「はい!オレンジジュースですね!」
STARRYに響く明るい声。後藤ふたりは、笑顔で接客した後、舞台の上を見る。
今日も、何時も通り。ここからは、少し余裕が出来る時間。
舞台に立つバンドを見て勉強出来るので、この時間は嫌いじゃない。
…………というか、最近はこうやってバイトをする時間が嫌いじゃない。
むしろ好きかもしれない。でも、昔よりはちょっと難しくなった気がする。不思議だ。
一息つくと、お疲れ様と一言。隣で喜多ちゃんが微笑んで、同じような声をかけた。
「ふたりちゃん、お疲れ~!」
そこに虹夏とリョウがやってくる。カウンターに、四人揃うのは珍しい。
「あ、虹夏さん、リョウさん」
ペコリとふたりは頭を下げると、虹夏は軽く手を振った。
「今日も終わったわね~」
STARRYから出て、ん~、と伸びをする喜多の隣で、そうだねとふたりは頷く。
吹き抜ける夜風が涼しい。もう少ししたら、寒くなるなとなんとなく思う。
何時もの日常。この何気無い一時が、最近ではとても愛しい。
…………だってこの光景が、かけがえのないものだと。当たり前であって、当たり前でない事を知ってるから。
何かがあれば、壊れてしまう光景だと知ってるから。
だから、今日も精一杯噛み締めて。明日も。だから、わたしは……そのために─────。
「……えっと、みんな」
「ん?」
少しおずおずとした調子のふたりに、どうしたの?と喜多。虹夏とリョウも、ふたりに視線を投げる。
「その……わたし、明日は学校休むんだけどね?」
「そうなの?……具合、悪いの?」
「いや、そういう訳じゃないんだけどね?」
ええと、と少しバツが悪そうにふたりはうつむく。
「ほう、サボりか……ロックでいいと思う」
そう言って、リョウは軽く親指を上げる。
「いや、まぁ、サボりと言えばサボりなんだけど……」
「でも、何か大事な用事があるんでしょ?」
何時かの店で、何時かのような、こちらを見通す金の瞳に、ふたりは少し息を止めた。
対するリョウは、ほんの少しだが微笑みを浮かべている。
「大事な用事か~……なら仕方ないんじゃない?」
「ちなみに、どんな用事なの?」
虹夏と喜多に問われて、えっと、とふたりは言い澱む。
「……ちょっと、今は口に出し辛くて……でも、大事な用事」
そこまで言って、少し深呼吸。
「ただ……まだ、勇気が必要で………その、えっと」
「………気休めでいいから、大丈夫だと、言って欲しいなって………」
我ながら、よく解らない事を言ってるなと思う。こんな事を言われても困るだろう。
三人は、軽く顔を見合わせて。
「……そっか。うん、大丈夫じゃない?ふたりちゃん、最近は頑張ってるしね」
虹夏は笑う。本人が気付いてるか分からないが……例えば、バイトの時でも表情がよくなった。
来たばかりの頃は事務的というか、機械的というか……もちろん、それも悪い事ではなかったけれど。
最近は本当に生き生きしていて、一生懸命取り組んでるのが見て分かるのだ。
「なんだか知らんが、とにかく良し……!」
と、再びサムズアップをするリョウ。
「……そうね。ふたりちゃんなら、きっと大丈夫よ!」
そして相変わらず、キ タ ー ン ! ! な喜多ちゃん。
「……ありがとう」
ちょっと照れくさげに呟いて、ふたりは空を見上げた。
やろうと思って、まだやっていなかった事。
やり残している事。
謝りに行くのだ。……中学まで、ずっと励ましてくれていた友達に。
………あの日から支えようとしてくれて、その手を振り払っていたあの子達に。
まだ、友達だと思ってくれているかは解らないけれど。
それでも、けじめをつけなくてはならないと思うから。
更新遅くなって申し訳ないです。次か、その次で最終回になります。後書き的なのは掲示板の方にあげる予定。
気が向いたら蛇足一話あげるかも?残りわずかですが、もしよろしければお付き合い下さい。