ギターヒーロー二代目【完結】   作:怒雲

58 / 99
今日の音を楽しんで

 

 

「こんなところで何してんの!?」

 

もっともなツッコミを雑草入れる虹夏の後ろ、ふたりも頷く。

 

死んでなくて安心しているが、それはそれとして状況が謎だ。

 

「遠くに旅に出ようと思ったけど、準備するのダルくなって庭でキャンプしてた」

 

「それならいっそ、キャンプなんてしなくていいのでは……」

 

 

パソコンも持ち込んでいるし、ご飯もケータリングしている。

 

キャンプなめてんのかというツッコミに、ゆるきゃんと返事する山田さん。

 

 

「リョウちゃーん!!」

 

そこに、聞き慣れない声が響いた。

 

見ると、大人の男女。虹夏によると、リョウの両親らしい。

 

 

 

「BBQの準備出来たよ~~!」

 

「デザートもあるよ~~!」

 

 

「あら~虹夏ちゃん久しぶり!二人はバンドの子かな?」

 

「君達も参加するかい? 花火もやるよ~~!」

 

テンション高い両親の姿を見ながら、ふたりはなんとも言えない表情だ。

 

なんか、ノリがちょっと家に似てる……気がする。

 

 

「えっ、お仕事は大丈夫なんですか?」

 

困惑し尋ねる虹夏。確か、お医者さんだったはずである。

 

 

今日はたまたま休みだったのかな?

 

「リョウちゃんがずっと家に居るのが嬉しくて!」

 

「今病院は休業してるんです!」

 

 

 

おい社会人!とツッコミをいれる虹夏の隣、いやいやとふたりは思う。病院でそれはまずいだろうと。

 

 

ばんざーい!と喜ぶ二人を見ながら、いろんな意味で大丈夫なんだろうかと思う。

 

 

 

むくりと、リョウは仏頂面で起き上がり、両親に、部屋に行くと短く告げた。

 

 

 

 

……ふたりとしては、今のリョウの心情はなんとなく解るものがある。

 

虹夏と喜多がやって来た時、イエーイウェルカーム!された時ときっと同じだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして、なんやかんやとリョウの部屋へと。

 

家がでかいだけあり、部屋も広い。本当にお嬢様なんだなと思う。

 

 

なんでこれで野草生活なんてやるんだろうか。

 

 

 

「わ~楽器が沢山!」

 

喜多が目を輝かせ辺りを見る。ベースだけでなく、ギターにバイオリンもあった。昔習っていたらしい。

 

 

 

「私が使ってた六弦ベースってどこにありますか?

大切にしてくれてます?」

 

そういえば、そんな話だったなとふたりは思い出す。あのベース、リョウさんが買い取ってくれたんだった。

 

きっと大切にしているのだろうとあの日の自分は思ったが……。いや、流石に大丈夫だろう。

 

嫌な予感が頭を横切ったが、この人は楽器を愛する人だ。問題ない。

 

 

ニコニコ笑顔で尋ねる喜多に、リョウは小さく頷きひとつのベースを、これ、と指差す。

 

 

 

 

そのベースには……玄が四本しかなかった。あっ……。

 

 

 

 

「………えっ、違くないですか……?」

 

「これになった」

 

「…………」

 

 

 

どうやら、売り飛ばされたらしい。

 

口元に固まった笑みを遺しながら、目の光が消えた喜多ちゃんからはとても悲壮感が漂っていた。

 

ふたりもドン引きである。

 

 

……いやまぁ、ちゃんとお金出して買い取った物なので、どうしようが確かに勝手だとは思うが……。

 

 

 

なんというかこう……もう少し……手心というものを………。

 

 

 

「あっ、曲作ってたんだね」

 

パソコンを見て虹夏が言うと

 

「あっ、まぁ……」

 

と、リョウは歯切れ悪く返事をする。

 

「あ、曲!たくさんあるじゃないですか!

何か聴かせて下さいよ!」

 

復活の喜多ちゃん。凄いメンタル強度だとふたりは感心する。

 

わたしもこのくらい強くなりたいと思う。

 

 

しかし、喜多が手を伸ばすと、リョウは即座にそれを取り上げた。

 

 

そして、今だかつて見せた事がない俊敏性を披露! どっかのバスケット漫画初期のような動きであった!

 

 

喜多ちゃんは、バスケ部とかにも助っ人を頼まれる程の猛者なのだが、そんな彼女をものともしない!

 

 

 

「なんでそんなに隠すんですか……」

 

息も絶え絶えに根負けした喜多と、アウトドア派を相手に勝利するインドア山田。

 

 

 

辺りには、派手に動いた為に机の上にあった紙等が散乱していた。

 

 

 

「……作りかけで微妙だから、まだ聴かせたくない」

 

そう言って、リョウは顔を背ける。

 

いつもと違う雰囲気に少し怯むも、喜多ちゃんはまた笑顔を作る。

 

 

「絶対そんな事ないですよ!いつもいい曲を作って来てくれるじゃないですか!」

 

キターン!な笑顔……それでも、リョウは小さく首を横に振った。

 

 

「こんなつまらない曲じゃ、絶対デモ審査で落とされる」

 

 

「……この歌詞……ふたりの、凄く、大事な想いが詰まってる……から、今までのクオリティなんかじゃ吊り合わない。

それに、皆このフェスにかけてるから……半端な事できない……だから、もっといいの作れるから……待ってて……」

 

 

「……出来たら連絡するから、今日は帰って。気が散る……」

 

「………っ」

 

しんと、部屋は静まり返った。

 

……わたしが、苦しめた?

 

 

 

 

 

 

 

「………!」

 

 

いや、そんな事を考える必要はない。ふたりは、落ちて散乱した紙切れを拾い上げる。

 

それは楽譜だった。作りかけの楽譜。

 

同じ曲を何度もボツにしていた。自信をなくしているのだろう。

 

 

 

 

……悪くないはず。悪い訳がないんだ。

 

そっと、ギターを取り出した。

 

 

指先が、震える。ちょっと、怖い。

 

でも、みんなに。……リョウさんにはお世話になってきた。だから、わたしは、わたしの想いを。怖れず、伝えたい。

 

 

 

 

「……───ッ」

 

楽譜を見て、音色を掻き鳴らす。

 

……ほら。やっぱり、素敵なメロディー。

 

リョウさんは、わたしの書いた歌詞に真剣に向かい合ってくれた。今も、今までも。

 

 

普段はどれだけアレでも、この人は真剣に音楽に向き合ってる。そんな人の創る曲が、悪い訳がない。

 

 

 

 

 

 

ギターの音色。少しばかり、ポカンとしていた虹夏が、笑う。

 

「あっ、そのフレーズかっこいいね!……じゃあ、ドラムはこんな感じかな?」

 

 

ティッシュ箱等を、虹夏はドラムスティックで叩く。

 

 

 

「………」

 

ふと、喜多は思い出す。初めて、ふたりと会った日の事を。

 

心の底から、かっこいいと思った事を。

 

 

 

本当はとても繊細で、優しくて悲しい人だけど……やっぱり、かっこいい。

 

 

「先輩、ちょっと借りますね!」

 

壁にかかっていたギターを手に取り、喜多もまたセッションをした。

 

 

 

「……『個性捨てたら、死んでるのと同じだよ』……」

 

ぼんやりと眺めていたリョウに、ふたりは声をかけた。

 

「……でしょ? リョウさん」

 

「わたしの歌詞を大事にしてくれて嬉しいです。皆がこのフェスにかけてるから、いい曲創ろうと頑張ってるのも凄いです。でも……」

 

「わたしは、リョウさんの曲が好きです。大事な歌詞だからとか、審査で受かる曲じゃなくて、リョウさんの曲がいいんです」

 

「……ほら、凄く良い曲ですよ。リョウさんも、一緒にセッションしませんか……? バラバラな人間の個性が集まって、それがひとつの音楽になる……でしたよね?」

 

 

 

「…………」

 

何かを思い出したように、リョウはベースを手に取った。

 

 

それぞれが、目を閉じた。

 

思い浮かべるのは、いろんな人達の前でこの演奏をする姿だった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ほらーっ!だから私言ったじゃないですか~!

もう一回みんなで合わせましょうよ!」

 

演奏が終わり、少しだけの静寂……を破って、喜多はぴょんぴょんと跳ね喜ぶ。

 

 

対するリョウは、いつものスンとした態度。

 

「それはいいけど……そのギター四十万するから。ぶつけないでね」

 

「あっ勝手に借りてすみません……」

 

借りるとは言ったものの、許可は確かに得てない。得てないが……。

 

 

まぁ、これが何時もの山田さんかと、ふたりはちょっと苦笑する。

 

 

 

 

 

「バイト、勝手に休んでごめん」

 

「あたしはいいけど、ちゃんと明日お姉ちゃんに謝るんだよ!」

 

恐る恐るギターを元の位置に戻そうとする喜多と、それをフォローしようとするふたりを尻目に、リョウと虹夏は話をする。

 

 

「……ごめんね。リョウが、そんなになるまで気付かなくて……」

 

「別に。私が勝手にスランプになってただけだし。

……結果がダメだったら……皆バンドやめるんじゃないかって、不安になった」

 

 

 

 

 

 

 

「怖くて一歩も動けないわーっ!」

 

「大丈夫だよ喜多ちゃん、丁寧に扱ってればそうそう傷付く事なんてないし───」

 

 

ドスンと重い音がして、ふたりと喜多はびくんと肩を跳ねさせた。

 

 

振り返ると、見事なジャーマンスープレックスを虹夏がリョウに決めていたのである。

 

 

 

「えっ……今の流れでなんでバイオレンス……」

 

普通にビビるふたりと喜多ちゃん。

 

リョウも全力でびびって恐る恐る虹夏から離れている。とりあえず、ダメージがあまりなさそうで安心だ。

 

 

 

「……確かにフェスは大事だけど!だからって、それくらいで解散するわけないでしょ!」

 

そう言って、虹夏はふたりと喜多に視線を投げて、再びリョウと向き合った。

 

 

「このメンバーで音楽やってると楽しいから、バンド組んでるんでしょ?

……だから、これからはちゃんと皆を頼るんだよ、リョウ?」

 

「………」

 

 

 

「あっ、いいんですか? それじゃあ欲しい機材があるんですが、一人五千円程度……」

 

「こいつ……!」

 

 

すっかり何時もの調子に戻った山田を見て、ふたりと喜多は顔を合わせて苦笑する。

 

 

それはそれとして、リョウはまた虹夏からプロレス技をくらうのだった。

 

 

 

「……やめてよね。本気で喧嘩したら、私が虹夏に敵うはずないだろ……」

 

撃沈の山田に、まったくと虹夏。

 

しかし、その表情はすぐに柔らかくなった。

 

「……でもリョウがそこまで結束バンドの事を想ってたなんて、素直じゃないじゃん。

いっつもどうでもよさそうにしてるのに」

 

 

「………そうだよ」

 

 

 

「………知らなかったの?」

 

リョウは、そう言って微笑む。うん、知ってる。ふたりは思う。

 

もしかしたら、この人が一番バンドを大切にしてるだろう事を……。

 

 

 

 

「それじゃさっきのセッション形にしたいからもう帰ってくれる? 忘れないうちにやりたい」

 

 

もうすっかりケロッとした山田。てめ~~~~とキレ気味の虹夏を、ふたりは慌てて抑えた。

 

 

 

もう一度攻撃を受けたら、彼女のカラカラが吹き飛んでしまうかもしれない。そうなったら大変である。

 

 

 

 

 

ちなみに、ふたりもすっかり忘れてしまったが。

 

STARRYではリョウに続き三人も消えてしまい、店長星歌は、私いつの間にか嫌われていたのかと本気で悩んでしまい、PAさんはそれを、そんな事ないですよ~と必死にフォローしているのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。