喜多に心配されつつも、大丈夫だと一言。ふたりは、先に家路についていた。
脳裏にちらつくのは、大槻ヨヨコの言葉。
「……やっぱり、分かるよね」
一人呟く。みんな、優しいから何も言わないでいてくれる。
少しは、自分でもマシになっていってる自覚はある。
それでも……やっぱり、この歩みは遅すぎる。
ガチじゃないですよね。あの女の声が頭に響く。うん、その通り。
わたしはきっと、ガチになれない。
「……クリスマスか」
白い息を吐く。二代目の動画、更新しなきゃ。
待ってる人がいる。始めてしまった以上、続けられるだけ続けなきゃ。
歩きながら、ふと思う。みんなが真剣なのに、そうなれない自分。
……わたし。結束バンドにいていいのかな?
「ふたりちゃ~ん」
駅の近くまで来たところで、聞き覚えのある声が響く。
「……廣井さん」
「やっほ~……って、元気ないじゃあん、さっきの気にしてる感じぃ?」
……心配して、追って来てくれたのだろうか。
「ぎにしないでいいよぉ、あの子、拗ねてるだけらかや!」
それはさておき、酔っ払っている様子に苦笑しつつ、軽く首を傾げる。拗ねてる?
「いやぁ、最近あの子にキミらの話ばっかりしててさぁ~……それが面白くなかったのかも。ごめんね~」
頭を掻きつつそう笑う廣井に、ふたりは首を軽く振る。
「……実際、わたしが一番ダメですから。廣井さんは、分かってますよね? わたしの演奏が、おかしい事……」
「……ん~~」
ポケットから相棒のおにころを取り出しながら、そうだねぇ、と廣井は空を見上げる。
「ふたりちゃんさぁ、音楽は好き?」
「……それが。解らないんです」
そうだ。自分がこの道を行くのは代償行為に過ぎない。
もうこの道しか進めなくなってしまってるけれど……わたしは、本当は……。
「わたし、本当は音楽なんて、好きじゃないのかも……」
「本当に?」
廣井は、少し困ったように微笑んでいる。
口を開くが、声が出ない。わからない。
………好きだと声に出せなくて。でも嫌いだと……言いたく、ない。
「ひとりちゃんの……お姉ちゃんのギター、嫌いだった?」
「そんな事……」
「ひとりちゃんから聞いてるよ? 初めてタンバリンを手にした時、凄く夢中になったって」
「…………」
少し黙る。ああ、そうだ。そうだった。
また忘れるところだった。最近、いろいろ思う事があって……もしかしたら、またあの頃のわたしに戻りそうになってたかもしれない。
……ぶれぶれだなぁ、わたし。情けない。
「……ねぇ、一緒に路上ライブした時の事、覚えてる?」
「あの時のふたりちゃん……凄く、楽しそうだったよ」
「そう……なんですか?」
そういえば、そんな気がする。台風のライブも、三曲目は楽しく弾いてたかも。
胸にそっと手をやる。
「機会があったらさ、大槻ちゃんと話してみなよ」
「ヨヨコさんと……?」
うん、と廣井は頷く。
「結束バンドの動画、前にあげてたじゃん? あれ観てからさ、大槻ちゃん、妙にふたりちゃんの事を気にしてたんだ。
今日ここに来たのも、そういう事だと思うんだよね~」
そうなのだろうかと、ふたりは思う。
「まぁ、大槻ちゃんと仲良くして欲しいってのもあるけどね~。あの子、とても良い子なんだけど孤立しやすくってさ~」
「……良い人だっていうのは、なんとなくわかります」
軽く、頷く。そうだ……会ってみたい。
なんとなくだが、ちゃんと話してみたいなと……ふたりは思った。
「……大丈夫」
「……廣井さん?」
「大丈夫。ふたりちゃんは変われてるし、音だって楽しめる。私の勘は当たるんだ」
「ん~、らからだいじょーぶ!なぁんの根拠もないけろぉ!あはは!」
いつもの様子に、くすりとふたりは笑った。
「ありがとうございます、廣井さん」
心からの感謝をこめて、そう言った。
うんうんと頷く廣井に別れを告げ、身を翻そうとすると……
「あ、ふたりちゃん、待って待ってぇ~!」
「…………」
……………………………………。
「……電車賃ですか?」
「あり?わかっちゃった~?もしや!ふたりちゃんエスパー!?」
「………」
軽くタメ息混じりに、財布を手に取る。前もこんな事あったな。
「……もっと、素直に尊敬させて下さい」
ぼそりと呟きお金を渡すと、なんか言ったと首を傾げる廣井。
そんな彼女に、なんでもないですと一言……ふたりは駅のホームに向かう。
少し軽くなった心で、電車に乗り少し目を閉じる。
大槻ヨヨコ。……あの人は、どんな想いを乗せて楽器を弾くのだろうか。
ふと、気になった。
何故だか解らないけど、惹かれるものがあった。
今度、会う時は。ちょっとでも話をしてみようと思う。