ギターヒーロー二代目【完結】   作:怒雲

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それぞれが見上げた空は、暗くても

 

 

 

シン……と。周囲が静まり返る中、やみは言葉を続けた。

 

「だって。ガチじゃないですよね?」

 

 

 

「えっ……」

 

虹夏の表情が凍り付くのを見て、ふたりの頭は真っ白だ。

 

 

………なにを言ってるんだろう、この人は。ガチじゃない?真剣じゃないって事?……誰が???

 

 

「だって、客も常連だけだし宣伝だってそんなにやってないみたいだし。

これっぽっちのお客さんで満足気味だし、本気でプロ目指してるように見えないんだもん」

 

 

「……なにを、言って……」

 

声が上手く出ない。嫌な汗が出る。なんで、なにこの空気。待ってよ。

 

 

「二代目さんはプロでも通用しますし、ちゃんとしたバンドにはいった方がいいですよ!このバンドと違って、その方が本来の実力も出せるはずですし!

いい話ないか、いろいろ探しておきますね!

はっちゃけた感じがいいですよね!?」

 

 

 

なんで、わたしだけなの? だって、わたしが一番……みんなと違って。

 

 

何か言いたい。声が出ない。……こんな話を聞いて、みんなの顔を見るのが怖い。身体が震える。

 

 

違う。わたしが望んでたの、こんなのじゃなくて。みんなと───

 

 

「わたし───!」

 

「ふぎゃあ!!」

 

ふたりか口を開くのとほぼ同時、やみは悲鳴をあげた。

 

それから、ゲホゲホと咳き込んでいる。

 

 

 

彼女のすぐ近く。そこに店長である、伊地知星歌がいた。

 

 

片手にはタバコ。どうやら煙を吹き掛けたらしい。

 

 

普段から目付きは悪いが……今回ばかりは、かなり目が据わっていた。

 

その隣には、とてもニコニコしているPAさんもいる。

 

 

 

「けほっ、けほっ……な、なにするんですか!」

 

「……帰ってくんない? もう店閉めるんで」

 

「……ま、まだ話は終わってないから帰らないですぅ」

 

 

「………ふぅん」

 

据わった眼で少し眺めたのち、隣のPAさんにちらりと視線を投げる。

 

何時もの笑顔……に見えるPAさん。ただ、その顔は笑顔でなく歪んでいるように思えた。

 

 

「じゃあ、大人同士あっちでお話しませんかー?……『佐藤愛子』ちゃん?」

 

 

────ギクリと、彼女の表情が引きつる。

 

「えっ……あ、ちょ?」

 

「へぇ~愛子ちゃんって言うんだ……可愛い名前じゃん」

 

 

据わったその目をそのままに、星歌は口元に軽い笑みを作ってタバコをまた口にくわえた。

 

 

紫煙がゆらゆらと妖しく揺れて、天井へと向かって行く。

 

 

「そんな不思議がらなくても。貴女みたいな人にはアンチも多いですからね~。ちょっと調べたら、名前くらい出て来ますよ~」

 

「このご時世、名前さえ分かりゃ実家の連絡先も解んだよ……意味解る? ご両親、知ってんの? ぽいずん(はーと)やみ十四歳とか名乗って社会に出てんの」

 

 

「ひぎぃ!?」

 

 

 

ダメージがでかかったのか、よろよろと後退る彼女を見ながら、はん、と鼻で嗤いながら星歌は軽く煙を吐いた。

 

赤っぽい目を少し細めながら、まぁ、と呟き。

 

 

「それでもまだ話あるってんなら、そんなとこ突っ立ってないでこっち来て座んなよ。

………お茶でも飲んで。話でもしようか……」

 

 

「業務妨害の件で、親御さん交えてですけどね~」

 

 

実家の電話番号が映っているスマホを見せ付けながら、PAさんは変わらず笑う。

 

 

「あばば……か、帰る帰るごめんなさい!あばよ!!」

 

まだ彼女としては言いたい事があったものの、二人の迫力と社会的に殺されかねないと判断したやみこと愛子は全力で階段を駆け上がり、ほうほうのていで逃げて行った。

 

 

「……はん」

 

そんな様子をまた鼻で笑い見届けて………星歌はタバコを灰皿に押し付けて火を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、平和的に解決出来ましたねぇ~」

 

呑気に何時ものニコニコスマイルに戻ったPAさんはそう言って星歌を見る。

 

目の前で最愛の妹と、好敵手の妹。そして、その仲間達を目の前で侮辱されたのである。立場がなければ、殴りかかってもおかしくない剣幕であった。

 

 

「……おねえちゃん」

 

不安そうな虹夏を見て、目を閉じ星歌は頭をガシガシ掻く。

 

そして目を開くと、彼女は何時もの顔に戻っていた。

 

 

 

「……まっ。活動してりゃ、ああいうのも定期的に湧いて来る。あんま真に受けんなよ?

今日は全員上がっていいから。……お疲れ」

 

そう言って、ぶっきらぼうに向けたその背に、ありがと、と虹夏は呟く。

 

 

 

「……それじゃ、とりあえず外出よっか?」

 

「……はい」

 

 

虹夏に促されて、ふたりも出口に向けて歩き出す。

 

 

足が重い。頭も重い。でも、一刻も早く外の空気を吸いたかった。

 

 

 

肌寒い空気が頬を撫でる。暗い空を見上げた。

 

 

「……あの、わたし……」

 

「あー……大丈夫大丈夫!私もリョウも、ふたりちゃんがオーチューブで人気のギターヒーロー二代目って、知ってたから!」

 

「え………そう、なんですか……?」

 

うん、とリョウは頷く。

 

「自分で話題に出さないし、触れて欲しくないって思ってたから言わなかっただけ。だから……気にしなくていいよ、ふたり」

 

 

そう言って頷くリョウを見ながら、私は知らなかったですけどねと喜多が呟く。

 

「あー、ごめんね喜多ちゃん」

 

「いえ、大丈夫です」

 

そう言って、喜多は苦笑する。あんまり触れて欲しくない話題なら、聞くべきでもなかっただろうと考えて。

 

 

「……もう帰らなきゃでしょ? ふたり、ばいばい」

 

「気を付けて帰ってね?」

 

 

何時もの通り……に見える二人に会釈をして、ふたりはとぼとぼと帰路につく。

 

 

 

そんな背を見届けて、ふー、と虹夏は息を吐く。

 

 

「……えっと。あのさ!さっきの事、皆大丈夫?

ライターさんもきついよねぇ私達だって──

「まぁ、その話はいいじゃないですか!」

 

虹夏の言葉を、被せるように言って喜多は笑う。

 

「次のライブの日程、また明日決めましょうね!」

 

それじゃあと言って手を振る喜多と、片手をひらひらさせて去って行くリョウを見送り、虹夏はまたタメ息をひとつ。暗い空を見上げた。

 

 

暗い空には、まばらな星の光が弱くても煌めいていて───。

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