「………」
「………」
伊地知虹夏と山田リョウは、神妙な顔をして顔を見合わせた。
そして───
「ド 下 手 だ !」
「ぷっ」
「えっ!?」
二人の反応に驚く喜多と、固まるふたり。
「そ、そんなはずはないですよ!だって、後藤さんは……!」
喜多がフォローに入っているが、ふたりの耳には届いていない。
………ド下手?
…………誰が??
……………私が???
………………後藤ふたりが????
停止する思考。確かに、何故だか調子は悪かったと思う。
でも、そんなはずはないと口に出そうとして・・脳裏を過る昔の記憶。
姉のライブハウスに連れて行ってもらい、わくわくしながら演奏を聴いた。
とてもとても楽しそうだった。でも……
『おねぇちゃん、ライブびみょーだったのどうして?
おうちではあんなにうまいのに!』
ふたりとしては、ライブの姉はいつもよりかっこよかった。
でも、もっともっとかっこいいはずなのだ。
『うっ……』
『……ば、バンドってね……上手ければいいってもんじゃないんだよー……。
みんなと呼吸を合わせるのが大事だから、私にはちょっと難しいんだよー……』
『ふぅん……』
『まぁ、おねぇちゃんってくそめんどくさいもんね!キャハハ!』
キャハハ!!!
キャハハ!!!!!!
約、十年程前に投げたブーメランが───
「ガハッ!!!」
「ふ、ふたりちゃん!?」
「ご、後藤さん!?」
時空を越えて、今ふたりの脳髄に突き刺さった!!!
皮肉にも、先代ギターヒーローが歩んだ道をそのまま突き進んでしまった後藤ふたり。彼女は………。
「ご、後藤さん……?」
すっ、と静かに立ち上がる。
そして、先代同様に軽やかな動きを見せながら。
「ご、後藤さん!そこ、ゴミ箱! き、汚いから!」
慌てて止めようとする喜多ちゃん。
「ぷっ……意外とメンタル弱い……」
この状況を楽しむ山田。
「ちょっ、ちょっとリョウ!笑ってないで手伝ってよ!」
ゴミ箱に入ろうとする ふたりを止めようとする虹夏。
「すみませんごめんなさい生きててごめんなさいわたしなんて生きる価値なしのゴミ人間でしただからこれからはゴミ箱にゴミとして住みますどうぞ気にせずゴミを投げ入れて下さいそれでも迷惑ならば路上にでも捨てて下さい空を見上げて雨水と埃だけ食べて生きていきます本当にすみませんでしたやっぱりわたしは生きる価値がありませんでしたなんの成果もあげられませんでしたごめんなさいわたしは失敗した失敗した失敗した失敗したわたしは失敗した失敗し
「ご、後藤さん!? 後藤さーん!!!」
「しょ、しょうがないよ!今日初めて合わせたんだし!
私達だって、そんな上手くないし!」
「私は上手い」
「追い討ちかけないでー!」
フォローの声が届く事なく、ぶつぶつと呟く ふたり。その姿は姉にそっくりである。
「ひ、酷いです先輩!後藤さん、とっても上手いのに!
きょ、今日はたまたま調子が悪かったんですよ!だって、この前、一人で弾いてた時は……」
「一人で弾いてた時は……?」
リョウは、成程と呟く。
「ふたり」
「……はい」
ゴミ箱をコンコンと叩くと、ふたりは虚ろな目で返事をする。
「今の曲。ソロでやってみて」
「………」
すっ、と立ち上がる ふたり。大丈夫。
孤独(ソロ)なら、いける。いけなきゃいけない。
「ハーッ……ハーッ……」
「ちょっ、ふたりちゃん落ち着いて……そんな、失敗したって死ぬ訳じゃないんだから……」
鬼気迫る表情に、少し怖じ気つきながらも虹夏は言った。
「………」
いや、死ぬ。ハッキリと解る。
これを失敗すれば、生きる証を失う。そしたら、後藤ふたりはもう二度と立ち上がれない。
生きるのをやめてしまうだろう。自分で解る。
ゴクリと、喜多は息を呑む。あの日、見た顔だ。
────来る。
鳴り響く音。小柄な身体から繰り出される圧倒的な音波。
文字通り、命懸けの演奏。病的に細い身体から弾け出される全力全開の魂。
「………」
曲に圧倒されながらも虹夏は思う。この演奏って、もしかして───。
そして、演奏は、終わった。