「こんなところで何してんの!?」
もっともなツッコミを雑草入れる虹夏の後ろ、ふたりも頷く。
死んでなくて安心しているが、それはそれとして状況が謎だ。
「遠くに旅に出ようと思ったけど、準備するのダルくなって庭でキャンプしてた」
「それならいっそ、キャンプなんてしなくていいのでは……」
パソコンも持ち込んでいるし、ご飯もケータリングしている。
キャンプなめてんのかというツッコミに、ゆるきゃんと返事する山田さん。
「リョウちゃーん!!」
そこに、聞き慣れない声が響いた。
見ると、大人の男女。虹夏によると、リョウの両親らしい。
「BBQの準備出来たよ~~!」
「デザートもあるよ~~!」
「あら~虹夏ちゃん久しぶり!二人はバンドの子かな?」
「君達も参加するかい? 花火もやるよ~~!」
テンション高い両親の姿を見ながら、ふたりはなんとも言えない表情だ。
なんか、ノリがちょっと家に似てる……気がする。
「えっ、お仕事は大丈夫なんですか?」
困惑し尋ねる虹夏。確か、お医者さんだったはずである。
今日はたまたま休みだったのかな?
「リョウちゃんがずっと家に居るのが嬉しくて!」
「今病院は休業してるんです!」
おい社会人!とツッコミをいれる虹夏の隣、いやいやとふたりは思う。病院でそれはまずいだろうと。
ばんざーい!と喜ぶ二人を見ながら、いろんな意味で大丈夫なんだろうかと思う。
むくりと、リョウは仏頂面で起き上がり、両親に、部屋に行くと短く告げた。
……ふたりとしては、今のリョウの心情はなんとなく解るものがある。
虹夏と喜多がやって来た時、イエーイウェルカーム!された時ときっと同じだ。
そうして、なんやかんやとリョウの部屋へと。
家がでかいだけあり、部屋も広い。本当にお嬢様なんだなと思う。
なんでこれで野草生活なんてやるんだろうか。
「わ~楽器が沢山!」
喜多が目を輝かせ辺りを見る。ベースだけでなく、ギターにバイオリンもあった。昔習っていたらしい。
「私が使ってた六弦ベースってどこにありますか?
大切にしてくれてます?」
そういえば、そんな話だったなとふたりは思い出す。あのベース、リョウさんが買い取ってくれたんだった。
きっと大切にしているのだろうとあの日の自分は思ったが……。いや、流石に大丈夫だろう。
嫌な予感が頭を横切ったが、この人は楽器を愛する人だ。問題ない。
ニコニコ笑顔で尋ねる喜多に、リョウは小さく頷きひとつのベースを、これ、と指差す。
そのベースには……玄が四本しかなかった。あっ……。
「………えっ、違くないですか……?」
「これになった」
「…………」
どうやら、売り飛ばされたらしい。
口元に固まった笑みを遺しながら、目の光が消えた喜多ちゃんからはとても悲壮感が漂っていた。
ふたりもドン引きである。
……いやまぁ、ちゃんとお金出して買い取った物なので、どうしようが確かに勝手だとは思うが……。
なんというかこう……もう少し……手心というものを………。
「あっ、曲作ってたんだね」
パソコンを見て虹夏が言うと
「あっ、まぁ……」
と、リョウは歯切れ悪く返事をする。
「あ、曲!たくさんあるじゃないですか!
何か聴かせて下さいよ!」
復活の喜多ちゃん。凄いメンタル強度だとふたりは感心する。
わたしもこのくらい強くなりたいと思う。
しかし、喜多が手を伸ばすと、リョウは即座にそれを取り上げた。
そして、今だかつて見せた事がない俊敏性を披露! どっかのバスケット漫画初期のような動きであった!
喜多ちゃんは、バスケ部とかにも助っ人を頼まれる程の猛者なのだが、そんな彼女をものともしない!
「なんでそんなに隠すんですか……」
息も絶え絶えに根負けした喜多と、アウトドア派を相手に勝利するインドア山田。
辺りには、派手に動いた為に机の上にあった紙等が散乱していた。
「……作りかけで微妙だから、まだ聴かせたくない」
そう言って、リョウは顔を背ける。
いつもと違う雰囲気に少し怯むも、喜多ちゃんはまた笑顔を作る。
「絶対そんな事ないですよ!いつもいい曲を作って来てくれるじゃないですか!」
キターン!な笑顔……それでも、リョウは小さく首を横に振った。
「こんなつまらない曲じゃ、絶対デモ審査で落とされる」
「……この歌詞……ふたりの、凄く、大事な想いが詰まってる……から、今までのクオリティなんかじゃ吊り合わない。
それに、皆このフェスにかけてるから……半端な事できない……だから、もっといいの作れるから……待ってて……」
「……出来たら連絡するから、今日は帰って。気が散る……」
「………っ」
しんと、部屋は静まり返った。
……わたしが、苦しめた?
「………!」
いや、そんな事を考える必要はない。ふたりは、落ちて散乱した紙切れを拾い上げる。
それは楽譜だった。作りかけの楽譜。
同じ曲を何度もボツにしていた。自信をなくしているのだろう。
……悪くないはず。悪い訳がないんだ。
そっと、ギターを取り出した。
指先が、震える。ちょっと、怖い。
でも、みんなに。……リョウさんにはお世話になってきた。だから、わたしは、わたしの想いを。怖れず、伝えたい。
「……───ッ」
楽譜を見て、音色を掻き鳴らす。
……ほら。やっぱり、素敵なメロディー。
リョウさんは、わたしの書いた歌詞に真剣に向かい合ってくれた。今も、今までも。
普段はどれだけアレでも、この人は真剣に音楽に向き合ってる。そんな人の創る曲が、悪い訳がない。
ギターの音色。少しばかり、ポカンとしていた虹夏が、笑う。
「あっ、そのフレーズかっこいいね!……じゃあ、ドラムはこんな感じかな?」
ティッシュ箱等を、虹夏はドラムスティックで叩く。
「………」
ふと、喜多は思い出す。初めて、ふたりと会った日の事を。
心の底から、かっこいいと思った事を。
本当はとても繊細で、優しくて悲しい人だけど……やっぱり、かっこいい。
「先輩、ちょっと借りますね!」
壁にかかっていたギターを手に取り、喜多もまたセッションをした。
「……『個性捨てたら、死んでるのと同じだよ』……」
ぼんやりと眺めていたリョウに、ふたりは声をかけた。
「……でしょ? リョウさん」
「わたしの歌詞を大事にしてくれて嬉しいです。皆がこのフェスにかけてるから、いい曲創ろうと頑張ってるのも凄いです。でも……」
「わたしは、リョウさんの曲が好きです。大事な歌詞だからとか、審査で受かる曲じゃなくて、リョウさんの曲がいいんです」
「……ほら、凄く良い曲ですよ。リョウさんも、一緒にセッションしませんか……? バラバラな人間の個性が集まって、それがひとつの音楽になる……でしたよね?」
「…………」
何かを思い出したように、リョウはベースを手に取った。
それぞれが、目を閉じた。
思い浮かべるのは、いろんな人達の前でこの演奏をする姿だった……。
「……ほらーっ!だから私言ったじゃないですか~!
もう一回みんなで合わせましょうよ!」
演奏が終わり、少しだけの静寂……を破って、喜多はぴょんぴょんと跳ね喜ぶ。
対するリョウは、いつものスンとした態度。
「それはいいけど……そのギター四十万するから。ぶつけないでね」
「あっ勝手に借りてすみません……」
借りるとは言ったものの、許可は確かに得てない。得てないが……。
まぁ、これが何時もの山田さんかと、ふたりはちょっと苦笑する。
「バイト、勝手に休んでごめん」
「あたしはいいけど、ちゃんと明日お姉ちゃんに謝るんだよ!」
恐る恐るギターを元の位置に戻そうとする喜多と、それをフォローしようとするふたりを尻目に、リョウと虹夏は話をする。
「……ごめんね。リョウが、そんなになるまで気付かなくて……」
「別に。私が勝手にスランプになってただけだし。
……結果がダメだったら……皆バンドやめるんじゃないかって、不安になった」
「怖くて一歩も動けないわーっ!」
「大丈夫だよ喜多ちゃん、丁寧に扱ってればそうそう傷付く事なんてないし───」
ドスンと重い音がして、ふたりと喜多はびくんと肩を跳ねさせた。
振り返ると、見事なジャーマンスープレックスを虹夏がリョウに決めていたのである。
「えっ……今の流れでなんでバイオレンス……」
普通にビビるふたりと喜多ちゃん。
リョウも全力でびびって恐る恐る虹夏から離れている。とりあえず、ダメージがあまりなさそうで安心だ。
「……確かにフェスは大事だけど!だからって、それくらいで解散するわけないでしょ!」
そう言って、虹夏はふたりと喜多に視線を投げて、再びリョウと向き合った。
「このメンバーで音楽やってると楽しいから、バンド組んでるんでしょ?
……だから、これからはちゃんと皆を頼るんだよ、リョウ?」
「………」
「あっ、いいんですか? それじゃあ欲しい機材があるんですが、一人五千円程度……」
「こいつ……!」
すっかり何時もの調子に戻った山田を見て、ふたりと喜多は顔を合わせて苦笑する。
それはそれとして、リョウはまた虹夏からプロレス技をくらうのだった。
「……やめてよね。本気で喧嘩したら、私が虹夏に敵うはずないだろ……」
撃沈の山田に、まったくと虹夏。
しかし、その表情はすぐに柔らかくなった。
「……でもリョウがそこまで結束バンドの事を想ってたなんて、素直じゃないじゃん。
いっつもどうでもよさそうにしてるのに」
「………そうだよ」
「………知らなかったの?」
リョウは、そう言って微笑む。うん、知ってる。ふたりは思う。
もしかしたら、この人が一番バンドを大切にしてるだろう事を……。
「それじゃさっきのセッション形にしたいからもう帰ってくれる? 忘れないうちにやりたい」
もうすっかりケロッとした山田。てめ~~~~とキレ気味の虹夏を、ふたりは慌てて抑えた。
もう一度攻撃を受けたら、彼女のカラカラが吹き飛んでしまうかもしれない。そうなったら大変である。
ちなみに、ふたりもすっかり忘れてしまったが。
STARRYではリョウに続き三人も消えてしまい、店長星歌は、私いつの間にか嫌われていたのかと本気で悩んでしまい、PAさんはそれを、そんな事ないですよ~と必死にフォローしているのだった。