今日も今日とて、STARRYでバイトをしていた。
「はい!オレンジジュースですね!」
何時もの接客スマイル。……でも、その笑顔はいつかの頃よりも明るく見えた。
「ライブ、始まるねー」
隣の虹夏が呟いて、そうですねと頷きステージを見た。
少しばかり、暇が出来る時間。今となっては、見慣れた景色。
今日は、リョウと喜多はいない。結束バンドとしては、二人きりである。
「………」
未確認ライオットは、明後日だ。
明日に最後の練習をして、ライブ審査。
いわば、決戦の日。ふたりは、少し目を閉じて息を吐く。
「………あの、虹夏さん」
「うん?」
ステージを眺めていた虹夏は、横目でふたりを見た後、どうしたの?と笑顔を向ける。
「………夢の話、覚えてますか?」
「………うん」
虹夏は、頷く。初ライブの後の事を思い出しながら。
「……なにか、出来たの? ふたりちゃん」
「………まぁ、一応」
苦笑混じりに言って、ふたりはステージを見上げた。
………面と向かっては、ちょっと恥ずかしかった。こういうところが、きっと自分はダメなのかもと思う。
きっとお姉ちゃんは。人と目を合わせるのが腰を抜かす程に苦手な癖に、こういう時だけはしっかりと相手の目を見れる。
そんな人だった。
「……上手く、言えないんですけど。喜多ちゃん、言ってました。バンドって、第二の家族みたいなものだって」
「……今のわたしは、心からそれに同意出来てて………」
………まぁ、未だにリョウさんの娘になりたいというのはまったく理解出来ないが。
そもそも、あの人が母親になった姿が想像出来ない。
「……なんっていうか、こうやってバンド続けていく事が、頑張っていく事が──」
そこで言葉を区切って、少し息を吐き………ちゃんと、虹夏の目を見た。
「みんなの夢が、わたしの夢なんだと思う。……相変わらず自分がないかもしれないけど、でも」
みんなと一緒に、喜多ちゃんの夢。
このバンドで、自分達のバンドらしく。リョウさんの夢。
このSTARRYを、あの雲より先へと届くくらい有名にしたい、虹夏さんの夢。
キラキラと輝く星々。それを繋ぐ、線のような………。
「………お姉ちゃんみたいな、ヒーローになりたい」
最後に、ポツリともらした言葉。村人Aくらいでしかない自分には、烏滸がましい願い。
「───託された!……なんてね」
そんなふたりの夢を聞いて、虹夏は笑った。
「それじゃあ、ふたりちゃんが『ギターヒーロー』になれるよう、これからも頑張っていかないとね!ふたりちゃんも、私達も!」
「………うん」
屈託なく笑う、眩しい笑顔に目を細めて、ふたりは呟く。
「あ、後はギターヒーロー記念館を作ったりしたいです」
「ギター……なんて???」
「その為にお姉ちゃんの私物は出来るだけ全部遺してるわけですし、その為にお金も貯めてるし……」
「………そ、そっかぁ~……それは、頑張らなきゃね……」
ギターヒーロー記念館……後藤ひとり記念館。
話によると、動画の収入諸々はその為にほとんど使っていないらしい。
なんなら将来、自分の家を改造して創ろうだとか、着々と考えをまとめているようだった。両親のうち、母はともかく父は大賛成しそうな計画である。
…………それが完成したとして、果たして後藤ひとりは喜ぶだろうか。
溶けそうな気もするし、承認欲求が満たされてニヤニヤしそうな気もする。
………ただ、間違いなくギターヒーロー虚言集は流石に喜ばれないだろうなと、虹夏は思うのだった。