「とぅいんくるとぅいんくる」
「りとるすたー」
「とぅいんくるとぅいんくる」
「りとるすたー」
月と星と、僅かな陽の光りが射し込む幼い夜の時間。畳の部屋を、二人の少女の歌声が満たしていた。
幸せが、満ちていた。
「とぅいんくるとぅいんくるりとるすたー」
「とぅいんくるとぅいんくるりとるすたー」
片方はギターを。片方はタンバリンを。
見ている方も、思わず顔がほころぶくらい、とても微笑ましく仲良しな姉妹の姿。
年の離れた、姉妹の姿。
どちらも笑顔で、歌う。音を鳴らす。
弾む音。楽しい音色。溢れ出す、幸せの音。景色。
何度も何度も繰り返す、唄。窓の外は、キラキラ星が瞬き始める。
どれくらい、そうしていただろうか。姉の方が、少し一息ついて、妹もまた、少しタンバリンを置いた。
「おねぇちゃん……楽器って、楽しいね!」
「……うん!」
笑顔の妹を見て、姉も笑う。何かを思い出すように。懐かしむように。
白い指先が、弦を弾く。その動きを、妹は食い入るように見詰める。空色の瞳が、指先を追う。
「…………ふたり」
「うん?」
「そのっ……残念だったね……」
「うん……」
少し、目を伏せて……妹は少し首を振り、笑った。
「でも、仕方ないよ。……悔いがないくらい、頑張ったから」
「………みんな、頑張ってたから」
自分達も。他の、みんなも。
あの日、舞台に立った人達は、みんな星々のように輝き煌めいていた。
だから、仕方ない。悔しいけど、凄く悔しいけど。でも、また頑張ればいい。
まだ───夢は始まったばかりで、終わりではないのだから。
「………そっか」
姉は、少し心配そうな顔をしながらも笑う。頑張れ!妹よ……!
そんな想いと共に、またギターを弾いて。
「ねぇ、ふたり」
「おねぇちゃんには、ふたりのほしが────」
「……ううん」
「ふたりの星座が、一番輝いてたよ」
「………おねぇちゃん………」
ぎゅっと、ギターを握った妹を見て、姉は演奏を止めた。
それから、視線を窓の外にやり、小さく浮かんだ口元の笑みと共に、目を閉じる。
「ねぇ、ふたり。ごめんね?」
「ちょっぴり早すぎる時間だけど──お姉ちゃん、そろそろ眠るね?」
「なんだか、凄く、眠いんだ…………」
「おねぇちゃん………」
「……………ッッ!」
姉の言葉を聞いて……妹は、その愛らしい顔をくしゃくしゃにした。
それから、姉の身体に飛び付く。
その自分より大きな身体に……顔をうずめた。
「…………」
姉は……そっと優しく、頭を。髪を。背中を、撫でる。
静かな風の音だけが、部屋に響いた。
───その時間は、とても、とても───て。
…………だけど、とても、とても優しい時間だった。
どのくらいそうしていたか。妹は──ふたりは、そっと姉から顔を放して、身を離して。
「おねぇちゃん、おやすみなさい!」
笑顔で、心配させないくらいの笑顔で、そう言った。
それから、自分の足で出ていくその姿を見送って……息を吐いて。姉は。後藤ひとりは。静かに、眠りにつくのだった。
───妹のこれからに幸せがある事を願いながら。
───結束バンドのみんなが、楽しく悔いなく過ごせるよう想いを込めて。
───そしてまた。雲の隙間で逢えるよう、祈りながら。
「……………────。」
いつ頃から起きていたのか。気付けば、後藤ふたりは天井を眺めていた。
気だるさを感じながらも、頑張って身を起こす。
滲んだ視界を拭いながら、おぼつかないけどしっかり歩いて、部屋の窓を開けた。
───夏の終わりが始まる、風が吹いた。
今日もまた、一日が始まる。
日々は、夢は、続いて行く。
そして、そんな道の先で後藤ふたりが。
あの部屋の夢を見る事は、もうなかったのであった。