「え~、本日トップバッターを務めさせて頂きます」
こうして、ごちゃ混ぜライブは始まった。
最初は、なんかくたびれたおじさんである。
「友人に裏切られ二十代で一億の借金を背負い、娘は非行に走り家は三度全焼……。
娘がやっと成人したと思ったら妻に離婚を切り出されました……」
「新しい人生を始めよう。そう思いこのギターを手に取りました。
聴いて下さい。──『憂愁の鐘』」
……………きっつい。ふたりは思う。
嘘であってくれと願うくらいの人生である。
しかし、彼の奏でる音色はどこか綺麗で儚く鬱くしく……なんというか、事実なんだろうと思わせるものがあった。
なんというか……心に染みる。
「じ、人生がハードだからハードロックなのかも?」
虹夏がそんな事を言う隣、ハード過ぎないですかねとふたりは呟く。
そんな呟きを……虹夏と喜多には、ふたりちゃんも結構だよと思われた。
しんみりとした空気が流れる。なんというか、思ったよりも良かった。
………あの人に幸あれと、心の底から想い、祈ってみる。
「こんばんは~!この世からダメージヘアをなくしたい!
天使のキューティクルです!」
そしてハードロックおじさんの雰囲気で湿っぽくなってる中、舞台に立つ地下アイドルグループ。
「うぉおぉお~!ミカエルちゃん~!!!」
「ウリエル~!!!」
「ラファエルちゃん今日もかわいいよ~!」
「ガブリエルッッ可愛いよおかわいいいよガブリエルゥゥォォアアァァア アァッ!!」
熱狂的なファンが多いらしく、さっきの雰囲気とはまったく違う熱気にライブハウスは包まれた。
温度差が凄すぎて……熱気が凄すぎて、ふたりは引き気味だ。
「シャンプー? リンス?」
「ヘアオイル~!!」
「じゃあ聴いてねっ!『黒髪以外くそビッチ!』」
「な、なんか独特な盛り上がり方だね……」
「……私達全員くそビッチ扱いですかね?」
言われてみれば、結束バンドに黒髪は一人もいなかった。
しいて言えば、リョウが黒髪と言い張れなくもないか……? といったところか。
ちなみにそのリョウは、こういうジャンルはダメなのか地蔵と化している。
自分達とは一番縁遠いジャンルだから仕方ないのかもしれない。
「言ってる意味は分かんないですけど、お祭りみたいで楽しいですね!」
流石の適応力で、喜多ちゃんはこんな空気でもキターン!!としていた。
それからも、いろいろと闇鍋は続く。
「トゥメをトゥメで終わらせないトゥメに〜♪
トゥきすトゥメー♪」
「このバンドやけに滑舌が悪いな……」
「トゥメってなんなんですかねリョウさん……」
男性四人グループのバンドであるが、いきなり歯ギターやったりクラッカー鳴らそうとして不発だったり散々であった。
「オーゥ! 広い海!歌うはミー! ブルースカイ!唄うべきは、ブルースかい?
NO!NO!NO!
際限無き海の上!地を行く者アウェー!
オーシャンどーじゃん凄いんじゃん!
船行くマリンと!声響かせ凛と!」
「なにこのクソダサい……ラップ……?ラップかなこれ??」
アングリー・クラウドとかいう、ラッパーに喧嘩売ってそうなラッパー(?)である。
「全体的に悪い……カベとか、セキトバレベルとは言わないけどもっとこう……」
あまりのレベルの低さにリョウも難しい顔である。
なんだこれ。本格的に虹夏は思う。
ブッカーさんには、何か狙いがあるはず。そう思って彼の姿を探してみると───なんと寝ていた。
つまり、恐らく、きっと。
てきとーに呼び集めただけなのだろう事が察せられたのだった。
「………」
結束バンドが期待されたのかと思ってここに来た。
でも実際は……スケジュールを埋める為にたまたま目についた人達を呼んでただけだったのだろう。
『……っ。あ~……まだうちでやってるだけでいいんじゃない?下北以外じゃ客足伸びねぇよ』
メールが来た時は嬉しくて、姉の星歌にそう報告したものの、返事は微妙なものだった。
でも……メールを見てから姉は難色を示した。それはつまり、この箱がこんな感じだと知っていたのだろう。
なのに当たって、勝手に暴走して……。
私……リーダーなのに………。
「みんな、ごめん」
……なんだか悔しくて情けなくて、涙が出て来た。
「いっ、伊地知先輩どうしたんですか!?」
心配する喜多と、その隣で目に見えて狼狽するふたり。
「わっ、私がちゃんと確認しないで出演承諾しちゃって……皆を散々のせちゃったのに、こんなんで……」
「みんな気持ちが、萎えちゃったかなって……」
「………ッ」
なにか、なにか言わなきゃ。ふたりは思う。こんな時こそ、何か。
そう思った矢先だった。
「ぶほっ!」
つかつか歩み寄ったリョウが、虹夏にチョップをおみまいしたのである。
突然のバイオレンス再びに驚いていると、リョウは軽く虹夏の頭を撫でた。
「何? 思ってたようなライブじゃなかったから責任感じてんの?
そのくらいで萎える私達なわけないじゃん」
そこまで言って、リョウはふたりと喜多を見た。
「ここにいる客を全員ファンにするライブしてやりゃいいんでしょ?
この箱に呼ばれたジャンルは確かにバラバラだけど……私達だって、バラバラの個性が集まったんだから」
それを聞いて、ふたりの表情もパッと明るくなった。
「別ジャンルのお客さんもファンにできたら凄いですよね!ふたりちゃん、頑張りましょ!」
「……うん」
…………正直、変な空気の箱にふたりは少し萎縮していた。
でも、もう大丈夫。とぅいんくるとぅいんくるりとるすたー。
「みんな……うん、そうだね」
そんな様子に、虹夏も笑った。その表情に、何時もの色が戻る。
「よし!超盛り上げて、このライブハウスをぶち壊しちゃおう!」
…………と、思ったら何時もより振り切れていた。
少し苦笑を浮かべつつも、ふたりはリョウを見る。
やっぱり、尊敬出来る人だと思った。思う。思いたい。
……のだが、どうしても普段のアレな姿も思い出してしまうのだった。