ギターヒーロー二代目【完結】   作:怒雲

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文化祭ステージにて

 

 

 

 

 

──文化祭ライブ、当日。

 

 

ふぅ、とふたりは息を吐く。ほどよい緊張感が、血液と共に身体を巡る。

 

 

 

今日は、ギターをもう一本持って来ていた。何時ものやつと、もうひとつ。

 

 

父のギターであり……姉がかつて、ここで使ったギター。

 

 

ブラックビューティー。

 

 

 

お守り的な気持ちで持って来たら、リョウが目を光らせていた。

 

どうにも、高く売れるらしい。当然、売る気はない。

 

 

 

動画配信の際、こっちを使う事も結構あるので調整も問題はない。まぁ、万が一弦が切れるとかあっても、もう一本。何時ものがあるから大丈夫。

 

 

 

………これはバンドメンバーから聞いた話だが。姉は一回目の文化祭ライブの後、ライブハウスでやったライブで弦が切れたらしい。

 

ペグも故障して絶体絶命だったようだが、なんかマイクスタンドを使って、ボトルネック奏法をやったらしい。

 

当時の幼い自分が聞いても意味が解らなかったが、今でも意味が解らない。

 

ボトルネック奏法自体は知ってるし、やろうと思えば出来るけど、まず練習して音階とか把握とかしないと無理だ。

 

別にアレは、弦が切れたりした時の緊急手段とかそんなのではない。ぶっつけ本番でやれる自信はまったくない。

 

 

 

…………とことん。あの人はヒーローだった。

 

 

 

 

ふぅ、と息を吐く。姉がかつていた場所に、自分が行く事への戸惑いはやっぱり強い。でも自分には行くしかないのだと、ふたりは覚悟を決める。とぅいんくるとぅいんくるりとるすたー。

 

 

 

「それじゃあ、頑張ろう!楽しもう!」

 

リーダーである虹夏がそう言って、円を組む。

 

 

 

そうして、舞台に出た。

 

 

 

 

姉が、昔見た景色を自分も視る。

 

 

同じギターをその手に。虹夏と喜多のMCをその耳に。

 

 

 

観客達。知ってる顔がいくつかあった。

 

観に来てくれた両親。台風ライブの時に来てくれたファン二人。

 

この人らは、あのライブの後に虹夏と連絡先を交換しており、その伝で知ったらしい。決してストーカーではない。

 

 

それと、両親の近くにはギターボーカルのお姉さんの姿もあった。他二人は来たかったが来れなかったらしい。

 

 

声援のほとんどは喜多ちゃんだが、自分を呼ぶ声も聞こえた。

 

「お~~~~い!ふたりちゃあん!!!」

 

しかし前列にいた声でそれらが吹き飛ぶ。

 

 

「ふたりちゃんがんばぇえ!!がっけぇ演奏たのむよぉう!あひゃひゃ!!」

 

よりにもよって最前列に廣井きくりはいた。正直、こうなる事は解りきっていたので呼びたくなかったが、バレてるので仕方ない。無視するしかない。

 

 

 

「あるぇえ? なんで無視するの??きくりおねーさんらよぉ??? うぇ~い!!!!」

 

酔いに酔ったきくりお姉さん。

 

「うわ、酒臭……」

 

「ヤバい人が入ってるじゃん……」

 

「後藤さん、あんな人と知り合いなんだ……」

 

と、周囲の生徒もドン引きだ。キツい。

 

 

近くの星歌からコブラツイストをくらい、ギブギブしている廣井を見て、両親の近くにいたお姉さんも人波掻き分けて近付いて来ている。

 

 

たんに知り合いを発見したからだろうが、ふたり的には来ないで欲しい。

 

ちなみに星歌もその姿を見て、ちょっと嫌そうな顔をしていた。

 

 

 

「それじゃ、一曲目行きまーす!」

 

ドラマの合図。一息。ギターを掻き鳴らす。

 

 

 

 

 

 

………やっぱり、まだ解らない。自分のやるべき演奏が。

 

 

今はまだ、姉の真似をする。

 

今までずっと。ずーっとこのスタイルでやって来たのだ。簡単に変われないし、変えていいのか解らない。

 

少なくとも、変わらなきゃいけないから。そんな漠然とした気持ちで変えたら……ギターに触れて、この生き方をしようと決めた、あの日の幼い自分が報われない。気がした。

 

どうすればいいのか解らないけれど、きっとここにしか。ギターを弾き続けるしか答えは出ないだろう。

 

 

 

 

 

だから、今はまだこの海で泳がせて欲しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

ステージの光が眩しい。自分のこの手は、まだこんな近くの光すら掴めない。

 

 

演奏が終わる。どっと、疲れた。

 

目を瞑る。──喜多ちゃんに一言とマイクを差し出されたが、ありがとうございましたとしか言えなかった。

 

 

 

 

こうして、特に波乱もなく文化祭ライブは終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………つまり、廣井の持って来たカップ酒は特に意味はなく、ステージの上にゴミを置いて、こんな酔っ払いと知り合いなのかとふたりの評価を下げただけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

音楽ライターである佐藤愛子は、はぁ、とタメ息混じりに帰宅していた。

 

最近、琴線にふれる新しいバンドが見付からない。

 

 

なにか、ないものか。ピロピロギャリギャリドーン!みたいな技巧派バンド。

 

 

 

良いバンドを。本当に実力のあるバンドを大勢の人達に知って欲しくてこの仕事をやっているのに、最近はアクセス稼ぎなアレな記事ばかりだ。

 

他のライターも似たようなもので、なんでこの仕事をしてるのだろうと思う。

 

 

 

 

 

 

ふと、貼られたアー写のポスターに目がつく。

 

知らない、恐らく新しいバンドだろう。

 

 

そんなものは沢山あるし、ひとつひとつを観に行ってはキリがない。効率が悪いしコスパも良くない。

 

少し名が売れて来たら取材する事もあるだろうと視線を反らそうとしたその時───不意に昔の景色が頭をかすめた。

 

 

 

 

広い舞台。猫背でギターを掻き鳴らす桃の長い髪。

 

 

 

 

思わず、さっき貼られていたアー写の一枚を見た。

 

 

桃の髪。空色の瞳。見覚えのある顔立ち。

 

 

 

 

結束バンド。呟いて、調べる。名前を見る。後藤。後藤ふたり……。

 

 

………そうか。表に出て来たんだ。

 

 

 

ギターヒーロー二代目さん。

 

 

ライブの日を確認し、佐藤愛子は帰路を急ぐのだった。

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