「……はぁ」
ちょっと、陰鬱なタメ息をふたりは吐き出した。
中間結果の発表……三十位圏内に入れなかった。
「まだどこでバズるか分からないですし、諦めずに頑張りましょうね!」
「もちろん!また明日!」
そんな喜多と虹夏の会話を眺めて、また小さくタメ息。
………それはそれとして、今日は他にもPAさんが店長の星歌の顔面にケーキを叩き付けるという珍事件があった。
PAさん的に思うところがあったり、ストレスでも貯まっていたのだろうか?
ふたり的には、星歌とPAさんは仲良しだと思っていたので結構ショックであった。
………まぁ、その後は何事もなかったように会話していたので、一時の気の迷いかなんかなのかもしれない。
大人の話だし、いろいろあったのだろうとふたりは無理矢理納得する。
「とは言っても、やれるだけの宣伝はしてるのよね…あれだけやっても三十位に入れないなんて。
エゴサしてると呟いてくれてる人、結構いるんだけどな~」
「………やっぱり、それでも知名度ないのかな……」
ポツリとふたりは呟く。
………それはそれとして、かつての姉のバンドメンバーからのロインが面倒臭い。
ドラマーの人は、普通に応援してるぞ!的なのくれるけど、お姉さんは喜多ちゃんにやたらとパフォーマンスを教えたがってるし、あのベーシストに関しては……。
『裏工作なら任せてね』
との事だ。任せられるか。
ふぅ、とタメ息。まぁ、このベーシストは他の人がなんとかしてくれるだろう。
ただしお姉さんはダメだ。喜多ちゃんに汚いハンドサインや謎の暴言なんてさせられない。
そんな想いとは裏腹に、中指を立てる喜多の姿が思い浮かんでしまい、ふたりは頭を抱えて首を振った。
こんなのいちいちイメージしたくない!わたしのあたまからでていけ。
わたしのあたまからでていけ。あたまからでていけ。あたまからでていけ。あたまからでていけ。あたまからでていけ。あたまからでていけ。あたまからでていけ。あたまからでていけ。あたまからでていけ。あたまからでていけ。あたまからでていけ。あたまからでていけ。あたまからでていけ。あたまからでていけ。あたまからでていけ。あたまからでていけ。あたまからでていけ。あたまからでていけ。わたしの
わたし。
の。
あたま。
から。
でていけ。
「ふ、ふたりちゃん、大丈夫……?」
明らかにバグり出したふたりに、おずおずと喜多が声をかける。
わたしのいめーじがかたちにかるまえにわたしのあたまからでていけ。
「………──あっ、だ、大丈夫……ちょっと、疲れてるのかも」
「……そ、そう。ちゃんと休むのよ?」
元に戻ったふたりを見て、喜多はホッとする。
ふたりちゃん繊細だから、今回の事を思い詰めてるんだろうな……。
「あ!でもね!ファンの中にちょっと変な人もいるみたいで……高校生のコスプレして結束バンドの音源聴かせてるおばさんがいるらしいのよ~!」
そう言ってスマホの画面をふたりに見せる喜多ちゃん。
『なんか女子高生のコスプレした変な人に結束バンドとかいうバンド勧められた』
『結束バンドおばさんかわいかった!』
『今日コスプレしたおばさんに結束バンドってバンド勧められた……東京は不思議な街だ』
『まだ使える』
「えっ、なんか怖いね……」
呟くふたり。そう、なんか、恐い。怖いのだ。
『それでね、お母さん今日は二十人に宣伝しといたわよ~』
犬の散歩がてら宣伝してるというふたりの母。そんなに犬友達いるなんて、流石お母さんと思っていた。
でも、今回の話。連想してしまった。
────自分の制服を着て街中を練り歩き、結束バンドを宣伝する母親の姿を。
そう言えば、昨日も母親が急に変な事を言い出してた。
『それで、喜多ちゃんにタカってるのを虹夏さんに見付かって、リョウさんにバックドロップキメてて、なんとも言えない気持ちになったよ』
『へ~』
『それは草ね~。きまZ~。人間関係大丈夫そ?』
突然どうしたのかと思ったが……まさか、まさか─────!?
「はっ、はっ、はっ………ファー…ブルスコ…ファー…ブルスコ…ファー」
「ふたりちゃん!?」
いったいどうしたのかと問う前に、喜多の脳裏にも浮かんだ。
二回ふたりの家に行き、二度もふたりの制服を着て現れた後藤母の姿を。
多分、ふたりちゃんも連想したのだろう。
───つまり、結束バンドおばさんとは……まさか、あの……?
「だ、大丈夫よふたりちゃん!」
なんとか正気を取り戻し、今の話題を忘れようとしたところで、ふたりは喜多に肩を掴まれた。
「大丈夫!流石にそんな非常識な事なんてしないと思うもの!結束バンドおばさんはきっと、私達と全然関係ない人よ!確かに、ふたりちゃんのおか───」
「モルスァ!?」
「ふ、ふたりちゃーん!!」
はからずもふたりにとどめを刺してしまった喜多ちゃん。
しばらくふたりはバグっていたが、突然電源が入ったかのように元に戻る。
「なかった。」
「えっ……ふたりちゃん?」
「結束バンドおばさんなんて、なかった。」
「…………」
「…………………………そうね」
「そうよね。私ったら、変な事を言っちゃったわ。ごめんなさい」
現実から目を背ける……それも良いだろう。
辛すぎる現実なら、無理に焼き付ける必要はないし、なによりまだ結束バンドおばさんが『あの人』だと決まったわけでもないのだ。
だから、これでいいのだろう。
「……───ただいまー」
「あら、ふたりちゃんお帰り」
家に帰る。笑顔で迎える母と、駆け寄るジミヘン。
「きゃは、ジミヘンくすぐったいよ~」
ジミヘンの頭を撫でながら、うん、と頷く。
「今日は、なにかあった?」
母に問われ、ふたりは少し考えた。
「……………」
「………………なにもなかったよ。」
そう、なにもなかった。
何故か干されていた自分の制服は、見間違いに決まっているのだから。