しばらく憂鬱であり、士気は下がっていたものの……それでも歩みを止めるわけにもいかない。
一日、一日とそれぞれがやる気を取り戻し、最終結果に向けて頑張っていく。
STARRYでのライブや路上でのライブ……僅かでも活動して、少しでも頑張って。ちょっとでも呼び掛けて行く。
最後まで、決して諦めない。
そうこうしていて、遂に結果が出た。
ギリギリではあったが、三十位圏内に入る事が出来たのだ。
虹夏と喜多は手を取り喜び、リョウはポケットの中でちいさなガッツポーズ。
ふたりは、気が少し抜けて座り込んでいた。
「良かった~~~~……でもなんで急に順位上がったんだろ?」
何故か、数日前からMVの再生数が一気に伸び始めた。
それを見て、いけるか!?と思ったものである。フラグにならなくて良かった。
「何か、ばんらぼってサイトの次にバズる若手バンドって記事にとりあげられたっぽい」
そう言って、リョウはスマホを見せる。
「ネット記事!?なになに、なんて書いてるの!?ライターさん誰!?」
ぴょん、と跳ねるようにリョウの方へと駆け寄る虹夏。リョウは、さぁねと呟く。
興味津々に寄ってくる喜多とふたりを見つつ、まぁ、とリョウは思う。
ばんらぼって名前は、前に聞いたんだけどね。
「どれどれ……メンバーが若く勢いがある。楽曲にも年齢には見合わない深みがある…………」
他にも、中々にべた褒めである。少し口元が緩むものの………。
「バンド名がかっこ悪い……。リードギターがたまに暴走気味になる……」
「……うっ」
確かに、最近はライブが楽しすぎてノリにノッたりしている。和を乱してしまうので、これはどうにかしなきゃだ。
他にも、ギターヴォーカルは少し指を見すぎだの、ドラムはたまに安定感がないだのと、やや注意点は挙げられているものの、それを踏まえてまだまだ伸びると力説されていた。
「あと酔っぱらいの客がいてファンの民度が低い」
「あの人出禁にしよう」
「廣井さん……」
ふたり的にはフォローしようかとも思ったが、フォローしようがないので黙る事にした。
『はい』
STARRYの外。星歌は電話をかけていた。
「あ、もしもし私だけど」
『いや、だれ……って、は、はぁ!?あんたなんで私の電話番号知ってんの!?』
電話の相手はぽいずん(はーと)やみこと佐藤愛子である。
「いや、ネット掲示板にさらされてたから」
『私の個人情報どうなってんの!?』
「さぁ……粉微塵になって死んだんじゃない?」
軽く笑う星歌。……愛子としては笑い事でもなんでもないのだが。
これ下手したら住所も晒されてるんじゃ……。
二十三歳独身女性としてはわりとガチな心配をよそに、星歌は話を続ける。
「あの結束バンドの記事、お前が書いてくれたんだろ?……ありがとうな」
『…………』
『今の結束バンドを正当に評価しただけだし、こっちとしてはやっと書きたいと思った記事書いただけだし……別にお礼言われるような事じゃ……』
そこまで言って、愛子は気付く。電話ごしに鼻をすするような声に。
『……って、ちょっと何泣いてんの!貴方大人でしょ!?』
「うるせーよ」
頭に浮かぶ、幼い頃の妹の姿。ライバルだった、後藤ひとりの姿。
…………独りうずくまっていた、ライバルの妹。ふたりの姿。
あの日、自分が欲しかったギターを引っ提げてやって来たライバルの妹と、一緒にいる自分の妹。
「……歳をとると子供が頑張ってるの見ると涙腺に来るんだよ」
そこまで言って、つーか、と星歌は少し笑う。
「お前だってあのライブの日、号泣してたじゃねぇか!」
見て見ぬふりしてやったんだぞ。
『あ、う、そ、それは……私は十四歳だからいいの!』
「………そうか。そりゃ悪かったな、佐藤愛子さんじゅうよんさい」
『やみって呼んで!あとうっさい!二十三歳だっ……て、あ、しまっ……あー、もう!こっち忙しいんだから、切るわよ!』
まったくと愛子は電話を切る。彼女の番号を登録しながら。
…………そして、なんというか。引っ越しとか考えた方がいいかとか、本気で悩むのだった。
そんな切実な悩みが出来た彼女をよそに、STARRYではちょっとしたお祝いとなった。
みんなでお祝い。とても楽しい時間になったし、家でも両親に祝ってもらった。
………その際に、これでもうお役御免ね、残念。
と、母が制服を眺めながらポツリと呟くのが聞こえた気がしたが、多分、絶対、間違いなく空耳だと思う。
………それはそれとして、明日は制服着て学校行こう。いや、『仮にそうだったとしたら』もう手遅れだって分かってるけど。
けど……なんていうか、まぁ、うん。とにかく、明日は制服着て行こうと、ふたりは決意するのだった。
特別編。
ある日のひとりちゃん。
「………」
とある日の帰り道。後藤ひとりは、何度めかのタメ息を吐き出した。
それから、空を見上げる。晩秋の、遠い空。
「ひとりちゃーん!」
「うひぃっ!?」
背後から、突然声をかけられビクリとひとりは肩を揺らす。
そしてその可愛らしく美しいはずの顔面を崩壊させながら振り返ると、所属しているバンドのギターヴォーカルを勤める少女の姿。
「お!その顔は初パターン!やっぱひとりちゃんは面白いねぇ~」
「ひぐっ……み、見苦しい顔をお見せして申し訳ありません!」
「いやいや、面白かったからオッケーだよ。ほら、整えるからちょっと動かないでね~」
そう言って紙ヤスリで少し顔をゴリゴリする。
そして、よし、と満足気な声。我ながらいい仕事した。
「……あ、あの……家は、こっちでしたっけ……?」
「ん?逆だよ? たんに、あたしがひとりちゃんと話があっただけ」
「は、話───?」
『ひとりちゃんさぁ。ノルマまだだよね?みんな終わってるのにさ。
と、いうわけで……指詰めけって~い!ささ、ひとりちゃん好きな指を選んで!選ばせてあげる、これ慈悲だから!』
「あばばばばばばばばばば!」
「うお!?またバグった!?今回は頻度が早いな、どんな妄想したの!?」
「あ、足……足の指じゃダメですか……?」
「…………なにが???」
やれやれと苦笑して、えっとね、と笑う。
「ほら、あたしら結構無理矢理勧誘したじゃん?」
「………あ、はぁ……」
少し、ひとりは思い出す。ギターを持ち(本人的には)いかした格好で学校に来たら、目の前の人と瓶底眼鏡の変な女に両肩をガッチリ拘束され、そのまま連行されたのだ。
あの時は、本気で怖くて連れられた先では溶けたものである。
「……たまに、居辛そうっていうか、場違いなところにいるような顔してるからさ、ひとりちゃん。気になったさ」
うちは変人ばっかだしねと付け足して、苦笑する。
まぁ、変人に対して目の前の人は人外っぽいところがあるけど。
「………あ、えっと………」
「………あ、その、バンドに誘ってくれた事も……今、バンド出来てる事も、その、う、嬉しかったし、た、楽しいんです……」
「……ただ、その、変な話なんですけど……」
「…………私、その、生まれる時を間違えたっていうか……本当は、ここだけど今じゃないような……そんな気に、なる事があって……」
「………それで、本当に逢いたい人達が、いるような気がして……」
ふむ、と遠い空を見る。なんのこっちゃと思う。
思うけど、ひとりが本気で悩んでるのは理解出来るし、なんとかしてあげたいと思う。
んー、しかし凡人のあたしには、ひとりちゃんの事は分からないなぁ……。
「………ま、よく分からないけど。でもさ、それならいつか会えるんじゃない?」
「……そう、でしょうか」
うつむかせたその顔に、笑いかける。
「うん!このままバンド続けて有名になれば……きっと会えるでしょ。その人達が、見付けてくれるかもだし」
「……あ、そうかも、しれないですね」
このままバンドを続けた先に………。
そしたら、会いたい面影に逢えるかもしれない。
不思議と、確信のようなものが持てた気がする。だって、その子達も、きっと───。
「……あの、ありがとうございました。私、その、バンド、が、頑張ります……」
ひとり、決意する。このバンドを続けて行く事を。
ここが。ここだって、自分がいたい場所だから。
それとは別に、いつかきっと逢えるあの子達に想いを馳せた。
どんな形になるかは分からないけれど………。
───きっと、逢えるよね。虹夏ちゃん、喜多ちゃん、リョウさん。