『トップバッターはキュートでロック!
エレクトリック・ロックバンド、ケモノリアだ!!』
ケモノリアは、自然体で舞台の上に立つ。特に、ボーカルの彼女はその表情に一切の気後れもなく、余裕そのものに見える。
『新時代を感じさせる音楽で会場を熱くさせるぜ!!』
変な事しでかさないかと内心ヒヤヒヤしている他のメンバーの事なぞ知りもせず………一瞬、目を閉じる。
『新時代』
瞼の裏には、彼女の姿。幼い頃に視た、舞台の景色。
強烈に焼き付いた、猫背の虎の姿。
そして、話に聞いた彼女の『最期』。………もう、いない人間だ。
どんなに求めてもその命はもうここにはないし、だからその背を追う事は出来ない。
だから……では断じてないが、彼女は掻き鳴らす。キーボードの音を。
あの日の気持ちは胸の中。感動を信念に。旧き日に感じた彼女のロック魂は、この心に!
鳴り響く電子音。ミュージックと共に、舞台の上で、演者は踊る。
…………しかし、人生とは分からないものだと彼女は思う。
今日見た、あの少女の姿。アレには一瞬だけ息が止まった。
あまりにも、似ていたから。あの人に。
妹なんだろう。そんな彼女と、この『新時代』で。舞台で張り合えるなんて。
こんな、素晴らしい事はない!何時も以上に、力も入るというもの!!
伝わる楽しい思い。電子音のロックと、それに合わせたダンスと歌!
「初めて聴いたけどめちゃくちゃのれる~!このバンド絶対くるじゃん!」
「いや、もうきてるから!」
会場が盛り上がる。これ以上ない程に。
これ以上ない程に!!!
…………これ以上ない程に?
「…………ふん」
大槻ヨヨコは、鼻を鳴らした。成程ね……で?
少しだけ、震えるその手でギターを握る。
逃げ出しそうな足を信念で。震えそうな声を意地で。
緊張で弱くなる心を根性でねじ伏せて、彼女は立ち上がる。
そう、これまでと一緒。同じよ。
私だって、努力して来たと胸を張れる。だから、裏切らない。
どんな結果だろうと───いや。
必ず、私が──私達(SIDEROS)が一番になるんだから!!!
舞台の上へとヨヨコは行く。
一歩一歩に、これまでの道を想いながら。
ギターに触れた事。動画の中にいる、ギターヒーローの姿。
凄く惹かれて───でも、何故だか解らないけれど、凄く悔しかった事!
そうよ後藤ひとり。なんでアンタがいないのよ!
「……ヨヨコ先輩?」
「………なんでもないわ、大丈夫よ」
何時ものようにその目を吊り上げるヨヨコに、安心したようにあくびは頷く。
まぁ、なんだっていいわ。チラリと、その妹の姿を見た。
誰が相手だって関係ない。貴方の妹だってね。
「…………ふん」
頑張って下さいねとばかりに、少し手を振る彼女の姿に、少しだけ心が温かくなる。
アンタも頑張りなさいよ。あいつの妹だからとかじゃなくて、後藤ふたりは後藤ふたりとしてね。
『続いては、かわいい顔で凶暴な音を鳴らすガールズバンド、SIDEROS!!』
掻き鳴らされる暴風の様な音。
それは、緩やかだった客のノリを一変させた。
SIDEROSの演奏とヨヨコの歌声が、一気に空気を作ったのである。
──結束バンド。ケモノリア……他のバンドなんてどうでもいい!
今日のライブも私達が一番盛り上げる!ただそれだけ!
他が怖じ気づくくらい、圧倒的なライブをしてやるんだから!!
常に、昨日よりも前へ。先へ!
だから今日のライブはSIDEROS史上、最高の出来よ!そうでしょ!?
そんな彼女の気炎に呼応し答えるように、メンバーは演奏する。
そして少しして──会場は歓声に包まれるのだった。