそう言って笑う。
「ねぇ、ふたりちゃん。私ね……自分を変えたかったの」
「……え?」
「勿論、前に言ったみたいにリョウ先輩が目当てでギター始めようと思ったんだけどね?」
普段、決して見せない陰のある表情。
……喜多ちゃんも。喜多ちゃんだって、こんな顔するんだ。
「私って、自分で言うのもあれだけどそこそこ勉強も運動もできるのよ。友達だって多いし。
……でも何かが特別秀でてるわけでもないし、ほんとふつーっていうかね」
ポツリポツリと、彼女は言葉をもらしていく。
「楽しいんだけど、味気ない人生だなってぼんやり思ってて……。
リョウ先輩の路上ライブ観た時にね? 普通じゃない道を歩いてるのが羨ましいなって思って」
そこまで言って、目を閉じて……ふーっ、と喜多は息を吐いた。
……そっか。形はどうあれ、喜多ちゃんも変わりたいんだ。
こんなに優しくて、素敵な人でも、変わりたい。変えたいって。
───そこは、わたしと同じだね。後藤ふたり。
変わるって。やっぱり難しいよね。
「でも、買ったギターはベースだったし……多分、あのままだと私、逃げ出しちゃってたと思う。
そして、ずっとそんな自分を許せなくて、ずーっと苦しみ続けたのかも」
表面上は、明るく振る舞う事が出来たかもしれないけど。その傷跡は、きっと腐っていったと思う。そしたら、いつか私は───
「………」
自分を許せない気持ちは、よく解る。それが、どんな形であれ。
大も小もない。他人よりも、ずっとずっと、自分を許すのは難しいんだから。
「──だからね?」
「私にギターを教えてくれて。大切なギターを貸してくれて ありがとう、ふたりちゃん」
そう言って、喜多郁代は微笑んだ。
少しだけ言葉に詰まって。だけど、後藤ふたりも微笑んだ。
「……どういたしまして」
そして、さっき彼女が言った言葉を、自分も贈った。大切な友達に。