「出演者の皆さん、今日の流れの説明と出演順番決めをします」
ヨヨコとおしゃべりをしていると、スタッフが箱を抱えて控室に入って来た。
いよいよか、と思う。緊張が身体中でじわじわと蠢いていくのを感じる。
全バンド終了後に観客が投票して、票数の多いバンドが決勝出場となるらしい。
「では出演順を決めますので、代表者の方はくじを引きに来てください」
よし、と虹夏が頷く。
「絶対、七番目(トリ)!」
「印象に残りにくいから、微妙の順番はやめてよ」
「任せろーい!」
喜多とリョウの声に、親指を立てて意気揚々と歩いて行く虹夏ちゃん。
その後ろ姿に、何故か一抹の不安を覚えるふたり。
そして彼女は、『5』と書かれた紙を持って来て、夏終了と、リョウは呟くのだった。
「まぁ、そこまで影響されませんよ……あ、リハ始まる前にお昼食べます?」
少しへこんでる虹夏に、即座に入る喜多ちゃんのフォロー。
ふたりも隣で、コクコクと頷く。
お昼と聞いて、いそいそと虹夏は弁当を四つ取り出した。
いつもは虹夏が作っているのだが、今日は姉の……星歌さんが作ってくれたらしい。
虹夏は何故か作ってくれたと言っているが、真心のこもった応援の気持ち……それがこのお弁当。カツ丼なのである。
結こ……ちょっと。ちょっとだけ焦げてる気がするが、それは店長さんの中に青い炎があるからだろう。
カツを一つ、口に運ぶ。
「………うん」
ふたりは頷く。美味しい。そう、美味しいのだ。とても美味しいのだ。美味しい。
なんか、こう、固い気がするし、しょっぱいし、ご飯の芯が残っているのか、カツの衣の影響か、ゴリバキしているが、美味しい。美味しいのだ。
そう!頑張ってくれたのが解るのだ。気持ちが美味しいのである!
決して不味くない、不味いわけがないのである!
「美味い!シェフを呼べ!」
「ですよね!」
目をキラキラさせながら大喜びするリョウに、全力で同意するふたり。
そんなふたりに対し、うんうんと虹夏と喜多は頷いた。
………ふたりちゃん、結構な頻度で箸が止まってるけどねー。
……ふたりちゃん、口にいれてすぐにお茶で流し込んでるわ。
………まぁ、そんなこんなで楽しいお昼も美味しいカツ丼に舌鼓を打ちながら終える。次は、リハーサル。
ふーっ、と息を吐く。少しだけ、悪い緊張をしている気がする。
……最近、楽しく演奏出来ている事を考えると、らしくない気がする。楽しまなきゃ。
他のバンドもリハーサルをする。
どのバンドも凄いけれど、相変わらずSIDEROSは凄くて……ケモノリアもかなりのレベルだった。
「伊地知先輩!さっき表みたらお客さんたくさん並んでましたよ!」
もうすぐですねとはしゃぐ喜多を横目に、再び深呼吸。頑張れわたし、とぅいんくるとぅいんくるりとるすたー。
「あっ、そうだ!前言ってたステッカー作って来たよ!たくさん作ったから、みんなで貼ろー!」
そう言って虹夏は、見覚えのある首に結束バンドを巻いた奇妙なキャラクターのステッカーを取り出した。
「……なんでしたっけこいつ?」
「ほら、前に路上ライブの時に……」
「……ああ、あのシャトーブリアンうめ~~っ、とか言ってた……」
ちょっとイラッとするやつ。山田さんが創ったキャラクターだったな。らしいと思う。
けつばんちゃんだったろうか。ミュウを失敗したみたいな不吉な名前である。
ステッカーは、なんか首を吊られるような感じなのは気になるが、顔色が良い。前に見た時は餓死寸前だったが、お金が結構投げ入れられたみたいだ。
………みんなのお金で食べるシャトーブリアンはうまいか?けつばんちゃん。
なんて事を考えつつも、とりあえずなにも考えずにヘッドに貼ってみる。
「はい、リョウも!」
ニコニコ笑顔の虹夏ちゃん。しかし、山田の反応は渋いものだった。
「そんなよくわからないキャラ貼りたくない」
どうやら、彼女のカラカラには記録されていなかったようである。
「お前が作ったキャラだろ……」
貼れ、と言われ、はい……と貼る山田さん。
「忘れてた……」
流石、その場のノリに生きる人は違うなと、ふたりは息を吐くのだった。
「みんなで写真とって、トゥイッターに上げましょ!」
喜多がそう言って、スマホを取り出す。
ふたりとしては、喜多とリョウがステッカーをボディに貼っていたので、自分もそっちに張り替えようとしていたのだが、タイミングを失ってしまった。
「こーやって並べて……」
「遂にライブ審査です!メンバー、一致団結!
ファンの皆さん、応援よろしく!」
カシャッと鳴るカメラの音。
いよいよ、審査が始まるのだった。