後藤ふたりは、結束バンドの仲間達と共に体育館に来ていた。
明日、ライブしておく場所を見ておこうと喜多が虹夏とリョウに提案したからである。
──あれから文化祭をまわった。楽しかった。
それが終わってクラスに戻ると、なんやかんやあって喜多と虹夏。リョウも一緒にメイド喫茶を手伝ってくれる事になった。
きっと。良い思い出になったと思う。
………また一人になったら、苦しくなるんだろうなぁ。
まぁ、仕方ない。慣れよう。頑張ろう。
「……マックスで千人ってとこか」
「流石にそこまで来ないと思いますけどね」
リョウの言葉に喜多は苦笑混じりに返事。
ふたりは、ぼうっと舞台を眺めていた。
そう、この場所は。ここは。
「ふたりちゃん、どうかした?」
不意に虹夏に声をかけられ、ハッとしてふたりは軽く頭を振った。
「ちょっと、昔を思い出して」
「昔?」
首を傾げる虹夏の隣。ああ、とリョウが頷く。
「ぼ……お姉さん。ひとり。確か、この高校だったっけ。ライブしたの?」
「……まぁ、はい」
その言葉に、へぇ!と虹夏は少し目を見開く。
「そうなんだ!……観に行ったの?どんな感じだった?」
「あ、えーと……」
その言葉に、ふたりは少し視線を泳がせた。
「初めてのライブの時は、えっと……一曲しかやらなかったけど、かっこよかったです」
「一曲だけ?」
喜多が小首を傾げた。三曲くらいは出来るはずだけど……参加者が多かったりで、時間をとれなかったのかしら?
「……みんなダイブしたので」
「………なんて?」
ふたりの言葉に、訝しげな顔をしたのは虹夏だ。
「えっと……一曲目が終わったら、お姉ちゃんがダイブして……何故かみんな、ダイブして」
ふたりは思い出す。あの文化祭ライブを。
とてもキラキラしていたステージの上。一曲目が終わり、ドラマの人がMCを始めようとしたその瞬間。何を思ったか、後藤ひとりはいきなりダイブをしたのだ。
それを見たバンドメンバー達はというと………
『流石、私達のゴッドひとりだ!』
『ロックの神!ロックの神!』
『おー、やるねひとりちゃん!よし私も!』
とか言って全員ダイブし三人は担架で運ばれて行った。
しかし、ベーシストだけは頭から落ちたにも関わらずノーダメージで立ち上がり、瓶底メガネをかけ直して舞台に這い上がってベースを掻き鳴らしてた。
当然、そんな場合じゃねぇだろと言わんばかりに教師らに引き摺り下ろされ、そのまま出番は終わったのだった。
あの光景を見た時は……五歳ながらも、これがロックか……とタメ息が出たものだ。
ちなみに、ひとりがダイブした理由は前日のドラマーの発言が原因である。
彼女としては別に、他意はなかったものの……。
「せっかくの初文化祭ライブだからさぁ。なんかこう、派手な事とかやりたいよな~」
この発言を聞いた後藤ひとりは、何時ものアレな妄想をしたのだ。
──これは!明らかに私に対して面白い事をやれという前振り!
もし、出来なかったら……。
『おいおい、ダメじゃん。お前もうゴッドひとりじゃなくてゴートゥーヘルひとりだわ。ファッ○』
『もう、ロックの神じゃなくて凡人以下ですねぇ。紙切れ以下ですよぉ。燃やせばよく燃えるんじゃないですかぁ~?ロックですねぇ。うひっ!』
『はぁ……ひとりちゃんには失望したよ。はい、自決用のドス貸してあげる。腹でも切って?
ロッカーらしく、舞台の上で散らさせてあげる。これ、慈悲だから』
『つまらなくてすみません!』
────ぶすりー!!!
──こうなるに決まってる!!!あばばばばばば!!!!
とまぁ、そんな何時ものアレを考えてなんとかしようとした結果がダイブであった。
「知ってる。伝説になってるし。その光景観れたの羨ましい」
「……伝説になってるんだ」
微妙な引き吊り笑いをするふたり。
ちなみに、この頃からいた先生から、ふたりは事前に注意されている。
ダイブだけは絶対するなと。頼まれたってやりません。
「そういうわけだから、ふたりのダイブに期待してるから」
「………山田さんがお手本見せてくれたら考えときますよ」
考えるだけだけど。
それからまた、舞台を見た。
姉がかつて立ったステージに立つ。
……とても、変な気分だった。そういうつもりでこの高校に来たわけではなかったけれど。
ふぅ、と息を吐く。頑張ろう。
そう呟いて、少し目を閉じる。思い出すのは、後藤ひとり二年生の時のライブ。
この時は特に問題は起こさず、純粋にかっこよかった。足に縄つけられてたけど。
ちなみに三年の時は最後の最後でベーシストがやらかしたので割愛。
「……それじゃ、行きましょうか」
そして、その足はSTARRYに。
明日に向けての最終調整を行うのだった。