あれからまた少しだけたった。新学期である。
冬休みは、結構疲れた。流石に毎日ではなかったが、喜多にあちこち連れていかれたからである。
初詣に行った時は、喜多のクラスメイトらと鉢合わせになり、なんかカラオケ大会になったりと。
久しぶりに大人数だった為に、だいぶ疲れたが、楽しい冬休みにはなった。
「おはようございます」
「ふたりちゃんおはよ~」
STARRYにて、顔を合わせて挨拶をするふたり。
「……」
虹夏は思う。最近、ふたりちゃんの表情がなんだか柔らかくなったと。
きっと、いい傾向なんだと思う。こんな表情が見れるなら、バンドやって良かったなと心底思うのだ。
……ただ、今は懸念がひとつある。
「……リョウさん、今日も来てないんですね」
辺りを見回して、ふたりはポツリと呟く。
「……うん。ってあれ、喜多ちゃんは一緒じゃないの?」
「ああ、喜多ちゃんなら……」
困り気味にふたりが視線を移すと、そこにはキターン!!!………としておらず、どんよりとした喜多ちゃんの姿があった。
「生きるのしんどいわ……」
「なにがあったの……」
何時もの彼女とはまったく違う姿に、虹夏は深刻そうにふたりに尋ねる。
「最近、リョウさんと全然会わないから落ち込んでるみたいです……」
「そう、なの……」
「でもイソスタは更新してるみたいです」
「………SNSやってるうちはまだ大丈夫だね!」
最近はだいぶ幻想も壊れていると思ったが、喜多にとっては未だに憧れの大先輩なのである。
富士の樹海が映えそうとか呟く喜多に戦慄しつつ、今度はふたりが虹夏に尋ねる。
「学校ではどんな感じなんですか?」
「……実は、学校にも来なくなっちゃって……」
それって、まさか……ふたりは思う。
「リョウさん……借金しすぎて捕まったんじゃ……刺されたりとか……」
「やめて!結構洒落にならないから!」
リョウは誰にお金借りたっけ……?とか言い出す人間だ。金銭トラブルはリアルである。
「違うわ……」
しかし、その発想に喜多は待ったをかけた。
「それは絶対、恋……男だわ!!!」
「お、男……?」
ふたりは少し頬を引き吊らせる。こういってはなんだが、リョウが誰かと付き合う姿が想像出来ない。
虹夏と喜多が悪い男に引っかかるのは想像出来てしまうのが悲しい。
「こんなに女子がいるのに誰一人受かれた話がなかったのに!ふたりちゃんなんてモテモテなのに!
それなのに浮いた話がないのは、何か見えない大きな力が働いてるんじゃないかと思って安心してたのに!!!」
「待って、わたしがなんて???」
微妙に聞き捨てならない言葉が聞こえた気がしてふたりはそこを突っ込む。
実際、姉に似て美人も美人。美少女なふたりは人気があるのだ。少しうつむき気味な事も多いが、姉と違い顔がよく見えないという事もなく、二重顎になるレベルで俯く訳でもないので。
どこか人を遠ざけるミステリアスな雰囲気もあり、実は何度かアプローチもかけられた。
しかし、いろんな意味でそれどころじゃなかったふたりは尽くスルーしてきたのである。
ついでに言うと、ふたりは自分の容姿を悲観してはいないものの、背が低く、よく中学生どころか小学生にすら間違われる事があるために自分が異性として見られていると思っていなかったのである。
喜多は、仲の良い男子から……文化祭以降はとくに、頻繁にふたりの事を聞かれる為にそこらを知っているのである。
文化祭で特別な事をしたわけではないが、小さな身体で大きなギターを掻き鳴らす姿は強い印象を残したのだ。
上手さや歪さは、素人はそこまで気にしないし、そもそも同年で楽器を鳴らし舞台に立つだけでも充分に憧れの対象にもなるだろう。
「………」
ふたりは思う。彼女から言わせてもらえば、喜多ちゃんや虹夏さんに彼氏がいない事の方が意外だと。
虹夏さんは鈍感な気がするけど、喜多ちゃんはそういう雰囲気になったり告白される事とか多そうだけどなぁ。
いや、虹夏さんも多そうな気がする。やんわり断ってるのかな? バイトに勉強にバンドに家事で忙しいし。うん、凄いな虹夏さんは。やっぱり虹夏様とお呼びした方が良いのでは……?
「……みんなで様子を見に行きませんか?」
なんやかんやで、虹夏も心配してそうだし、なにより喜多がこのままだとヤバそうだ。
……ふたりだって、心配だ。
そんなこんなで、三人でリョウの家まで向かう。
「……」
少し、無言で虹夏は最近のことを思い出す。
───楽曲制作、調子はどう?
───………ぼちぼち。
───リョウならいいの作れるよ!楽しみにしてるね!
───………まぁ、がんばるわ。
私が無意識にプレッシャーかけてたのかな。……最近、少し元気ないの気付いてたのに……。
「……大丈夫ですか?」
「えっ? あ、大丈夫だけど……どうしたの?」
「いや、なんか思い悩んでたように見えたから……」
おどけて笑う虹夏を見ながら、何時も一緒の二人だし、誰よりも心配してるんだろうなとふたりは思う。
…………リョウさん。大丈夫だよね? 本当に金銭トラブルで刺されたり埋められたり沈められたりしてないよね?
不安になりつつも、豪邸に辿り着く。
家が病院やってるのは伊達じゃない。こんな豪邸に住んでるお嬢様が、そこらの雑草を食ってるなんて誰も思わないだろう。
…………ちゃんと、家にはいてくれるだろうか。
「あ!先輩、あんなところに!!!」
喜多が指差すそこに、確かに山田リョウその人の姿はあった。
家の庭でテントを広げ、その隣で寝袋に身を包み転がるという、いまいち状況が分からない姿でそこにいたのだった……。