やっぱり、喜多ちゃんは歌が上手いとふたりは思う。
……でも、きっと自分で納得出来ていないのかもしれない。
唐突にカラオケに誘われた事と、なんか元気がなかった事。
今日の喜多ちゃんは、練習に来たのかもしれない。
そんな事を考えながら、ふたりは手を洗い終えた。
部屋まで戻ろうとするところ、横の部屋から聴こえる音量。盛り上がってるなぁ、とふたりは思う。大人数で来てるのかな?
ただ、声に聞き覚えがあった。ふと、部屋に視線を投げると……そこには大槻ヨヨコ の姿があった。
テーブルにはピザ等の料理。ヨヨコは立って歌い、なにやらポーズみたいなのを決めている。
「………」
喜多ちゃんと同じく、練習で来てるのかな?ふたりは思う。振り付けの練習もしてるのかもしれない。
他のメンバーが見当たらないが、席を外しているのか単に一人で練習しているのか。
なんにせよ、邪魔しては悪い。目が合ってしまった為に、ペコリと頭を下げて、頑張って下さいと心の中で思い、聞こえないだろうが呟いて部屋まで戻る。
「あっ、ふたりちゃん……どうかしたの?」
「……ん。上手い人も、やっぱり頑張ってるんだなって」
努力は裏切らない。……綺麗事みたいだけど、ふたりはその言葉を信用している。
「………?」
小首を傾け頭からクエッションマークを出している喜多に、なんでもないと告げようとした時────だだだだだっ!と足音が廊下から響いて。
「バンドメンバーが全員ドタキャンしたから仕方なく一人で来てただけよ!
好きでヒトカラしてるわけじゃないからッッ!!!!」
部屋のドアを開きわ顔を耳まで真っ赤にした大槻ヨヨコが乱入して来たのである。
ふたりは固まり、喜多は、大槻さん!? と驚いている。
「それを勝手に勘違いして気を使ったのかもしれないけどあの生暖かい態度はないんじゃないの?後藤ふたり!とゆうかあれだけでヒトカラ来てるって決め付けるのが失礼じゃない?ほかの人間が全員トイレに行ってただけかもしれないしいや一人だったんだけど!それに仮にヒトカラだからといってそれは決して虚しい行為じゃなく───
「いや、あの……わたしはヨヨコさんが、練習頑張ってるなって思っただけで……っていうか、一人で来てたんですね。他の人達はどうしたのかなとは思ったんですけど……」
物凄く微妙な表情をしてるのを見て、墓穴を掘った事を察したヨヨコは更に顔を真っ赤にして涙目で一人、ぷるぷると震えている。オヨヨ……。
「ま、まぁまぁ~。折角だし、一緒に歌いませんか?」
いたたまれなさを感じ、苦笑混じりに喜多がそんな提案という名の救いの手を差し伸べると、ヨヨコはピタリと真顔になった。
そして、くるりと背を向けて退室していく。
まずかったかな? ふたりと喜多が顔を合わせていると、部屋にあった料理をその手にヨヨコはカムバック。
「……まぁ、たまには大人数も悪くないしお邪魔するわ。これ私の部屋で頼んでた料理だけど……食べる?」
クールな表情でそわそわしながらそんな事を言うヨヨコに、ふたりは苦笑する。
なんというか……なんというかな人だと思った。とりあえず、たまにはという発言から一人でよく来るらしい事はなんとなく分かった。
「はいっ!それじゃ大槻さんもなにかどーぞ!」
流石は陽キャ代表の喜多郁代。あまり話した事がないヨヨコを相手でも、花が咲き誇るかのようなキラッキラ……キタッキタの笑顔でマイクを渡している。
「気は乗らないけど……」
一方のヨヨコは、リア充の陽キャオーラに少したじろいでいるのが見えた。自分も最初はそうだったので、気持ちは分かるなとふたりは思う。
「じゃあ私のバンドの曲でも……」
しかし、すぐにドヤ顔を見せるヨヨコ。ほとほと表情がコロコロ変わる人である。
「え~~!カラオケに入ってるんですか!?」
凄いですと喜多喜多しているキラちゃん。
「一応、リクエスト申請したら入れて貰えるらしいよ。お姉ちゃんのバンドの曲入ってる場所もあるし」
「そうなの!? じゃあ、私達の曲も入れてもらいましょうよ!」
ふたりと喜多の会話に、ヨヨコはギクリとする。
「……ふん!それにはたくさんの人のリクエスト票が必要だけどね」
「そっか~。ならまだ無理かしらね」
少ししゅんとなる喜多。ヨヨコとしては、身内に頼みまくったのを思い出して苦い表情だ。
両親や妹にも土下座していた事実がフラッシュバックする。
「まぁ、お姉ちゃんもお父さんお母さんや、わたしに土下座してリクエスト票お願いしてたし大変みたいだったよ」
「ガハッ───!?」
「──よ、ヨヨコさん!?」
はからずも地雷をぶち抜いてしまったふたり。
意図せずやった故に悪気はないが……ヨヨコに深刻なダメージを与えるには充分であった。
「……ど、ドリンクが気管に入っただけよ……こ、こんなのなんともないんだから……!」
私は負けない!とSIDEROSの曲を歌い出す大槻ヨヨコ。一体なにと戦ってるのだろうかと思う後藤ふたり。
ふーっ、と息を吐き目を閉じて──開いたその眼は、SIDEROSのリーダーへと切り替わる。
「……───っ」
上手い。ふたりは勿論、同じくボーカルをやるからこそ喜多は痛感する。
技術だけじゃない。なんといえばいいか……説得力がある。凄味がある。魅力がほとばしっているのだ。
ちらりとふたりを見ると、彼女の目は夢中になって聴いているのが見てとれた。
惚けているようで、心が奪われているようで。
「……大槻さん、流石だわ~!!!」
歌を終えたヨヨコを、喜多は称賛し、聴きいっていたふたりは我に返ってコクコクと頷き同意し、ヨヨコは当然よといった態度だが内心大喜び。
そして、喜多はマイクを握る。
……私だって、音程は外してないと思うし、カラオケの採点でも九十台後半はキープしてるんだけどな……。
ちらりとふたりを見る。ちゃんと聴いてくれてるし、口元に笑みが浮かんでいるのが見てとれる。楽しんでくれている。
それでも──大槻ヨヨコが歌ってた時の様な表情はしていない。普通の歌を聴いているような……。
歌を終えて、ふぅ、と喜多は少しタメ息を吐き出した。
何度か、自分の歌を聴き返して、思う。声が、軽い。力がないのかな……?
腕を組み、こちらを見ている大槻を喜多は見る。
彼女と私。何がこんなにも違うのだろうか……。