「でもお客さんに興味を持ってもらうってどうすればいいんですかね?」
可愛らしく小首を傾げる喜多ちゃん。こういった事はまったく分からないふたりは、それぞれを見る。
「お金をばらまこう……!!お金さえあればフォロワー数だって簡単に日本一になるし、客の目だって……」
「……そのお金はどこから出すんです? お客さんみんなを満足させる額なんて捻り出せませんよ」
「……それ以前に虚しいだけですよ!」
リョウの提案に、金さえ用意出来るならオッケー的な空気を出すふたりと、それにツッコミをいれる喜多。
「あのさ!別ジャンルの人って別世界の感じでちょっと怖い感じするよね?
だから、最初にメンバー紹介して結束バンドに興味を持ってもらおうよ!」
そんな三人に苦笑した後、虹夏はそう提案した。
「よし!自己紹介の度にふたりが脱いで、最終的に水着で……」
「絶対やりませんからね?」
まだなんか言おうとする山田に、もうお金貸しませんよと告げると、山田は黙った。
「一人ずつトークやソロ演奏で興味を引いていこうよ!」
「いつもバンド名を名乗るだけだし、いいかもですね!」
笑顔でキターン!と頷く喜多と、ソロ演奏という単語にピクリとするリョウ。
「さっきのおじさんも、MCが強烈で興味わいたしね」
前までは、MCなんて面白もんじゃないと否定的だったリョウがそう言ってふたりは少し驚く。
……いやまぁ。でも、あの人のMCは強烈過ぎたというか……。
「……トークは苦手なので、ギターソロだけでいいですかね?」
少し困った笑顔でふたりがそう尋ねると、虹夏はオーケーサインを出す。
「ふたりあれやって。歯ギターと武田信玄」
「………山田さんがやるなら考えておきますよ」
やるとは言わない。
そこで、結束バンドを呼ぶ声。
「………よし!がんばろー!楽しもうっ?」
陰りなく虹夏が笑い、ふたりも笑う。おーっ!とやって、舞台へと。
「やっと結束バンドの番来ねー」
「ふたりちゃん達、今日も調子良さそうね」
「次はロックバンドか」
「ロック聴かないしな~……」
「このライブ何でこんなジャンルバラバラなの?」
「結束バンド……知らないなぁ」
「ロックよく分からないし、天キュル終わったし帰ろっかな~」
「あんなこと言ってるよー」
「知らなーい。興味なーい」
「早く始まんないかなー」
いろいろなジャンルが集まっただけあって、いろんな観客がそこにいた。
ややアウェーな空気の中で───虹夏の元気なドラムの音が響き渡る。
「皆さんこんばんは!!初めましての方は初めまして、『結束バンド』ですっ!! 私はドラムで、リーダーの伊地知虹夏です!
今日は来てくれてありがとー!!いきなりだけど、メンバー紹介いきますっ!」
響く、ドラムと同じく元気いっぱいの声。
この元気の声を聞いていると、元気をわけてもらえる。と、ふたりは思う。
アウェー気味な空気が少し怖いけど、そんなの吹き飛ばしてくれる声。
「ベース!山田リョウ!!」
クールに掻き鳴るベースの音色。安定感のあるリズム。ライブの時は、本当に心強いとふたりは思う。
「ベースってあんな音出せるんだ………」
「あの人かっこいいかも……」
……それはそれとして、何時もより嬉しそうである。
ソロ演奏なんて滅多にないからだろう。喜多はそんな事を思う。
「今日は私達の演奏で疲れた心を癒し安らぎの一時をお過ごしください……」
なに言ってるんだこの人。
「なに言ってんだこいつ」
心で思うふたりと、口に出す虹夏。
「リードギター!後藤ふたり!!」
少しだけ息を吸って───吐き出すのと共にギターを掻き鳴らした。
ソロならば、なんやかんやで一番調子が出せる。
「ギターやばくね?」
「……『屍人のカーニバル』観に来たんだけど、これは中々……何者……」
お褒めの声が聞こえて、ちょっぴり得意気。
そんなふたりは、少し調子乗って背ギターを披露してみせた。
実はそんな珍しく難しい技術じゃないんだけど、かっこいいんだよねこれ。
そんな事を考えながらやったものの、ふたりの予想よりも歓声が上がり、ソロを終えた彼女はちょっと得意気にギターを掲げていた。
「…………」
そんな様子を、虹夏は微笑ましく眺めて……少し目を閉じた。
浮かぶのは初めの頃。……本当に、みんなの背中が見れるこの場所で良かった。
「え~、ギターボーカル!喜多ちゃん!!」
本人の意向により、名前は呼ばない。
は~い!と元気に明るく彼女は手を振った。
「いろんな人達が集まる不思議なライブだけど、これも何かの縁!今日はみんな一緒に楽しみませんかっ?
東武? 西武? 池袋~!」
明るくて楽し気な声が響く。聞いてて、楽しい気持ちになれる声。
「天キュルのフリ真似してくれた……観てくれてたんだ……」
「ちょっと観てみる?」
「ロックバンドって怖そうだし苦手だったけど、そんな事ないのかも……」
聞こえる好意的な声。流石喜多ちゃんだとふたりは思う。
こうやって人の心を掴めるからこそ、みんなこの子が大好きなんだろうと、学校の景色を思い出す。
「それじゃあ、一曲目……やりまーす!」
ドラムの音を合図に始まるライブ。
虹夏とリョウが、柄にもなく走っていた。
でも、ならば、これでいい。
楽しい気持ちが。心が。感情が輪となり広がっていく。
嗚呼、楽しいなとふたりは思う。
ねぇ、そこまで届くかな?
空色の瞳が天井を───その奥にある空を見た。
みんなと奏でる音色。本当に好きな音!!!
ねぇ、お姉ちゃん。お姉ちゃんが、わたしを助けてくれたからだよ。
お姉ちゃん……演奏って、素敵だね!……ライブって、楽しいね!
お姉ちゃんが、助けてくれたからなんだよ。ずっと、ずっとごめんなさいばかりのわたしだったけど、だったから、言うね。
「…………お姉ちゃん、ありがとう」
お姉ちゃんのおかげで、わたし、楽しくやれてるよ。
誰にも聞こえないように、ポツリと言葉をもらした。
そして、ギターに熱中していく。
ギターヒーロー二代目の活動は、これからも続けていく。お姉ちゃんの事、もっと色んな人に知って欲しいから。
それとは別に、わたしはわたしの人生を。精一杯。
いつか、どこかでお姉ちゃんに逢って。胸を張って、こんな風に生きたよ!って言うために。
────うん。楽しみにしてるね、ふたり。