「かんぱーい!!!!!」
「あっ!!写真撮るからまだ食べないで!!」
クラスの女子の声と、とにかくイソスタあげたい喜多の声を聞きながら、さて、とドリンクを飲もうとしたふたり。
「後藤~乾杯しよ~」
そんな彼女に、次子は声をかける。
「あ、佐々木ちゃん。……うん」
チン、とグラスとグラスが音を鳴らした。
「ライブよかったよ~。応援来てたの気づいてた?」
「あー、うん」
アウェイの空気に呑まれてかけてたものの、ちゃんと、目に映っていた。
………いや、まぁ、目立ったし。
例のスローガン掲げた姿を思い出して苦笑して……少し、ふたりは目線を逸らして。
「………ごめんね」
ついつい、漏れてしまった謝罪の言葉。
「……うり」
頬っぺたをつつかれて、わっ、とふたりは声をあげた。
そんな様子を愉快そうに笑って、ふたりもまた、笑みを浮かべる。
「……後藤は凄いんだから、もっと堂々としたらいいのに」
姉程ではないが、基本、うつむき気味なふたりに次子は言う。
「あんたに憧れてる人、けっこーいると思うよ」
………次子は、聞いている。喜多から、ふたりの事情は。
そして、立ち直って……あんな舞台で、かっこよくギターを掻き鳴らして。
「うちもその一人だったり………なんて」
そう、少し茶化したように笑う次子に対し、ふたりは少し頬を染めて顔を逸らして。
「…………ありがと」
ポツリ、呟く。───それから、一曲唄う喜多に視線を向けた。
「でも、わたしはそんなに凄くないよ。本当に、凄いのは───」
「あー、そうだね、うん」
次子は頷く。話を聞くに、自分なら少なくともこの少女を立ち直らせる事は出来なかっただろう。
もちろん、喜多一人の力じゃないだろう。それでも、事情を知り決して諦めず手を伸ばせる友人の強さを、次子は知っている。
「……でも、後藤も凄いよ」
だけど……指し伸ばされた手を掴んで、立ち上がったのは後藤ふたり自身の強さなのだ。だから、言うべきだと思ったから、言った。
「………───ありがと」
またポツリと一言、ふたりは呟くのだった。
「あ、せっかくだし後藤さんも歌いなよ!」
そんな中、不意にふたりは話題を振られた。
「えっ……」
「そうそう、後藤さんの歌も聴きたーい!」
と、逃げ場を潰すかの如くマイクとデンモクを渡され、あー、とふたりは呟く。どうしよう。
流行りの歌はよく分からない。しかし、自分の歌は間違いなく盛り下がる。
少し悩んだ後に、あ、と呟く。
「じゃあ……ここはあえて、優勝者を讃えてSIDEROSの曲で……」
喜多も次子も、なんで?という顔をしたし、言った本人も、なんで?とは思う。いや、優勝者を讃えてとはいったけどさ。
まぁ、いいやと歌い出すふたり。ヨヨコさんの歌好きだしね。
軽い気持ちで唄うふたり。
「…………───えっ?私の歌??」
───隣に本人がいる事も知らずに!
初めて外でファンと遭遇した……!
またしてもヒトカラに来ていた大槻ヨヨコさん(18)である。もっとも、ヒトカラは決して悪い事などではないのだが。
ヒトカラは決して悪い事などではないのだが。
ヒトカラは決して悪い事などではないのだが。
えぇ~……隣の部屋だけどデュエットしてあげちゃったりして~……ほら!本人隣にいるわよ!気づきなさい!!
と、完全に、舞い上がってますね~私!な状態のヨヨコさん。
それに対し、次子は………
「隣うっさいなー……音あげよ」
と、無情な対応をとるのであった。
まぁ、なんにせよ楽しい時間もそろそろ終わり。解散の時間が迫る。
「じゃあ……トロフィー受賞といきますか」
と、手作り感満載のトロフィー。
「…………」
でも、ふたりにとっては、とてもとても嬉しかったのだった。
「ちょっと~そろそろお開きだよ~」
「もう一曲~」
「なにこの歌、古そー」
誰かがまた曲をいれたらしい。古いアニメの曲のようだ。
『街をつつむ~Midinight fog~』
ふたりは席に座り、嬉しげに手作りのトロフィーを指先で撫でた。
『孤独な~シ~ルエ~ット動きだーせーばー』
そんな際に…………視界の隅に。……扉の方に、見覚えのある人影が映って────
『それは~まぎれもなく~『やつ!』さ~』
そこには、まぎれもなく奴(ヨヨコ)の姿があったのだ!!!!!
「あっ……………」
こーぶらー、という歌声は最早聞こえず………ふたりは、涙目で顔を真っ赤にぷるぷる震えながら、スススー……とフェードアウトしていくヨヨコの姿を見送った。
………そうだ。そうなのだ。よく、来るんだった、あの人、ここに───。
どうしようかとふたりは思う。思うが───
もうお開きだし、なによりそうでなくても彼女にとってここはアウェイだ。誘っても苦しくなるだけだろう。
………してあげられる事は、なにもない。ふたりは静かに、隣の部屋の音量が下がる音を聞くしかないのであった……。
「フッ、フン!天才は孤独な生き物なのよ!堂々としてればいいの!!」
半泣きヨヨコさんは、音量を下げて悲しくボソボソ歌うのであった。ヨヨヨ……。
見る人が見れば、ライオット優勝者の姿か? これが……となっただろう。
ちなみにこれは余談も余談だが、これが今作における彼女の最後の出番なのであった。