「あっ、おはようございます」
「あ、SIDEROSの皆。おっはよー!」
あくびと楓子の姿に、虹夏は笑顔で手を振った。
「ヨヨコ先輩~。結束バンドさんっすよ」
控室。そこには、ソファーに座りながら一人、口を半開きにしながらスマホをシュシュシュシュシュシュシュとしている大槻ヨヨコの姿があった。
周りが知らない人ばかりで緊張しているのだろう。ヨヨヨ……。
しかし、そんな彼女も結束バンドの出現に、パッと笑顔になった。
「………ふん!」
かと思えば、突然のツン!である。
顔見知りが来て安心したものの、変なプライドが彼女の情緒を不安定にしてしまっているのだ。
が、大槻ヨヨコをだいたい察しているふたりは、特に気にする様子もなく歩いてヨヨコの隣に座る。
「おはようございます」
そう笑顔で挨拶しつつ、小声で付け足す。
「………ヨヨコお姉ちゃん?」
瞬間……カァ、とその頬は朱くなった。
「ちょっとふたり……!それやめてってば……!」
「えー……自分で言った癖にー……」
両手で顔を覆って撃沈するヨヨコと、それを悪戯っぽくクスクス無邪気に笑って眺めるふたり。
そんな様子を、少しばかりポカンとした様子で結束バンドのメンバーと、SIDEROS組は眺めていた。
「最近、遊ぶって話は聞いたっすけど……」
「ロイン交換したって話は聞いたけど……」
思ってたよりだいぶ仲良さげである。あくびとしては、あのヨヨコとここまで壁なく話せるのは珍しいと思う。
なぜなら、大槻ヨヨコは基本的に面倒臭い人間だからだ。
慣れるとちょっとうるさいチワワに過ぎない彼女だが、目付きは悪いし謎のツンデレムーヴは気付かないと態度が悪いだけである。
心根は優しいのだが、自他共に厳しい彼女は、忠告という名のダメ出しも多いし……正直、プライベートだとあまりという感じである。
嫌いではないし、ほっとけないし、好感が持てる相手で愚直で努力家で尊敬出来る人間。それはそれとして面倒臭い。それが大槻ヨヨコなのだ。
…………ライブの後の打ち上げとか、生真面目でストイックな彼女はダメ出しとか始めるからそれが嫌なので誘ったりしなくって、その度にプルプル震える姿にほんのりと胸がチクチクしたりもするものだが……。いやだって、打ち上げくらい楽しくわいわいしたいし……。
なんにせよ、そんな彼女と自然体でこうやって関わってくれる人が出来たみたいで、良かったっすねと思う。
あわよくば、後藤ふたりにはSIDEROSに加入して大槻ヨヨコ係をやってくれないかとも思うが、それは不可能だろう。
以前、話した時。彼女は、結束バンドを心から愛していたから。
……せめて新宿FOLTにもっと来て欲しいっすね~。
まぁ、あっちの活動とかもあるだろうし、仕方ないのだけれど。
「…………」
腕を組ながら、隣でリラックスしているふたりを見ながら、しかし変な気分だわとヨヨコは思う。
ギターを始める頃に……ギターヒーローの動画は、なんとなくだが何度も視たものである。
よく、解らない。でも、彼女の音は妙にしっくり来たし、よく分からないけれど妙に対抗心を刺激させた。
その二代目と、こうやって話して隣にいるというのは変な気持ちだ。
…………本当ならば。──本来ならば?
少し首を振る。それから、口を開く。
「………ふたり」
「………はい?」
キョトンと小首を傾げる彼女に少しばかり咳払いをしてキッとした目を向けた。
「一応言っておくけれど、手加減とかはしないわ。この場にあたる以上、貴方達結束バンドはライバルなんだから」
「……そうですね」
その言葉に、それはそうだとふたりは思う。
だって、頑張ってここまで来てるのだから。自分たちだけじゃなく、ここにいる人達は、みんなみんな、一生懸命に頑張って、ここにいるのだから。
「……うん。わたしも、頑張ります」
そう言って、ソファーから立つふたり。
そんな彼女の服の裾を………ヨヨコは慌てた様に掴んで。
「い、いや、だからって別に席を立たなくていいじゃないせっかく座ったんだからほらあんまり会う機会とかないしいやこれは私が知らない人ばっかで緊張するから隣にいて欲しいとかじゃなくって座ってるほうが楽だし本番前に体力は温存するべきだしほら私お姉ちゃんだしいやちが───
「………じゃあ、しばらく隣、失礼しますねヨヨコ──お姉ちゃん」
「……………」
チーンと撃沈してしまったヨヨコの隣に、ふたりは苦笑混じりに座る。
お姉ちゃんに似て、本当に変なタイミングで格好のつかない人だとふたりは思ったのだった。オヨヨ……。