ねえ、ヒロインちゃんにストーカーされてるんだけど!?   作:アトハ

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8. ねえ、これからも楽しい冒険者生活は続いていくんだよね!?

 私は魔力を込めると、聖剣を振り抜いた。

 

 

 2人の魔力が合わさった、あまりに強烈な一撃。

 すべてを無に返す真っ白な光に、七色に輝く魔力が彩りを与える。

 

 

 私とアメリアが共に放った決死の攻撃。

 聖剣の放つ光線は魔王に直撃する。

 魔王は闇魔法のシールドを張りどうにか耐えようとするが、

 

 

「……見事だ」

 

 やがては純白の光に飲み込まれていく。

 私たちの放った攻撃は、圧倒的だと思えた魔王すらも打ち破ることに成功したのだ。

 

 

「良かった。おねえさま、ご無事ですね……」

「……アメリア?」

 

 そう言って、アメリアはパタリと地面に倒れ込んだ。

 

(魔力を聖剣に奪われたせい?)

 

 倒れたままピクリとも動かない。

 嫌な予感がした。

 

 

 

「アメリア!」

 

 私は思わずアメリアの肩を揺する。

 

 ガクガクと揺すられたままの彼女に、言葉を失う私。

 聖剣の威力はあまりに絶大だった。

 それこそ――アメリアの魔力を全て喰らってなお、釣りが出るほどに。

 

 

「嘘でしょ!? こんな時に、冗談はやめてよ!」

 

 聖剣の力を見事に引き出して見せたアメリア。

 

 魔王を討伐した勇者として、今後私は国中から英雄扱いされるだろう。

 ウィネットとマルコットが恐縮しながら、勲章を受け取る姿が想像できる。

 その場にアメリアの姿はない。

 頭をよぎったのは、そんな未来予想図。

 

 

「お姉さま」

 

 弱々しくアメリアは微笑む。

 

「最後のお願いです。

 ――繰り返してください」

 

 

 最期の刻に、彼女はいったいなにを望むのだろう。

 

 

「私、シャーロット・フローライトはーー」

「私、シャーロット・フローライトはーー」

 

「アメリア・オルコットを生涯かけて幸せにすることを誓いますーー」

「アメリア・オルコットを生涯かけて幸せにすることを誓いますーー」

 

 ん?

 

 気のせいだろうか。

 なにやら愛の言葉を誓わされたような――

 

 

 

「ありがとうございます!

 私も大好きです、お姉さま!!」

 

 ガバっと起き上がり、私に抱きついてくるアメリア。

 そのまま頬ずりまでしようするので、

 

 

「……」

 

 無言。

 メリメリっとアメリアを引っ剥がす。

 

(なによ、元気じゃない!)

 

 

 慌ててアメリアから視線をそらす。

 涙の跡を見られるのが、無性に恥ずかしかったのだ。

 

 

「おねえさま、幸せにしてくださいね!」

「無効よ、無効!

 あんなだまし討ちみたいなマネして!」

 

 

 しつこくじゃれついてくるアメリア。

 引っぺがす。

 

 またじゃれついてくる。

 子犬かな?

 

 次第に面倒臭くなる。

 それにアメリアを大切に思う気持ちに、嘘を付くこともできず。

 最終的にアメリアの好きにさせることにした。

 

 

「……アメリアが生きていて、本当に良かった」

「おねえさまを残して先に死ぬなんて、あり得ません!」

 

 

 その言葉――破ったら許さない。

 アメリアが死んでしまったと思ったときの喪失感は、まるで人生がひっくり返るようなもので。

 

「本当に心配したんだから。

 私を残して死ぬことは、絶対に許さないからね!」

 

 私の胸に顔をうずめるアメリアを、私はそう言いながら抱きしめる。

 たしかにアメリアの鼓動を感じる。

 彼女の息吹を感じる。

 

(良かった)

 

 

 アメリアのいない生活なんて、もう考えられなかった。

 

 どちらにせよアメリアは、次期王妃の身。

 こんな日々なんてずっと続くはずはない。

 それでも元気に生きていて欲しかった。

 

 

 S級特務こと、魔王討伐クエスト。

 強大な魔王に苦戦こそしたものの、終わってみれば誰も欠けることなく。

 

 

「楽勝でしたね!」

「もう、二度とごめんよ」

 

 私とアメリアはあまりに普段どおりに。

 

 

「俺たちも早く2人に追いつかないとな……」

「戻ったらまた特訓の日々が始まるッス!」

 

 

 後ろで見ているだけだったマルコットたちは悔しそうに。

 私たちは、平和な日常に戻ろうとしていた。

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 今日はどのクエストを受けようか。

 

 魔王を討伐した勇者となっても、生活に変わりはなく。

 私は気ままに冒険者として暮らしていた。

 

 

「おねえさま!」

「アメリア! ……と、なんで王子?」

 

 パーッと笑顔を浮かべて、私に走り寄ってくるアメリア。

 その後ろには王子の姿。

 

 アメリアはいつものようにガバッと抱きついてくるので、私は受け止めつつよしよしと髪を撫でる。

 気持ちよさそうに目を細めるアメリアを、王子は機嫌悪そうに睨みつけていた。

 

 

「アメリアがずっとシャーロットのことを話しているのだ。

 だから――私も付いてこようと思ったのだ」

 

 事もなげに言うが、勘弁して欲しい。

 何かあっても責任取れないからね?

 

 

「心配には及びません、おねえさま。

 そこのボンクラ王子は、廃嫡(はいちゃく)されることになったんですよ」

 

 華やかな笑顔で何ということを言うのか。

 おそるおそる王子の顔をみるも、彼に怒った様子はない。

 

 

「何、事実だしな。貴様の罪はすべて冤罪だ。

 調べればすぐに分かることだろう」

「それが分かっていながら、なぜあのような愚かな振る舞いを……?」

 

 

 婚約破棄の宣言。

 念願叶っての冒険者人生。

 まるで物語のように、すべてが上手くいったとは思っていた。

 

 それは私の思惑通りに進んでいたわけではなく。

 もしかして私の願いを知ったアメリアと王子が、私が「夢を掴み取った」と思わせるためにわざと――?

 

 

「愚かな王子は、平民を溺愛するあまり目を曇らせた。

 無実の公爵令嬢を追放した罪は重い。

 愚かな王子は貴族籍を失い、平民として生きていくことを余儀なくされた。

 ――それだけの話だ」

 

 私が何を想像したかを察した上で。

 王子は肩をすくめてみせた。

 

 

「お姉さま、こんなアホ王子は放って今日のクエストを受けましょうよ!」

「ま、待ってアメリア?」

 

 私の腕にしがみついたまま、べーっと王子に舌を出すアメリア。

 王子は嫉妬にわなわなと震えると、なぜか私の腕をつかんだ。

 

 

「ま、待てシャーロット。

 俺は本当は貴方のことがーー」

「王子! お姉さまのことを思うなら、その想いは胸に秘めたままにしておくべきです!」

 

 いつぞやとは逆の構図。

 王子とアメリアは私の腕をガッツリとホールドしたまま、まるで離そうとしない。

 ええっ……?

 

「それでは貴様の一人勝ちではないか!」

「計算通りですよ、負け犬はおとなしく引っ込んでください!」

 

「き、貴様! よりにもよって負け犬だと!?」

 

 ひ、ヒロインちゃん?

 王子に憧れた元・平民の少女は、もうそこにはいなかった。

 

 王子とヒロインは、いつまでも口げんかを続ける。

 悪役令嬢の私を取り合って。

 

 どうしてこうなった。

 

 

「アホ王子は、とりあえず冒険者登録でもして来てください。

 私とおねえさまは愛の逃避行――じゃなくてクエストに向かうので」

「ま、待て。俺も行くぞ?」

 

 

 王子の制止の声も聞かず、

 

「さあ、行きましょう。おねえさま!」

 

 

 アメリアは私の手を引き歩き出した。

 本当に王子を置いていく気マンマンのようだ。

 

(……ま、まあ良いか)

 

 

 ムキーと肩を怒らせる王子。

 王子とアメリアは、気安く言い合える仲だということだろう。

 楽観的にそう結論付ける。

 

 アメリアがこっそりと、王子の名前をパーティーメンバーに書き加えていたことは知っている。

 過去の確執も特にない。

 騒がしい仲間が増えたとでも思っておこう。

 

 

「おねえさま、幸せにしてくださいね!」

 

 花が咲き誇るように、アメリアは私にそう笑いかけた。

 

 

「もちろん!」

 

 久しぶりに心からの笑みを浮かべた気がする。

 これからも楽しい冒険者生活が続いていくのだ。




これにて完結です!

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