「え~今日は……ちょっとした発表がありまーす!」
文化祭からしばらくたったある日の事だった。
STARRYにて、虹夏は上機嫌にメンバーの前に、タオルで身を包みながら現れる。
「じゃーん!寒くなって来たのでバンドパーカー作ったよー!」
タオルを外すと、そこには結束バンドのパーカー姿の虹夏。
デザインも、みんなにあわせて少し違う。
ふたりも受け取り、少し微笑む。シンプルに、良いデザインだと思った。
──あれから、何回かはライブをした。
何度かやったからこそ解る自分の違和感。
父が撮ってくれた文化祭ライブを見てよく解る自分の歪さ。
ふぅ、と息を吐く。迷走している自分が嫌になる。
「ふたり」
一人で悶々としていたところ、不意にかけられる声。
リョウの姿に、ふたりは少し小首を傾げる。
「……? なんですか、リョウさん?」
「今日、ご飯 奢って」
「………」
突然なにを言い出すんだこの人は。怪訝そうな顔をする彼女に、リョウは小さく頷いて。
「……ふたり。なにか話したい事とかあるんじゃない?」
「…………」
………───ああ、そういう事か。その言葉にふたりは思う。
多分、自分が悩んでるのを察して話を聞いてくれようというのだろう。
ご飯は、そのお代……だから、気にしなくていい。そういう感じなんだと思う。
「……わかりました、いいですよ」
その言葉に……よし。と呟きガッツポーズを小さくとるリョウ。
その姿に、本当にたんに奢って欲しいだけなのではないかと思ったが、まぁ、そんな事はないだろう。多分。恐らく。きっと。
そんなこんなで、何時かの店。リョウはいつかのようにカレーを食べて、せっかくだから自分も軽く食べる。
「……わたしの演奏」
「……」
「……おかしいですよね」
頭に浮かぶ、相も変わらず弾かされてるかのような演奏。
未だに変わらず奴隷のようで。
「変えるべきだってのは、分かってるんです。でも……」
ご馳走さまでしたと神妙に手を合わせ。口を拭いてから、リョウはふたりに向き直った。
いつかの様に、その両目がふたりを映す。
「変えられない理由があるの?」
「……意地、なのかもしれないけど。でも、その……なんと言えばいいか……」
言いよどむふたりを見て。軽く瞬きをして、リョウは言葉を探す。
「……つまり、何かきっかけが欲しいんだ」
「そう……なのかも」
水を口に運ぶ。……多分、本来リョウはこういう話をするのに向いてない。
向いてないというか、本人が苦手意識を持ってそうな気がする。面倒とか、そういったのをひっくるめて。
それなのにわざわざ時間をとってくれて。それで煮え切らない発言しか出来ない自分が不甲斐ない。
「少し、前に進めてるとは思うんです」
喜多ちゃんは相変わらず眩しく感じる時もあるが、それでも真っ直ぐ見れるようになった。
ファンになってくれた二人のお姉さんとも、ちゃんと話せるようになった。
昔に比べれば、前向きになれたと思う。だからこそ、バンドを続けていく上で一番重要なところ。
「……でも」
「……焦って変える必要はないよ」
静かに、窓の外を見ながらリョウは呟く。
「……私の前にいたバンドも、焦って変えようとしてた。だから転んだ」
「……そう、でしたね」
売れようとして、迷走して。それが嫌になった。
「ふたりは、売れなきゃいけないから変わりたいの?」
それを聞いて、目を閉じて首を横に振る。
「違う」
「………前の、台風のライブで痛感したんです。わたし、みんなの足を引っ張ってるって」
「そんなの、嫌だ……わたしは……わたしは」
そこまで言って、コップを握る手に力を込めた。
「わたしは……このバンドが好き……だから」
「………そう」
そう呟いたリョウは、少し安心したように表情を緩める。
ふたりは、窓に映る自分を睨んだままに言葉を続けていく。
「わたし、こんなだから……きっとまだ足を引っ張って邪魔して、不甲斐なくて……」
「虹夏もわたしも、別にふたりを迷惑だとも思ってない。邪魔だとも思ってない」
何時もの無表情でそう言って、ぶっきらぼうにリョウは席を立った。
「行こっか」
「あ、はい」
会話を終わらせ、マイペースに出口に歩いて行くその背をふたりは少し慌てて追う。
約束しているので、お金を出す。今回は、本当に返さなくても良い。
外にでた。並んで少し歩く。風が冷たい。
夏はジャージが地獄だった為に、この季節は好きかもしれない。
「……むしろ、私達の方が焦った方がいいかも」
ポツリともらしたリョウの弱音に、え? とふたりは足を止めた。
「……ふたりはソロ弾きだと、圧倒的に上手いでしょ?」
「……バンドだと駄目だから、意味がないですよ」
ちょっと苦笑混じりに言うが、リョウは軽く首を振った。
「ソロでも生きてく道はある。バンドだけに拘る必要はないよ……それはそれとして、ふたりが変わって。バンドで実力を出せるようになったら───」
私達の事が邪魔だと、ふたりは思うかもね。その言葉に、思わずふたりは目を開く。
「そんな事ない! ……そんな事、思うはず──!」
そこまで言って、ふたりはリョウの表情を見た。
まるで、悪戯に成功しかのような……少し満足そうな顔をしていた。
「さっき、ふたりは自分が足を引っ張って迷惑って言ってたよね」
「今のふたりの気持ちが、さっき私が感じてたやつ」
「ちょっとムッてなったから、早く店出たかった」
「…………───」
………言葉が、出ない。本当に、この人は……。
「それじゃ。また奢ってね」
そう言って片手をひらひらさせるリョウに、クスリとふたりは表情を崩した。
「……ありがとうございました、リョウさん。また、機会があったら喜んで」
ぴたりと、リョウの足が止まり、振り返った。
あっ……とふたりは思ったがもう遅い。
「本当? じゃあ早速欲しい機材とベースがあるんだけど。あ、ギターも──」
「それじゃ、遅くなるのでわたしは帰ります」
まったくと呟き、何時かのように帰路につく。
………言葉は嬉しかった。相談にのってくれて嬉しかった。
頑張ろうと呟き、ふたりは帰路につく。
明後日もまた、ライブがある。文化祭ライブから、お客さんも少し増えて来てる。
ノルマ分を捌ける日もある。
なんやかんやで結束バンドは順調だ。
だから、大丈夫だよねと……ふたりは暗い空を見上げるのだった。