あれから、少したった。
まずはレーベルの話を聞きに行った。
その際に、我等が山田さんが自分への御褒美とかスイーツな事を言いながらハイエンドベースを買ってドヤ顔していた。
それも、一本ではない。三本くらいか。持ってきてないだけでもっとかもしれない。
………浮かれて新しくギターと、やたら高いジャージを買って来た姉の姿をふたりは思い出した。
………ギターはいいとして、なんでジャージだったのだろうか。
「……ふたりちゃん、そのジャージ初めて見るわね」
喜多に言われて、ふたりは頷く。そう、今着てるジャージがそれだ。
「お姉ちゃんがグレードアップした時に買ったやつ。……まぁ、買って少しして後悔してたけど」
「そう、なのね…………」
「…………なんでジャージなの???」
「………さあ???」
これを着て、ワンランク上の女コーデとかのたまっていたが、どういう事なのか分からなかった。
お金をいっぱい使って、なんで結局ジャージだったのだろうか。
ピンクジャージはダサい芋ジャージとか言ってたが、高いこれはカッコいいと思ったのだろうか。あのジャージへの拘りはなんなのだろうか。
…………姉はギター技術を得る為に、ジャージの神様かなんかと、なんらかの取引とかでもしたのだろうか。
そう考えるくらい、ジャージには並々ならぬ拘りがあった。ような気がする。
「まぁ、お姉ちゃん的にはいけてるみたいだし、せっかく一歩前進なんだから、わたしも着けてみよっかなって」
「………なるほど」
まぁ、なんやかんやピンクジャージも着こなしてはいた為に、今回もいい感じに着こなしてはいた。
…………でも、せっかくだから、もっと可愛いの着てくれたらいいのにと、喜多的には残念であったが。
なんにせよ、レーベル。どんな感じなのか想像もつかない。
あの日は浮かれたものの、まだなんの話もしていないのだ。油断は出来ないかもしれない。
そんなこんなで事務所へと。事務所は、STARRYから徒歩三分。
山田さんは、ヘリコプターかなんかでの送迎を期待していたようだが、流石にまだそれはないだろうと思う。
カップラーメンが出来るくらいの時間で着いた事務所は……なんというか、ボロかった。
これには、ふたりも少し驚く。
「………ひっ」
ふたりの足下をドブネズミが走り、思わず近くにいた虹夏の方へと避難。
なんか、雲行きが怪しくなって来た気がする。
主に山田さんの顔色がどんどん悪くなっていった。
「こんなボロいわけ……何かの間違い……」
「お待ちしておりました」
山田さんが愕然としているところで、司馬さんが現れる。
そうして、よく見たらレトロで赴きのある建物だとか言い出す山田。
レトロというか、ボロいだけで赴きもお洒落感もないし、そもそも近場を走るドブネズミの存在のせいでふたりとしてはもう帰りたかった。
「まぁ、大事なのは外見じゃねぇ。中身だ……」
凄く真っ当に聞こえる言葉を呟く山田。扉を開き入った部屋は、あまり広くない。ついでに、むぁっとする。……うん、蒸し暑い。
間違いない。貧乏事務所だこれ。
ふたり的にも、もうちょっと綺麗なのをイメージしていた為にちょっとショックである。
「狭いところで申し訳ありません。クーラーの効きも悪くて」
司馬さんは、涼しい顔でそう語る。
そんな彼女に、山田は引き吊った顔だ。
「サッ、サウナも兼ねてるだなんて未来的な建物だなぁ……」
「凄いポジティブな方なんですね」
「ならざるを得ない事情が……」
………ぼっち。嗚呼、ぼっち。何故にお前は今ここにいない。
山田は遠い目で天井を。……虚空を眺めた。
「おっ、お飲み物どうぞ」
「えっ、ぽいずんさん!?」
事務所には、何故かぽいずん(はーと)やみがいた。
なんでも、人手が足りないからバイトとして働いてもらっているらしい。
本人曰く、ライターだけで食べていくのは難しいらしい。世知辛い。
それから、司馬からそれぞれ話を聞く。
……話を聞くに、思ったよりもなんというか、シビアな話だった。
一応、制作費はお試しで出してくれるらしく、結果次第ではミニアルバムとか作ってくれるらしい。
まぁ、それだけバックアップしてくれるなら充分ではと、ふたりは思う。
まだまだ駆け出しなのだ。ノルマに追われる金欠バンドマンのままだけど、これなら、きっと。
「……思ったより悪い話じゃないですよね?」
虹夏にふたりは尋ねて見ると、こくりとサイドテールを揺らしながら彼女は頷く。
「あたし達個人でやれる事って限界あるし……浮けてもいいかも? ねぇ、リョウ───」
「も、ももももももしもしさっき買ったベース返品出来ますか??????」
「……もう、聞こえてないみたいです」
山田ァ的には、給料なりなんなりやCDガンガン作ってもらって左うちわを想像してたらしく、青ざめた顔で何処かに電話していた。
……いや、そりゃそうでしょとふたりは思う。
ふたり的にも、そりゃあもうちょっとの期待はあったが、いきなりそんなガッポリいくとは思っていない。
まぁ、そこが山田さんかなー、と生暖かい視線を送っていた。
そんな視線を受けて、山田ァは思う。
───おお、ぼっち。ぼっちよう………。ぼっちよう………。
きっと、この場に彼女がいたのなら。同じ痛みを分かち合えたはずである。
なんとなくそう思ったのでたった。
とりあえず、山田ァを除いてレーベルの話は特にこれといった波乱はなく収まった。
…………これは少ししてから知る事になるのだが、ぽいずん(はーと)やみこと佐藤愛子は、事前にギターヒーローと、その二代目の話をしていたらしい。
どちらも司馬は知っており、初めて結束バンドと会った後に、愛子からふたりが二代目である事を聞いて、少し驚きもした。
なら、宣伝に使えないかと当然考えるも、そこは全力で首を横に振られた。
………確かに、二代目もまた再生数は凄い。登録者数も。
───でもそれは、あくまでも後藤ひとり……ギターヒーローの功績だ。
もちろん、ふたり自身も実力はあるし、ファンを繋ぎ止めて更に増やしもしているが……それでもこれは、ギターヒーローが凄かったからだ。
更に言えば、ギターヒーロー二代目と後藤ふたりだと、弾き方の癖などもだいぶ変わっている。
これだと……まだまだ無名の今、宣伝するのは誰の為にもならないだろう。
結束バンドも、ファンも、この事務所も傷付く事になりかねない。
………それに。結束バンドは、その手段は使いたくないと思う。
だから、現実的にも理想的にも、それは時期早々だと結論に至ったのだった。
………いつか。本当に実力で結束バンドが有名になる、その日まで。
ふたり的には、その時こそ、改めてギターヒーローを。姉を、その名を更なる高みへと。
死してなお、彼女のロックは終らないのだから。
ちなみに、これは更に余談だが……後に司馬は、ギターヒーローの虚言を眺めながらふたりに聞く事になる。
「イケメン彼氏だの学校一のモテ女だのこのいけ好かないキャラは大衆にウケるとは到底考えられないですが……これ事実ですか?」
と、そんな話を。それに対してふたりは…………
「あ、勿論それ全部嘘ですよ。面白いですよね、この辺の時期が特に脂が乗ってて香ばしいですよ。
この時期からバンドメンバーにバレてる事を知って、虚言がなりを潜めていくんですよ」
とか言っていた。これが事実だと信じて疑わず鵜呑みにしていた佐藤愛子さん、心は未だに十四歳は大層ショックを受けていたそうな。
「いつか、ギターヒーロー虚言集とか出したいと思ってますので、楽しみにしてて下さい!」
そしてその後に続いたふたりの鬼畜にも劣る賊な発言には、司馬も戦慄していたとかなんとか。