「………すっっっっごい盛り上がってますね」
「完全に場の空気を持っていかれた」
控室まで響き渡る歓声の波をその身体に浴びながら、そんな会話をする喜多とリョウと、流されそうになるふたり。
なんだか、不安になる。今のこの嫌な緊張感には覚えがあった。
「あの二組が抜きん出過ぎてるよなぁ」
「残りは可哀想だけど、消化試合だな」
スタッフのそんな会話が聞こえて、ぎゅっとギターを握る。
誰も、期待していない。聞かない。
あの、嵐のライブが脳裏に浮かんだ。
振り切るように頭を振る。もう、あの頃の自分には戻らない。
…………でも、やっぱり怖い。怖くなる。
観客はあんなに沢山いるのに。
「………トゥインクルトゥインクルリトルスター」
はっ、と目を開く。隣には、喜多ちゃんの姿。
少し困ったような眼差しに、ふたりはなんとか笑みを浮かべて返した。
…………何時も思う。何度だって思い知る。わたしは、支えられてばっかりだ。
結束バンドに。みんなに。……やっぱり、ヒーローにはまだまだなれそうにない。
『次は下北沢発、そのバンド名はネタか!?本気か!?結束バンド!!』
響く司会の声。舞台へと向かう仲間達の背中を追って、歩く。
舞台の眩しさに、少し目を細める。
「ネット投票でギリギリだったバンドか~……まぁ、ここはなさそうかな!」
「五番目ともなると聴く方もだれるしね。もうSIDEROSで決まりじゃん?」
聞こえる声に、ぎゅっとギターを握る。
眩しい舞台の光の中に………長い、長い桃の髪を見た。
舞台に立つ、姉の姿。
後藤ひとりは、ふたりを見て、少し困った様に笑って、ギターを片手に小首を傾ける。
対するふたりは、少しだけポカンと口を開けて、微笑み首を横に振った。
───代わってもらった方がいいんじゃない、後藤ふたり?……あの日みたいに。
───大丈夫。もう、大丈夫。怖いけど、足が震えてかっこわるいけど、大丈夫だよ。
他のバンド……特に、SIDEROSとケモノリアとの実力差には、萎縮してる。
期待のない観客の目は怖いし、ちゃんと出来るか。頑張りが、わたし達の良さをちゃんとしてるか不安で不安で仕方ない。
───でも、迷いはないよ。
ひとりは、ちょっぴりぎこちなく。でも、しっかりと笑って頷いて、舞台を去る。
去り際に、押される背中。
姉と、姉の姿をしていた自分と、ふたり分。
震える心をそのままに、舞台の上へと。立って、その目は逃げずに観客達に向かう。
『えー、こんにちは!下北沢からきました、エゴサが全く機能しません!結束バンドです、よろしくお願いします!』
響く喜多ちゃんのMCを聞きながら、すぅ、と息を吸った。
───わたしに、今のわたしにMCの類はまだ出来ない。きっと、何を言っても薄っぺらくなると思うから。
……お姉ちゃんなら、どうかな?ふと、思う。姉がこういう場面で良い事を言うイメージはあまりないが、不思議と、きっと、ここぞという時なら勇気を振り絞れる人だ。
本物の、ヒーロー。
なら、わたしは、せめて形だけでも。
MCの終わりを見計らい、掻き鳴らすギターソロ。
本来よりも、強く、強く、力強く!
三人が、少し驚いた様子でふたりに視線をやって、でも口元にすぐに笑みを浮かべて……始まる、わたし達のライブ。
多分、今までの人生で一番、熱中して集中したと思う。
もう、自分たちの音しか聴こえない。見えない。
余計な考えが消えて、クリアな頭。それと反比例して、熱くなる心。
誇れるくらいに、今までで最高の演奏が出来たと思う。
ああ、熱い、熱い、熱い。でも、もっと。もっと、この光の中で────。
聞こえる歓声。聴こえる拍手の音。
胸に広がるのは、やりきれた達成感。
視界に広がる笑顔の観客達。ああ、これが。これがきっと───。
───きっと、お姉ちゃんが見ていた景色。お姉ちゃんが感じていた、世界なんだろう。