あの日から、世界は灰色になった。
輝かしく思うものなんてなくなって、なにをしていても辛くて、嫌な事ばかりが頭にこびりついて離れなかった。
………でも、違う。自分が赦せなかっただけで。幸せになるのが怖かっただけで。
お姉ちゃんが自分のせいでああなった。だから、自分が幸せになる資格なんてないんだって。
………でも、それだけじゃない。怖かった。
幸せになったら、姉の記憶が薄れていくんじゃないかって。
あれだけの事を、忘れてしまうんじゃないかって……。
だから、怖かった。だから、伸ばされた友達の手を振り払い続けた。
……両親には、娘はもう自分だけだ。でも、友達には他の友達がいる。
わたしの代わりなんて、いくらでもいる。だから、繋がりを断とうとしていた。
言い訳をして、でも───
そんな自分に、中学を卒業するまで手を伸ばし続けてくれた、友達がいた。
今だから、解る。もう、目を背けない。
人はみんな違うのだから、代わりなんているわけがないんだ。
「………ふぅ」
街中を茜(あか)く染める落陽を眺めて、ふたりは息を吐く。
どうして謝るのか。今更、都合よく。
自分がちょっとでも楽になりたいから。それもあると思う。
でも……やっぱり、けじめのためだ。
赦される必要はない。でも、ごめんなさいって。そして、ありがとうって。伝えないでこのまま楽しくバンドを続けるのは、筋が通らないと思うから。
…………大丈夫。この道を、通るはず。
タメ息をひとつ、視線を下に向けた。
陽に照らされ伸びた影が、足元に見えた。
「……ふたりちゃん?」
二人の女子の姿。昔、仲良く遊んだ子達。
「まちちゃん、はるちゃん、その、久しぶり……」
逆光に立つ二人の姿を眩しげにしながら、ふたりは……どんな顔をしていいのか分からず、ぎこちなく笑うような表情をした。
対する二人は、少しポカンとしたまま……何も言えず、少し笑う。
「……その、ちょっとお話、いいかな……?」
たどたどしい言葉に、頷くのを見てから、ふたりは頭を下げて───
「ごめんなさい」
「今までずっと……」
「嫌な態度、とった事もあったと思う。……嫌な事も、言ったと思う……」
「ずっと、気を使ってくれたのに、励まそうとしてくれたのに、わたし、ずっと、無視してきて………」
「………本当に、ごめんなさい」
『もう話し掛けてこないで』『お友達ならいっぱいいるじゃん』『ギターの練習あるから、いや』『もうわたしに───』
「ふたりちゃん」
二人分の声と、温もり。
「もう、いいよ。大丈夫だから」
「やっと、やっと──帰って来てくれたんだね、ふたりちゃん」
耳の近くで聞こえる声。涙が混じった、でも嬉そうな声。
身体が、震える。本当に今更だ。
今更、そんな資格なんてないのに。
赦されて、いいはずがない、のに。
「………うん」
あの頃の心で、そう言った。
よく遊んだ、幼稚園の頃から……変わる事なく、彼女達は。ずっとずっと、友達のままでいてくれた。
「……ありがとう」
そんな、素敵な友人達に、感謝の言葉を告げるのだった。