曲が終わり、先程とはうってかわって静かな余韻に包まれる。
肩で息をしながら、ふたりは恐る恐る顔を上げた。
「すっ………すっごいじゃん!」
「ね!? ね!? 後藤さん、本当に凄い子なんだよ!!!」
「圧巻……拍手ー」
それぞれの表情を見て、ふたりはようやく安堵の息を吐いた。
「……ソロでやってた時期、長いの?」
「ソロでしか、やった事ないです」
そう、とリョウは少し考える。
「あー、やっぱりさー。うち丁度ギターもう一人欲しかったんだよねー」
後ろに手を回しながら、狭い部屋を少し歩いて、パッと笑顔で虹夏はふたりを見た。
「そこで、どうかな? ウチのバンド、入ってくれないかな? 喜多ちゃんもいるし!」
「いいですねそれ!後藤さん!一緒にやりましょうよ!」
まぁ、半分以上最初からその予定だったのだが。
今の演奏を聴いて、虹夏は思った。
絶対に、この子を引き入れたいと。
「ねぇー?リョウー?」
「……ノルマも四分割。異論無し」
「もっと素直な言い方してー」
緩い調子のメンバーを見ながら、ふたりは呼吸を整える。
バンド。願ったりではある。
「…………でも、いいんですか? バンドだと、わたしド下手ですけど」
「うぐっ。いや、ソレは仕方ないって! 一緒にやってれば、ちゃんと力を発揮出来るよ!」
微妙に根に持たれてる。気にされてる??
「継続は力なり」
てきとーにソレっぽい事を言うリョウに、流石リョウ先輩!とキタキタさせてる喜多。
「……じゃあ、わたしで良ければ」
一応ふたりも、こういう展開は予想していた。
バンドしてる人がギタリストに会いたいというのならば、無い話ではないだろう。
……しかし死にかけるとは思わなかった。予想してたよりも、だいぶ自分のメンタルはヤバいらしい。
早いうちに。今日、気付けて良かった。
「……あ、そういえばなんて名前なんですか? このバンド」
どのくらいやるのかは分からないが、自分の所属するバンド名くらいは知っておかなければならない。
聞いてみると、虹夏は気まずそうに顔を逸らしていた。
「………結束バンド」
「結束バンド………?」
「……ーー~~ッッ!すぐに名前変えるから~~!!!」
そう言って頭をガシガシかく姿に、ふたりは苦笑する。
多分、隣で笑ってるあの青いのがつけた名前なのだろう。
それから、ロインの交換等をして、今日は別れた。
疲れた顔のふたりが心配だった為に、喜多もそれに着いて行く。
去って行く二人に手を振って。その姿が見えなくなった頃に、はぁ~、と虹夏はタメ息を吐き出した。
「ミスったぁ~……」
ド下手は失言だった。だいぶ失言だった。
先日、喜多ちゃんからの話で勝手にハードルを上げすぎたせいではある。
物凄く凄い!天才!美少女!可愛い!かっこいい!
彼女からの情報はこういったものであった。
とにかく凄い凄いと持ち上げる上に、実際に会うと、なんとなく雰囲気があった為に、勝手に相当なレベルだと思ってしまった。
……が、実際に演奏してみたらだいぶアレだった。その為に、ついつい出てしまった言葉だ。
かなり傷付けてしまったようで、はぁ、と虹夏はタメ息。
「仕方ない仕方ない。切り替えて行こう」
私は失言してないしと言わんばかりの山田リョウ。いや、お前も笑ってたから同罪やぞ。
「……っていうかさ……あの子、ギターヒーロー二代目!だよね? あの弾き方といいギターも同じだし……って、リョウ知ってる?」
「知ってる。結構上がって来るし、初代の頃からファン」
「……そっか。じゃあ、間違いないよね!いやぁ、まさか御目にかかれるとは……」
同じくらいの年齢だとは思っていたが、いやぁ、世間は狭い。
「……虹夏」
「ん?」
「一応聞いとく。……ふたりがギターヒーローだったから、メンバーに入れようと思ったの?」
いつになく、真剣な表情でリョウは聞く。
「そうだよ」
それに対し、あっけらかんとした調子で、虹夏は即答した。
「だって私、ギターヒーロー二代目さんのファンだし! リョウも聴いたでしょ? あの演奏、本当に凄かったよね!」
「………でも、全然楽しくなさそうだったよね?」
虹夏の言葉に、リョウは静かに頷いた。
伊地知虹夏にとって、ライブとは。音楽とは、キラキラとした楽しいものでなくてはならない。
勿論、悲しみや苦しみ。怒り等々、負の感情は名曲を作ったりもする。
そこを否定する気はない。
だが、伊地知虹夏にとって……演奏をする時は、最高に楽しくなくてはならないのだ。
ギターヒーロー二代目の事が、虹夏は大好きだ。
初代も好きだけど……聴いてると、何故だか、胸が締め付けられるような気持ちになるから、あまり観ていない。
なんにせよ、ギターヒーロー二代目。彼女は、技術も演奏も高レベルで、その迫力は何度だって観れるし聴ける。
ただ……楽しんでいるように思えず、不思議だし勿体無いなと思っていた。
そして、今日の彼女の演奏。
あれは、まったく楽しんでいるように見えなかったし、実際に、後藤ふたりはまったくといって良い程に楽しんで音楽をやっていない。
まるで、獣に襲われ必死に抵抗しているような。そんな演奏。
目を閉じる。昨日の事の様に思い出せる、『あの日』の記憶。
初めてライブハウスに入って、初めて姉のバンドを見た時の感動……。
あの日のキラキラは、今も色褪せていない。
「だからさ……あの子にも、楽しんで欲しいんだ。このバンドを通して……音楽って、楽しいんだよって。知って欲しいの。
……って、私みたいな凡人が、なに押し付けがましく偉そうにーって思うかもだけどさ?」
「確かに」
「おい」
「でも虹夏らしい。うん、信用はしてたけど───安心した」
そう言って、山田リョウは微笑んだ。
「……よーし!とにかくメンバーも揃ったし!
下北沢最高の、エモエモのエモロックバンドを目指すぞー!」
「頑張れニジカット……お前がNo.1だ」
「いや、リョウも頑張るんだよ?」
まったくと呟き、虹夏は再び目を閉じる。
───あの子には。ふたりちゃんには、夢があるだろうか?
ないならば、是非とも夢を持って欲しい。
だって夢は──どんな辛いときも。道を照らしてくれる光になるから。
────だよね? お母さん。
キャラクターの現状をちょっと紹介。
後藤ふたり
主人公。めっちゃ病んでる。
一見しっかりしているし、勉強はちゃんと出来るしバイトで躓く事はないだろう。
しかし、演奏の技術は高いものの、本家ギターヒーロー同様、バンドだとアレな上に、その状況で変に姉エミュしようとする為にさらに歪になる。
その為に、現状は本編ひとりちゃんの劣化。一度崩れると、ちょっと誉めれば立ち直る姉と違いかなり引きずる。くそめんどくさいは完全にブーメランと化している。
喜多郁代
本編より早くギターを始めれたので、いいスタートダッシュが出来た。
伊地知虹夏
本編とそんなに変わらない。と思われる。
山田リョウ
本編とそんなに変わらない。と思われる。
伊地知ニジカ
虹夏の悪夢に出てきた謎の怪物。喜多ちゃんを見付けると集団で襲い掛かる。その生態は謎に包まれている。
御茶ノ水の悪魔(サタン)
ギターヒーロー後藤ひとりが承認欲求モンスターにとり憑かれた際に争ったらしい。一体何者なんだ……
ダークライ
今日も誰かと戦わされている。