デモ審査が通過して、とりあえずはひと安心……ではある。
次はウェブ投票。……とりあえずは、イスソタ大臣喜多ちゃんの存在が頼もしい。
学校においても人気者の彼女のお陰で、少なくともクラスの人はみんな投票してくれているし、学年もほぼほぼ投票してくれているだろう。
…………正直、この手のは完全に戦力外だと判断したふたりは、かつてはひとりちゃんが隠れ家としていた場所にいた。
うん。だって、ねぇ……。わたしはつまらない人間だからねぇ……。
ある程度は会話に応じれるものの、話に着いていけるわけでもないので上手く合わせるのが非常に大変なのである。
心を閉ざした結果、完全に陰キャとなった自分には、あの場所は眩しすぎるのである。
まぁ、かっこつけて言ったが、ようは逃げているのである。
「あ、後藤いた~」
「……佐々木ちゃん」
ひょっこりとそこに現れたのは一人の少女。佐々木次子
緑っぽい髪を長めのショートカットにした、喜多ちゃんの親友である。
関係性で言うなら、友達の友達といったところか。
「……わたしに用事?」
そんな関係なので、自分になんの用だろうかと小首を傾げる。
「喜多が決めたい事があるから呼んで来いって」
「ああ……成程」
今、クラスは結束バンド応援の一致団結モードになっている。
それは嬉しいのだが、どうにもノリがなんか……暑苦しいというべきか……。
「…………」
次子は、なんとなしにふたりの隣に座った。
こうやって、一対一になるのは初めである。
……喜多から話は聞いている。数多い喜多の友人達の中で、彼女だけが相談されていたからだ。
わりとガチめな相談。とりあえず、次子の聞いたふたりのイメージは、『ドラマかなんかの悲劇の主人公かよ』であった。
姉が自分のせいで死んだと思い込み、姉の分までギターを掻き鳴らす少女。
自分の幸せを。楽しいをかなぐり捨てて、幸福になる事を恐れていた少女。
───どうすれば、いいと思う?
そう聞かれた時は、ほうっておくしかないんじゃないかと思ったが、喜多の性格上それを許さないだろう。
だから、何時も通りみんなに接するようにしたらいいんじゃない?と、当たり障りのない返事をした。
結果、上手く行ったらしく、最近ではだいぶ明るくなってきたらしい。
「……佐々木ちゃん」
「ん?」
「……そのTシャツはなに?」
『一日一票』『喜多ちゃん後藤さんファイト!』『絆』『2ー3』
等々の文字と、落書き等が描かれたTシャツ。まぁ、なんとなく分かるけど。
「まじな二人を見てたらみんな体育祭かってくらい一致団結して燃えてきちゃってさ。それで作ったクラスTシャツ」
「………成程」
これわたしも着るやつだろうかとふたりは思う。いや、ピンクジャージよりは……マシ……いや、うーん……。
「……同い年なのに夢に向かって行動してんの尊敬するわ。クラスの皆で応援してるから」
「……佐々木ちゃん」
………本当に、そういった気持ちは嬉しいのだ。ノリが苦手なだけで、凄く嬉しい。
───それはそれとして、夢、か。
わたしの夢って、なんだろ?
……いまだに朧気だ。でも、今の自分にはちゃんとある。……気がする。
「……ありがとう。──クラスのみんなにも、ちゃんと言わないとね」
微笑むふたりに、次子も笑う。
「……さて、喜多ちゃんが呼んでるんだっけ? なんの話かな……」
立ち上がるふたりを見て、次子も立ち上がる。
「スローガン決めるってさ」
「……スローガン」
力の入れ方がよく解らない……。それ、わたしいなくてもいいんじゃないだろうか。
いや、当事者だからいなきゃいけないのか。うーん。
「後藤はこういう感じ、苦手?」
不意に聞かれた。まぁ、苦手だ。
「……今まで、こういうのやってこなかったからね。戸惑いとか強いし、どうしたらいいのかよくわかんないの。……まぁ、苦手だね」
苦笑混じりに言って、でも、と付け足す。
「苦痛ではないよ」
「……そっ」
その言葉に、少し満足気に次子は微笑み短い返事をしたのだった。
……みんな、動いている。
虹夏は投票を呼び掛けるビラを。リョウは、病院の待合室で曲を流してもらう事になったらしい。
ごりごりのロックを病院で流すのはどうかと思ったが、一度会ったリョウの両親を思い出すと、なんかもっと暴走しそうな気もした。
……案外、そこに落ち着かせたのかもしれない。
ふたりの両親もいろいろ投票を呼び掛けてくれているらしい。
母は犬友達に。二十人くらいいるらしい。凄い。
父は徹夜してフライヤーとか作ってくれていた。
仕事とか大丈夫かと心配したら、窓際族だから大丈夫だと自信満々に言っていた。反応に困った。
ふたりとしては、家は結構大きいと思うし、特に不自由した記憶もないし、お小遣いもそれなりにもらってるしなので、そんな生活をさせてくれてる父が窓際族とは思えないのだが。
多分、心配するな!と言ってくれているのだろうなとふたりは思った。
周りの人達も、応援してくれている。
PAさんは、なんかグローバルな友人達と新時代コンテンツについてのオンラインサロンなどを開き、その人達に結束バンドを広めてくれているらしい。
よく分からなかったが、PAさんはお洒落な人だと思うのできっとそういう感じなのだろう。この前は遊園地で酒呑み過ぎて死にかけてたけど。
星歌店長は……口では妹の虹夏に厳しくしていたが、この前に結束バンドに投票したらノルマチャラにしてあげると、とあるバンドに店長権限を使ってるのをふたりは目撃している。あえて誰にも言わないが。
「おはようございまーす!」
「おはようございます……」
「あ、喜多ちゃんふたりちゃん、おっはよ~」
STARRYにやって来た二人に、虹夏は笑顔で挨拶を返す。
ふたりがどこか疲れた顔をしているのが気になったものの、その前に喜多がキターン!と駆け寄って来た。
「クラスの皆、投票してくれましたよ~。あと、イソスタのフォロワーさんとよく行くショップの店員さんにも宣伝しておきました!」
「お~!いいね!さすが喜多ちゃん!」
実に嬉しい報告であり、流石喜多ちゃんとしか言い様がない話である。
「わたしは戦力外なのでゴミ箱にでも入りますね……」
「ふたりちゃん、ストップストップ!お願いだからやめて~!」
そして基本的に人脈なんてないふたりは、なんの成果もあげられませんでした!とふらふらゴミ箱に向かい、それを虹夏と喜多が止める。
「ふたりちゃんは喜多ちゃんと同じ学校なんだから、クラスの投票は喜多ちゃんとふたりちゃんの功績だよ!」
「そうよふたりちゃん!だから気にしなくていいのよ!」
フォローされるものの、ほとんどというか、九割九分九厘以上が喜多ちゃんパワーなのでますますダメージを負うふたり。
「そうよふたりちゃん!クラスの皆で考えて来たあれを披露しましょ!いいのできたんだから!」
「おっ、なになに!?なんかバンドが拡散されるような秘策でもっ?」
そう……今日、ふたりが既にメンタルダメージを受けていたのはこれもあったのだ。
「ふたりちゃん、スローガンよ!さん、はい!」
「天まで轟け魂の音!いざ掴み取れ勝利の栄光!!伝説作れ結束バンド!!!」
「めちゃくちゃ暑苦しいイベントにされてる!?」
そしてふたりは力を使い果たし、ぐふっ、と呟き倒れるのだった。
………だってさ。慣れないノリもキツいし、いい機会だからとクラスの子達にめっちゃ話し掛けられたりで大変だったんだよ。
何故か男子も多いし………。
星が見えるよ………お姉ちゃん……。