「……もしかして、今日はただ遊びに来ただけじゃないの?」
腕を組み、喜多の様子を見てヨヨコは言った。
対する喜多は、少しピクリと細い身体を揺らす。
「……実は、練習に……」
やっぱりそうかとふたりは思う。なんとなくそんな気はした。
充分上手いと思うけどと思う中、喜多は最近の事を説明する。
以前……ライオットに出ると決めた時。他のバンドの歌を聴いた後に自分の歌を聴いて、違和感を覚えた。
軽い。力がないと。
いっぱい歌えばとも思ったが……最近出来たMV。トゥインクル・スター。
嬉しくて何度も聴き返して……違和感は確信に変わった。
折角いい曲なのに、自分が歌うといまいちなのだ。
エンジニアをしてくれたPAさんに、自分の歌について聞いてみたところ……
『えっ。あー───
『補正しがいがあって私は楽しかったですよ~?』
と、かなり言い辛そうに答えられてしまったのだ。
「それで自信なくしちゃって……でも何がダメなのかよく分からなくて……」
「とりあえず、お腹からもう少し声出したら?……ボイトレとかやってる?」
そう言って、ヨヨコは少しばかり思案するように視線をさ迷わせた。
二人は、静かに次のヨヨコの言葉を待つ。
「カラオケが上手いからって、レコーディングも上手いとは限らない。……ライブもね?
なのにカラオケ感覚でやってたら、変なのは当然でしょ?」
「バンドのボーカルはフロントマンだから……音程が合ってればいいってわけじゃない。
そうね。今の貴方には結束バンドのボーカルである必然性は感じられないわね」
淡々と、冷たく口早にヨヨコはそう言った。
厳しい物言いである。が、ふたりは特になにも言わずに様子を伺っている。
自分でも驚く程に、ふたりは大槻ヨヨコという人間を信頼していた。
あくび達から、ヨヨコは結構ダメ出ししたりするという話を聞いている。ただ、その後にしっかりとしたアドバイスもしてくれると。
なんやかんや、頼りになる先輩であると聞いているし、ふたりもそう思う。
多分、この人が最初にダメ出しするのは、その口調が妙に淡々としているのは。
嫌な話題を早く終らせたいからなんだと、なんとなく思ってみる。
最初に言いたくない事をさっさと言って早く終らせて、それから次に繋げる為の話をするのだ。
「……技術はもちろん大事よ。音程通りに歌うのも、疎かにしちゃいけないわ。
でも、技術はそれほどでなくても、魅力的な歌声を持つ歌手はたくさんいる」
少し口調が優しくなった。ここからが、本当に言いたい事なのだろう。
「……あー、私昔から人に合わせるのが苦手で、中学の頃は浮いてて……曲作りを始めた時は、その時の苛立ちとかを歌詞に込めてたの。そういう曲って、凄く気持ちを乗せて歌えた」
「………────」
ふたりは、黙ったままにヨヨコを見る。この人────。
「貴方も、技術的な事だけじゃなくて……自分たちの曲がどういうものか、もう少し内面的なところも考えてみたら?
さっき言った、技術自体はそれほどでないのに魅力的に歌える人達って、そういう事よ」
「………大槻さん」
ヨヨコの話が終ると、喜多から何時ものオーラが溢れ出す。そう、これこそが喜多ちゃんだとふたりは思う。
「ありがとう! 大槻さんって、優しいのね!!!」
キ タ ー ン ! ! ! ! !
「うぐっ!……貴方達があっさり審査落ちたら面倒なの!別に親切心でやったわけじゃないわ!」
喜多ちゃん、陽キャオーラに浄化されそうになるも、ヨヨコは踏み止まった。
そしてちょっと悪態をつくものの、以前わざわざメモまで渡してくれたために、ヨヨコ=親切な優しい子というのが覆る事はないのである。
「ねぇ、ふたりちゃん」
「ん?」
帰り道。あの後、カラオケは大いに盛り上がった。ふたりが猫とか歌って若干盛り下がったりする場面もあったが。
なんにせよ、楽しんだ後の帰り道で、喜多はふたりにひとつお願いをした。
「今日、お家に泊まらせてほしいの!」
「………今日!?」
急な話にふたりは驚く。いくらなんでも行動力が凄すぎるし、そもそもなんで?
「今後のバンド活動の為に、ボーカルは自分の曲への理解を深めた方がいいと思ったの。だから、ふたりちゃんに歌詞を解説してもらったりしたら、私の課題の突破口が拓けるかも!」
「だからお願い!色んなお話たくさん聞かせて!」
「………」
微妙に口元が引き吊るふたり。なんというか……今、頭に浮かんだだけでもだいぶ羞恥プレイな気がするのだった。