二月。曲が完成した。
『トゥインクル・スター』
わたしの中の、いろんな想いを乗せた歌詞。
リョウさんがそれを汲み取ってくれて、いっぱい悩んで創ったメロディー。
「リョウ、お疲れ。本当にいい仕上がりになったね。
ふたりちゃんも歌詞ありがとう……内容は、聞かないでおくね?」
なんとなく、察してくれた虹夏に、少し照れた様子でふたりは顔をそらす。
大事な人達への、綺羅星のような感謝の言葉と、一番大切な人への想いと……かつての自分へ、おやすみを告げる詩(うた)。
言葉にするのは……流石に恥ずかしい。
「じゃあ曲も完成した事だし、M(ミュージック)V(ビデオ)を撮りたいと思いまーす!拍手!」
まばらに響く拍手の音。なんだか、懐かしいなとふたりは思う。
結束バンドを始めたあの頃を。ミーティングの時を思い出した。
「やっぱりMVがあるのとないのとじゃ大分変わるんですか?」
「今は動画サイトで音楽探して聴く時代だし、あった方がバンドの世界観をより伝えられるからね!
ネット投票の時にもMVあった方が拡散されやすいし、音楽配信サイトにも曲を申請しよー!」
「段々本格的になってきましたね!」
盛り上がる二人を見ていると、なんだかドキドキしてくる。
バンドとして、本格的な活動をしている事に。
ちなみに、これらの活動は以前くれた大槻メモが大いに役に立っていた。本当に親切な人である。
「でもMVって、どうするんですか?」
ふたりが尋ねると、自信ありげに虹夏は笑う。
「本当はお金かけたかったけど、ノルマ代とかで貯めれてないからねー……ってなわけで、自分たちで撮ります!」
「詳しくないのに私達だけで撮れますかね?」
心配そうな喜多に、だいじょーぶ!と虹夏は元気な返事。
「こんなこともあろうかと、超強力なゲストを呼んでるよ!」
そう高らかに宣言すると、まるで示し合わせたようなタイミングで現れる女性二人。
以前、路上ライブの時にファンになってくれた二人組であった。
「結束バンド、ファンのお二人だよ!」
「どもー。1号です」
「2号です~」
そう言って、二人はふたりに微笑む。
なんでも、美大の映像学科の人らしい。
縁とは分からないものだと、ふたりは思う。
「前に遊んだ時に作品見せてもらったけど、プロと遜色ないの作ってるんだよ!」
「ジカちゃん褒めすぎだよ~」
きゃっきゃっと話す二人と虹夏を見ながら、いつの間にかそんな関係にとふたりはちょっと驚く。
まぁでも、仲良いのはいい事だと思う。虹夏さんは、あんまり遊んでるイメージないし。
「お礼はご飯とかしかおごれないけど……」
「好きなバンドにこうやって関われるだけで嬉しいから気にしないで~」
ニッコリ微笑み1号さんはサムズアップをする。その名前でいいのだろうか。
カメラ等の機材はいつもライブハウスで使ってる、結構いいやつを借りたらしい。
良いのだろうかと店長を見ると……
「好きなだけ使っていいぞ……他にも困ってる事あったら言えよ……」
と、妙に親切だった。やっぱり、妹である虹夏を応援したいのだろうなと、ふたりはお礼を言って微笑む。
まぁ、実際には嫌われてると勘違いしたままなので好感度アップを狙っているのであるが。
この後臨時ボーナスが入ってみんな驚く事となり、PAさんが生暖かい目でその光景を眺める事になる。露骨な好感度上げお疲れ様ですね~。
「じゃあどんなMVにするか企画会議を始めましょう~。何かイメージありますか?」
1号さんが言って、うーんとふたりは考える。あまり、思い付かない。……それはあんまり参考にしたくない。
「リョウ、結構バンドのMVとかチェックしてるでしょ? なんかお決まりのやつとかないの?」
「……特に関係ない女が出てきて泣くか踊るか走ってる」
「あ~……見るわ~……」
微妙な表情で呟いて、そういえばと虹夏はふたりを見る。
「ふたりちゃんのお姉ちゃん。ひとりちゃ……ひとりさんのバンドって、MVとか作ってないの?」
「…………えっと」
ちょうど今、ソレは参考にしたくないと思っていたところであった。
あんまり触れて欲しくなかったかな? しまったと思う虹夏が何かを言う前に、リョウが、ずいっと身を乗り出した。
「レッド・ダークネスのMVはロックで好き」
「……よりによってそれですか」
引き吊った表情のふたりを見て、少しまずいと思いつつも虹夏に、喜多。ファン二名も興味を持ったらしくふたりを見る。
少し考えて、軽くふたりはタメ息。
「わたしは好きじゃないやつですけどね……作詞もお姉ちゃんじゃなくて変態ベーシストだし」
「へんた……なんて??」
スマホを取り出し、見ます? というと、それぞれ集まって来る。
映し出されているのは廃墟の映像だった。
メンバーの顔写真が貼られたマネキンが椅子に腰掛けており、ダークなBGMが流れ無気味である。
曲のサビと同時にマネキンが破裂し、周囲に飛び散って、巻き戻し。停止。再生とを延々と繰り返し、かなり奇妙なMVである。見ててリョウ以外は微妙な表情だ。
最後にマスク着けて釘バットやらを持ったメンバーが三人やって来て、椅子やマネキンの残骸を殴り付けるアカイヤミな光景の中、締めとして中央に現れた後藤ひとりが歯ギターを掻き鳴らして終るという、とてもロックなMVであった。
「………なにこれ」
終わって虹夏は呟く。うん、なんだ。なんっていうか……。
ホロリと涙が零れる。よく分からないが、見たくなかった。
この子のこんな姿、見たくなかった。何故かしっくり来る気がしなくもないのがまた悲しい。
「ちなみにこれ、前に家に来た時にいたあのお姉さん発案のMV」
「………あの素敵なお姉さんが!?」
一度顔会わせた喜多が思わず声をあげた。
ちなみにふたりが七歳くらいの頃に、会心の出来!とか言って変態ベーシストに見せられまくって夢に出た為に、ふたりはこのMVが苦手である。
「……これ、火薬とか使ってるんじゃ……」
「どうにかして、使用許可得た……らしいです」
口元をヒクつかせている1号さんに、ふたりも同じような表情で答える。
余談だが、ひとりは爆発しても死なんだろうと、彼女だけマネキンでなく本人が爆破される予定もあったらしいが、流石に怪我するかもしれないとすぐにボツになった。
「……まぁ、お姉ちゃんのバンドは参考にしない方向でお願いします」
「………オーケー!」
そう言って、結束バンドリーダー虹夏は無理矢理この話を終らせるのだった。
ちなみにMVの元ネタ知ってる人いたら、下品なんですがその……フフ。