体育館。ここに登るのは、以前の文化祭以来だなとふたりは思う。
…………今年も、ここでやる事になるのだろうか。
先生の話といろいろ喋る喜多ちゃん。
基本的に喜多ちゃんに任せておけばオッケーと考えているふたりは、隣でぼーっと突っ立っていた。
「ふたりちゃん、せっかくだからギターソロとかお願い!」
こそっと突然耳打ちされて、唐突だねと呟く。
………まぁ、やれと言うのなら。
「……でもなに弾けばいいの?」
「えっと……なんか、盛り上がりそうなやつ!」
場の空気をもっと盛り上げたいらしい。充分だと思うものの、まだロッキン勘違いしてる人らがいて、そこら辺が盛り下がっているらしい。
みんなに、ギターソロやります宣言をしている喜多を尻目に……ならばと、とりあえずギターに触れて──ふたりは、利き手を逆に構えた。
「あら?ふたりちゃん、持ち方が逆────
言葉を聞かず、掻き鳴らす。曲は、最近流行りでリクエストの多かった曲だ。
………左利き奏法。本当は、普通にやるつもりだったが、変な所でギターヒーロー二代目バレとかしたら嫌だなとか考えた為に、半ば即興でやっている。
元々何度か練習しているし、そんなに難しい曲でもないので問題なしである。もしも姉ならば、ぶっつけ本番でも余裕だろう。
観客の生徒らを見る。それなりに受けが良さそうであった為に安心。
最後に、少し調子に乗って得意の背ギターを披露。歓声が上がり、ふたりは少し照れた様子で頭を掻いた。
お姉ちゃんなら、もっと凄い事やっただろうなぁ……などと、ちょっと考えてみる。
…………まぁ、結束バンドの危機とかそういう状況でもなかった為にヒーローパワーを発揮出来ず、ある意味凄い事をやった本来の世界の話は、ふたりが知るはずもないのであった。
まぁ、知ったら知ったで、それはそれでお姉ちゃんらしいと苦笑するのだろうが。
ふぅ、と息を吐く。場の空気は温まった。
「…………」
改めて、喜多は思い出す。初めて会った、あの日の感動を。
そして、改めて思う。やっぱり、かっこいいなぁ、と。
「……では、一曲やりまーす!」
オケが流れ、始まる喜多ちゃんと二人の小さなライブ。
結束バンドの曲なので、利き手で。
充実した時間になったと思う。良い気分で、ふたりは喜多と共に歩いていた。
夕焼けに照らされ、大きくなる影。
不意に、じわりと、胸が苦しくなった。
いつもの傷(やつ)だ。決して癒える事のない、ずっとつきまとうモノ。
「………」
受け入れているけれど、やっぱり苦しいものだから、ふたりは歌う。
「……とぅいんくるとぅいんくるりとるすたー」
「トゥインクルトゥインクルリトルスター」
呟き唄うと、すぐ隣から聴こえる歌声。
見ると、夕日に照らされた喜多が微笑んでいた。
ふたりは照れたように笑って、続ける。
「トゥインクルトゥインクルリトルスター」
「はうあいわんだーわっゆーあー」
「アップァバウダワーソーハイ」
並んで歩いて、なんとなくおかしくって微笑みあう。
………未確認ライオットまで、後少し。
悔いのないようにと、自らの手を握る。
心の痛みは消えてはくれないけれど、でも、だから頑張れるのだ。
「……それじゃあ、今日も頑張りましょうね!」
STARRYに着いて、喜多が笑って、ふたりもまた頷いて階段を降りていく。
「あ、ふたりちゃん、喜多ちゃん。おっはよー!」
「ふたり。郁代。おはよ」
二人の先輩に、笑顔で挨拶を返して……今日も楽しく、バイトを始めるのだった。