放課後。片道二時間という長い帰路に着きながら、どんな気持ちで姉は毎日を過ごしていたのだろうかと思う。
いろいろ不便にも関わらず、この高校を選んだ理由はふたつ。
ひとつは、単純に知り合いがいない所へ行きたかった。
幼稚園や小学生の頃に作った友人達は、すっかり壁を作った自分にも懲りずに定期的に話をしようとしていた。
それが少し重く辛く。幸せになってはいけない自分なんかと関わるなんていう無駄な時間を使って欲しくなかった。
あっちもソレに気付いていたのだろう。遠慮がちではあった。
───それでも。この手を何度だって、握ろうとしてくれていた。
軽く頭を振って、窓の外に視線をやる。
もうひとつの理由は。姉の母校だったから。
同じ場所へ向かえば、何かが解るんじゃないかって……。
「……帰ったら、動画あげないと」
ポツリと呟き目を閉じる。
喜多と名乗った少女。……そういえば、名前はなんだろう?
ふと考えるが、まぁいいやとその思考を中断する。
押し切られる形になってしまったが、ギターを教える事になってしまった。
まぁ、それはいい。教える事で知れる事もあると思うし、誰かを助けられて自分のスキルアップに繋がるなら良い事だろう。
問題は、レベルだ。
『ギターってこっちジャンジャンするだけじゃないのね。
この木の棒飾りかと思ってた』
『そもそも初心者が一人で始めるには難しすぎるのよね……メジャーコード? マイナー? ……野球の話?』
初心者なのは勿論、知識もこの物語の作者レベルだ。
まぁ、それだけならば良かった。
問題は、彼女はバンドをやっているらしいという事である。
しかも、後約三週間でライブだそうだ。
なんでそれでバンドメンバー募集にぶっこんだのか聞いて見れば、そのバンドにいる先輩の顔が大変良かったからだそうな。
ふたりちゃんの感想は。マジかコイツ。である。
思考がロックだ。ギターも月までぶっ飛びそうなこの衝撃。というかバンドメンバーの方々も、一度弾くのを見てから仲間にすれば良かったのに……。
まぁ、引き受けてしまったものは仕方がない。教えるだけは教えよう。やれるだけの事はやろう。
関わってしまった以上、不幸にはしたくない。
これで、知識不足の為にまさかギターではなくベースを持って来られたらどうしようかと一瞬脳裏を過るが、まぁ、流石にそんな事は有り得ないだろう。
そして翌日。後藤ふたりは有り得ない事が有り得ない事を知った。
「あの……喜多ちゃん。言いにくいんだけどその……それ、多弦ベース……」
…………処刑執行人というのは、どんな気持ちで仕事をしているのだろうか。
キラキラの笑顔は曇りを通り越し見る影もなく。
最早喜多郁代の残骸と化した姿に、はぁ、とタメ息。
お姉ちゃんならどうしただろう。
「……仕方ないな」
本当に、仕方がないので、一本だけギターを貸してあげる事にした。
正直大事なモノだ。貸すのにはかなり抵抗があるが、家にギターは『三本』ある。
ライブの日が近いのだ。緊急事態だし、わたしの為じゃないなら赦して貰えるだろうと、ふたりは考えるのだった。