STARRYでのライブを終えて、後藤ふたりは軽く息を吐いた。
少し、ぼんやりと天井を見上げる。
「最近はお客さんも少しだけど増えてきて、ライブするのも楽しくなってきたね!」
「今回もなんとか、ノルマ分を捌けましたしね!」
演奏が終わり、きゃっきゃと喜ぶ虹夏と喜多。
そんな様子を、ふっ、とリョウは鼻で笑った。
「生ぬるいこわっぱ共め……そんな悠長な事を言ってたらこのバンド戦国時代は生き抜けんぞ」
ムッとする虹夏を見つつ、多分これリョウさんダメなパターンだなとふたりは思う。
「結束バンドのSNSで、ふたりのmy new gurabia…すればすぐに上まで……」
「絶っっ対にやりませんからね?」
山田さんはすぐにこれだとタメ息。流石に本気ではないと思うが、仮に自分が頷いたらやりそうな気もする。
「今日のライブも良かったです~」
「これ、差し入れでーす!」
「あ、ありがとうございます。わざわざすみません……」
ファン二人に軽く頭を下げる。ちょっと、変な気分だ。
……わたしのファン、かぁ……。
改めて考えると、わたしなんかには勿体ないというか、でも嬉しいというか。
和やかな時間。ライブ前も、最中も、後も。好きになれてきた。
「あの──ギターヒーロー二代目さん、ですよね?」
不意に投げ掛けられたその言葉に、心臓を掴まれたかと思った。
目を見開きそちらを見ると───変な女がそこにいた。
背は低いと思うけど、大人の女性だと思う。思うが、ファッションが独特だ。
うん、独特。独特だ。普段ピンクジャージの自分が何かを言う資格はない。
「──えっと。誰ですか?」
困惑気味にふたりは返事をする。
あまり、二代目の活動を知らせたくない。
姉のバンドも、出来るだけ隠していたし、その理由も知っているから。
「なんの話?」
その言葉に、喜多は小首を傾げ、虹夏は少し目を見開き、リョウは無表情で静観。
なんの話というのが聞こえた彼女は、まさか知らないの!?と声を荒げる。
「ギターヒーローさんはね!かつて業界を震撼させた超凄腕ギタリストッ!
それでいて男女問わず学校中の人気者でロインの友達数は千人越え!
彼氏はバスケ部のイケメンエースの超リア充女子だったお方なのッッ!!!」
ポカンと、ふたりの口が開く。
……まさか姉の虚言を本気で受け取る人がいるとは。
そんな人間が、あんな殺風景な部屋で謎のピンクジャージで演奏なんてしないと思う。
「そして!ここにいるのはその二代目さん!!!」
どーん!と鼻息荒くするその姿に、ふたりはえっと、と一言。
「………あの、どちら様ですか?」
怪訝そうにふたりは尋ねる。
そして、あからさまに警戒してる様子に、おっと、と彼女は呟く。
「こ、これは失礼しました~!あっ、あたしぽいずん(はーと)やみ。ぼんらぼってバンドの批評サイトで記事を書いてる十四歳で~す!」
「……………………………はぁ」
なんか、また変な人が現れたとふたりは思う。
姉や姉のバンドメンバー。さらに最近なら廣井や山田等、変人には慣れたつもりだったがその自信が打ち砕かれる。
変人とは、どうにもいろんな種類がいるらしい。これだけバリエーション豊かだと、慣れる事は出来ないのかもしれない。
記事、という言葉にそれぞれが反応する中、ふたりはとりあえずしらを切る事にする。
「なんの話か解らないんですけど……」
「またまた~。ギターヒーロー後藤ひとりの妹さんでしょ?」
わりとデリケートな内容であろう事を口に出した為に、内心ドキリとする虹夏と喜多。
対するふたりは、興味を引かれたらしく警戒心が薄れた。
…………ちなみに、後藤ひとりの名前が出た際に、静観していた星歌の片眉がピクリと動いた。
それから、同じように成り行きを眺めているPAさんの所へ行った。
「…………」
ふたりは思う。姉がギターヒーローだと知ってるという事は、親しい人なのかもしれないと。
「……お姉ちゃんを、知ってるんですか?」
「それはもう!私、大大大ファンでしたから~!」
「……そうなんですね」
姉のファンの人。そう聞いて悪い気はしない。というか嬉しい。
そっか。お姉ちゃんの事が大好きだったんだ。
それと同時に湧いてくる申し訳なさ。わたしのせいで……。
それから話を聞くと、個人的な付き合いはほとんどなかったらしい。
ギターヒーローだと知ってる理由は、初めて行ったライブの際に掻き鳴らす音色とギターで特定したそうだ。凄い。
それはさておき、小さく首を振りつつ、どうしようと思う。
「あの~ギターヒーローって……?」
そこに喜多ちゃんがやって来た。
本当に知らなさそうな様子に、これを見てとスマホを見せるぽいずん。
「あの……あんまり、その……」
あまり知られたくない。もう手遅れだけど。
登録者数は確かに多いが、それは姉の功績なのだから。
あくまで、ギターヒーローを風化させない事が二代目の目的なのだ。このバンド活動とは……関係、ない……。
「ふたりちゃんってこんなに凄い子だったの?」
「再生数すごー!」
「いや、それは……」
確かに再生数は稼いでるけど、違う。違う違う違う。ソレに関しては、本当に違う。凄いのはお姉ちゃん見て欲しいのは初代。お姉ちゃんの動画。
お姉ちゃんの方がわたしより上手い。ずっと、ずっと。埋もれないために定期的にあげてるだけ。
お姉ちゃんのファンが見てくれてるだけ。違うの。
「ウチの編集長にかけあって業界の人に紹介してもらえるよう言っときます!良い人がいるって!」
「……え?」
その言葉に、ふたりは目を見開く。
「えー、デビュー出来るかもって事?」
「すごーい!一気に結束バンドが遠い存在に思えて来ました!」
「………」
確かに、それは目的だった。有名になって、お姉ちゃんはもっと凄いんだよって。宣伝して。
その為にバンドを始めたんだ。それが、実を結ぶ……?
こんな不意に?まだ、心の準備が出来ていない。
喜多と虹夏をみると、思わぬ話に頬が緩んでいた。そっか、みんな嬉しいのか。
なら、わたしも喜んでいいのか。みんなで有名に───
「いや、二代目さんだけだけど?」
───その言葉に。周囲の空気が、凍り付いた。
音が、聴こえない。ふたりの思考が、冷めて止まった。