「メリークリスマス!」
ところ変わって、ここはSTARRY。
クリスマス兼、ライブの打ち上げ兼、店長こと星歌の誕生日会である。いろいろ兼ねてごちゃごちゃしていた。
いつものメンバーと、今回はSIDEROSのメンバーもいる。
しかし廣井きくりの姿はない。理由はお察しの通りである。
司会進行は虹夏と喜多がやっており、ふたりはのんびりと座って、ボケッとしていた。
基本的に、ライブが終わるとだいたいこんな感じである。うん。体力ないなわたし。
「あんたちっさくて細いんだから、もっと食べなさいよ」
と、ヨヨコがやたらと世話を焼いてくる……ように見える。
しかし、その実態は……単に、陽キャテーブルのノリに付いていけず、陰キャテーブルに逃げて来たものの、会話が一切なくこれはこれできついと思った為である。
リョウ、ふたり、ヨヨコの三人のテーブルは、ほとんど会話がないのだ。
リョウは基本的に無口、ふたりは受動的であり、話し掛けられないとあまり口を開かない。
その為に会話がないのだ。
ふたりとリョウは、話す時は話すが話さない時は本当に話さない。
リョウがスマホを眺め、完全に自分の世界に入ってしまった為にふたりも話題がないために沈黙。
なんでこいつら同じメンバーなのに会話がないのよとヨヨコは思う。
ふたりは、なんでヨヨコさんここ来たんだろうと思っている。なんか、気を使わせてしまっているのだろうか。あんな話してしまったし。
そんな陰キャテーブルと違い、陽キャ共は和気あいあいとしている。
「そういえば、ライブどうだった?」
星歌に聞かれて、虹夏は笑う。
「ライブはね~。皆大盛り上がりでモッシュにダイブにサークルまで出来て!……なんて事もなく普通にアウェイでした」
ふっ、と虹夏は苦笑して……聞こえていたヨヨコのツインテールがピクリと跳ねる。
「まぁ、初めての箱じゃそれが普通だよ」
「そ、そうよ!」
星歌の返事に便乗するヨヨコ先輩。がたりと席から立ち上がり、ずいっと虹夏らへと接近。
「演奏の出来と客の盛り上がりは関係ないから!
その日のライブの空気なんて色んな要素が関係するしそりゃそれをひっくり返せるくらいのライブするのが一番なんだけどそれと緊張して気付かなかったかもだけど後ろの方だとのってる人もいたし完全にアウェイってわけじゃなくて初めての箱だって考えればむしろ健闘したってくらいで───
そんな感じでめちゃめちゃフォローにまわるヨヨコを、SIDEROSのメンバーは生温かな目で眺めていた。
あれだけ格好良く、絶対上手く行くと言って送り出したのだから、気まずいのだろうと。
「……でも本当に感謝しかないよ。今の結束バンドじゃ、絶対出られないような場所でやらせてもらったわけだしね。
大人数の前でのライブ経験も積めたし、後は曲数増やして練習を重ねるだけだね!」
「ですね!」
ふんすと気合い充分の虹夏と、やる気みなぎる喜多を見ながら、ん?とあくびは少し眺めて、なんとなしに尋ねる。
「何かあるんすか?」
「未確認ライオットってフェスに出ようと思ってて……この前、ライターさんがうちに来たんだけど……」
「それ失礼な話ですね~」
「うーん……でも図星な部分も結構あって……」
「お姉ちゃんの虚言なんか信じるあの女だし、テキトーに言っただけじゃないの?」
ムスッとした顔でふたりが話に割って入り、虹夏が引き吊った笑みを浮かべる。
「お姉さんの虚言?」
「そう言えば、凄いバンドの人なんですっけ?」
興味を持った楓子とあくびに、まぁ、とふたりが頷き……
「ギターヒーローだったかしら?」
喜多が思い出すように目線を上げながら言った。
「へぇ、ギターヒーローさんっすか…………ギターヒーロー!?」
驚くあくびを見ながら、しまったとふたりは思う。
その話はしていなかった。
「………────」
ギターヒーロー。その単語に、ヨヨコは少し目を見開きながらふたりを見る。
弾いてみた系の動画を。ジャンルを切り開いた存在とも言えるし、ヨヨコもまた、ギターを手にした頃に何度か観た。
……そうか、と思う。なんとなく気になった理由は、それなのかと。
「えっ、じゃあギターヒーロー二代目さんなんすか?」
「あー。まぁ、はい。……バンドだと上手くやれないんですがね……」
苦笑しつつ、しまったという顔をしてる喜多に、大丈夫だよと手を軽く振る。
「ソロだと調子出せるんですけどね……あ、出来れば内緒にして欲しいんです」
そんな話を聞きながら、ヨヨコはスマホを弄る。未確認ライオット…………。
「やっぱここにいら~~~!
あらひずっと一人でまっへはんらよ~~~!」
宴もたけなわの辺りで、STARRYの扉が開き酔っ払いが一人エントリー。
待ってたというわりには既に酔っ払っているように見える。頭に雪が積もってるので、たんに寒くて呂律か回ってないだけかもしれないが。
………まぁ、なんやかんやでやって来た事に、ちょっとだけふたりはホッとする。
ヨヨコはとても嬉しそうであった。
なんにせよ、楽しい一時だった。
最後に星歌への誕生日プレゼント。ぬいぐるみが好きらしいので、ふたりは買っておいた可愛いぬいぐるみを。
他の人はどんなものかと思えば、お洒落に映える物を持って来た喜多はともかく、中々にアレであった。
「私は~~なんと!肉と現金れす!」
廣井らしくなさすぎるプレゼントに、彼女をとても慕っているヨヨコですら、どこから盗んで来たんですかと戦慄していた。真っ先にその可能性に至るのおかしいでしょ。
しかし、それが当たるポイントシール十点分であった。残り十点足りない。
オマケに期限切れである。とどのつまりゴミ。
山田さんは用意してなかったらしく、外に出て雪だるまを作り献上していた。
妙にかわいいエピソードを作る辺り、星歌の性格をよく分かってるなとふたりは思う。
楽しい時間が終わり、それぞれが帰路へと。
「結束バンド!」
去り際に、ヨヨコは宣言した。
「私たちも未確認ライオット出場するから! 今決めた! だから………」
ごそごそとなにやらメモを取り出し、ヨヨコはリーダーである虹夏にメモ帳を突き出す。
「書類選考で落ちるなんてダサい事されたくないし、改善点まとめてあげたから!……ありがたく読めば?」
まるでマネージャーの如し気遣いに、苦笑しつつも虹夏はそれを受け取る。
「そういう訳だから、後藤ふたり。ちゃんと、貴方の演奏が出来るようになりなさいよ?」
「……はい」
ヨヨコの言葉に微笑み返事すると、ふん、と彼女はそっぽを向き身を翻す。
……やっぱり、良い人で。かっこいい人だとも思った。
「私ら聞いてないんですけど」
「相談はちゃんとしましょうよ!そうゆう所で皆やめてくんですよ!」
「あっ。出ても……いいですか……?」
そして直後にメンバーから怒られている姿に、ふたりは苦笑する。変なところで決まらない人であった。
「………」
白い息を吐いて、雪の降る空を見上げる。
……わたしの演奏。わたしの音。……わたしの人生。
「こんばんわ~。さっきぶりですね~」
「あれ、幽々さん?」
駅に着くと、内田幽々に声をかけられた。
他のメンバーの姿は見えない。
「この駅から帰りなんですか?」
「まぁ、そんな感じです~」
薄く笑いながら、彼女は隣に立つ。
何を考えてるかよく分からない人。他のベーシスト達とは違う、不思議な空気を持ってる人だ。
抱いてる妙にホラーチックな人形が怖い。
「そういえば~」
列車が近付く音が聞こえた辺りで、幽々は唐突に口を開いた。
「お姉さんに、ちゃんと言うべき事があるんじゃないですか~?」
「……え?」
「幽々はぁ、誰かを助けたら、聞きたい言葉はごめんなさいじゃないですね~」
「…………それって、どういう──」
列車が到着し、彼女は歩き出す。
最後に身を翻して、片手をひらひらとさせて、そのまま列車に乗って姿を消した。
……ごめんなさいじゃない言葉。そっか。そういえば、わたしは────。
自分が乗る列車の音が聞こえて、ふたりはそれに乗った。
……本当に、不思議な人だったなとふたりは思った。