ギターヒーロー二代目【完結】   作:怒雲

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夢の始まりと終わり

 

 

 

 

「…………それじゃ」

 

「……会っていかねーの?」

 

ライブは終わった。用は済んだとばかりに、愛子は踵を返した。

 

そんな彼女に、なんとなしに星歌は声をかける。

 

 

「………そうね」

 

少しだけ、彼女は視線を彷徨わせる。

 

それから、静かに星歌を見て。

 

 

 

「正直、会って言いたい事はあるけど。……撤回したい、言葉も。

……でも、それは今じゃ意味がない気がして」

 

「……成程」

 

 

小さく頷く星歌に、それと、と愛子は笑った。

 

 

 

 

 

 

「…………ようやく、書きたい記事が出来たの」

 

 

この業界で生き残る為のぽいずん(はーと)やみとしてでなく……正真正銘、佐藤愛子として。

 

「……そういえば、貴女のバンドも結構好きだったんだけど……なんでやめたのか、今度取材してもいい?」

 

「………やなこった」

 

少しだけ口角を上げる星歌に、残念、と愛子も笑う

 

 

 

「……てなわけで、あばよ!」

 

そして片手をひらひらさせて、佐藤愛子は去って行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結束バンドのライブは、大成功といって良かっただろう。

 

「ギターかっこよかったです!」

 

「天キュルと一緒に推していきます!」

 

 

等々、お褒めの言葉と共に物販のグッズを買って行ってくれる新規のファン。

 

 

 

……ふたりとしては、この人達に結束バンド売り付けるのは少し胸が痛む気もした。

 

しかし、仕方ないのだ。まぁ、強制してるわけじゃないんだし、仕方ないのだ。仕方ない。

 

 

「いや~結束バンドさん初めて曲聴いたけど凄い良かったです~」

 

 

へらへらと苦笑しながらそんな事を言うブッカーの柳さん。

 

 

てきとーなブッキングしたのは思うところがあるものの、まぁ、こう言ってくれるだけありがたいとも思う。

 

 

「ありがとうございます……あ、結束バンドひとつどうですか?」

 

しかし、こんなやみ鍋パーティーに聴きもせずに呼んだのはやっぱりアレなので、ふたりはちゃっかり結束バンドを買わせようとしていた。

 

虹夏を泣かせたのを根に持っているのである。

 

 

柳さんは、苦笑混じりにぼったく……適正価格の結束バンドを買ってくれた。

 

 

 

「ライブ良かったです。その……よかったらこの後皆で打ち上げしませんか?」

 

天キュルの人と屍人のカーニバルの人に誘われ、やりましょー!と笑顔の喜多ちゃん。

 

 

 

虹夏は、星歌の姿を見付けてそちらに向けて駆け寄って。

 

 

 

「おねーちゃん!……今、誰かと一緒にいた?」

 

「……いや」

 

軽く首を横に振る星歌に、そっか、と虹夏は呟き。

 

 

「観に来てくれてありがとう……!

……この前は、ごめん……」

 

感謝の言葉と謝罪の言葉。星歌はそれに対して、軽く鼻を鳴らす。

 

 

「私は別に怒ってねーよ。お前が勝手に不貞腐れてただけ」

 

「うっ……」

 

 

しゅんとする虹夏に、まぁ、と星歌は少し苦笑を浮かべる。

 

 

 

「私もどういう箱か伝えれば良かったんだけど……喜んでたから何か言い出しづらくてさ。

ま、結果的に上手く行って良かったな」

 

「うん!」

 

笑顔の虹夏に、星歌も笑う。

 

……少し、昔を思い出した。

 

 

 

 

 

 

『凄いメンバー集めて、お姉ちゃんがやってたバンドより人気になってやる!』

 

 

 

 

脳裏に浮かぶ幼い頃の虹夏の姿。

 

 

「……いいメンバー集まったじゃん」

 

 

星歌はふたりを見る。……巡り合わせてくれたのは、きっと。

 

 

「………うん」

 

虹夏も同じくふたりを見た。少し、遠い目で。

 

それから目を伏せて、笑った。

 

「……人気バンド、なっちゃうかもね!」

 

「……そうだな」

 

そう言って、二人の姉妹は笑いあうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

佐藤愛子はまた、夢を観ていた。

 

網膜に焼き付いて、脳にこびりつき、心に突き刺さって抜けない光景。

 

ギターヒーローの、最期のライブ。

 

 

 

ひっそりと、少しだけ目を閉じる。

 

 

 

 

 

 

───私にとっても、これが最後。

 

多分、もうこの夢を見る事はない。……何故だか、そんな気がする。

 

だから、せめて、楽しもうと思った。

 

 

 

 

 

 

一生続いて欲しい時間。でも、そんな気持ちとは裏腹にとても短い時間。ライブは、最後の曲と共に終わった。

 

 

 

帰って行く観客達。自分は──最後まで残ろうと思う。

 

最後まで。誰もいなくなるまで。

 

 

 

「………?」

 

おかしいなと愛子は思う。観客は帰って行くのに、舞台の上のバンドメンバー達はなにやら談笑している。

 

何度も何度もこの夢は見て来たけど、こんな事は一度もなかった。

 

 

 

三人のバンドメンバーが、ギターヒーローに。……後藤ひとりに手を振り去って行く。

 

 

気が付けば、観客はもういない。舞台の上には、ひとりだけ。

 

 

「───え」

 

空色の瞳と視線が重なった。彼女はちょっぴりぎこちない笑みを浮かべて、そして次の瞬間────

 

 

 

 

 

 

 

 

舞台から、雷鳴の音が響く。身体中がビリビリした。

 

 

 

───ああ、これは夢。それも、本当に、都合の良い夢。

 

掻き鳴らされるギターの音色。キレのあるストローク。

 

 

弾いているのは、今日聴いた曲。結束バンドの曲だった。

 

 

 

本当に、本当に都合の良い夢だと思った。

 

 

 

 

───でも、いいよね?楽しんで、いいのよね?

 

 

 

 

 

 

「………───ギターヒーローさん!素敵ですー!!!」

 

大声で、手を振った。猫背のヒーローは、ちょっぴり笑った。

 

 

 

 

 

 

 

───ありがとうギターヒーローさん。立派なライターになって、いい仕事して、最期まで生き抜いたら……その時、会いに行くから。

 

その時、取材させて下さいね?ギターヒーローさん。

 

 

 

 

 

 

 

最後の夢が、終わる。景色がぼやけていく。

 

 

 

ああ、これで本当に終わり。でも、良かった。

 

都合の良い夢。だから……だから。

 

うん、だから。せっかく都合の良い夢なんだから。

 

 

 

最後くらい、歯ギターはやめて欲しかった……どんだけそれ好きなの、ギターヒーローさん…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───あ、ふへへ………。

 

 

 

 

 

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