ねえ、ヒロインちゃんにストーカーされてるんだけど!? 作:アトハ
私は魔力を込めると、聖剣を振り抜いた。
2人の魔力が合わさった、あまりに強烈な一撃。
すべてを無に返す真っ白な光に、七色に輝く魔力が彩りを与える。
私とアメリアが共に放った決死の攻撃。
聖剣の放つ光線は魔王に直撃する。
魔王は闇魔法のシールドを張りどうにか耐えようとするが、
「……見事だ」
やがては純白の光に飲み込まれていく。
私たちの放った攻撃は、圧倒的だと思えた魔王すらも打ち破ることに成功したのだ。
「良かった。おねえさま、ご無事ですね……」
「……アメリア?」
そう言って、アメリアはパタリと地面に倒れ込んだ。
(魔力を聖剣に奪われたせい?)
倒れたままピクリとも動かない。
嫌な予感がした。
「アメリア!」
私は思わずアメリアの肩を揺する。
ガクガクと揺すられたままの彼女に、言葉を失う私。
聖剣の威力はあまりに絶大だった。
それこそ――アメリアの魔力を全て喰らってなお、釣りが出るほどに。
「嘘でしょ!? こんな時に、冗談はやめてよ!」
聖剣の力を見事に引き出して見せたアメリア。
魔王を討伐した勇者として、今後私は国中から英雄扱いされるだろう。
ウィネットとマルコットが恐縮しながら、勲章を受け取る姿が想像できる。
その場にアメリアの姿はない。
頭をよぎったのは、そんな未来予想図。
「お姉さま」
弱々しくアメリアは微笑む。
「最後のお願いです。
――繰り返してください」
最期の刻に、彼女はいったいなにを望むのだろう。
「私、シャーロット・フローライトはーー」
「私、シャーロット・フローライトはーー」
「アメリア・オルコットを生涯かけて幸せにすることを誓いますーー」
「アメリア・オルコットを生涯かけて幸せにすることを誓いますーー」
ん?
気のせいだろうか。
なにやら愛の言葉を誓わされたような――
「ありがとうございます!
私も大好きです、お姉さま!!」
ガバっと起き上がり、私に抱きついてくるアメリア。
そのまま頬ずりまでしようするので、
「……」
無言。
メリメリっとアメリアを引っ剥がす。
(なによ、元気じゃない!)
慌ててアメリアから視線をそらす。
涙の跡を見られるのが、無性に恥ずかしかったのだ。
「おねえさま、幸せにしてくださいね!」
「無効よ、無効!
あんなだまし討ちみたいなマネして!」
しつこくじゃれついてくるアメリア。
引っぺがす。
またじゃれついてくる。
子犬かな?
次第に面倒臭くなる。
それにアメリアを大切に思う気持ちに、嘘を付くこともできず。
最終的にアメリアの好きにさせることにした。
「……アメリアが生きていて、本当に良かった」
「おねえさまを残して先に死ぬなんて、あり得ません!」
その言葉――破ったら許さない。
アメリアが死んでしまったと思ったときの喪失感は、まるで人生がひっくり返るようなもので。
「本当に心配したんだから。
私を残して死ぬことは、絶対に許さないからね!」
私の胸に顔をうずめるアメリアを、私はそう言いながら抱きしめる。
たしかにアメリアの鼓動を感じる。
彼女の息吹を感じる。
(良かった)
アメリアのいない生活なんて、もう考えられなかった。
どちらにせよアメリアは、次期王妃の身。
こんな日々なんてずっと続くはずはない。
それでも元気に生きていて欲しかった。
S級特務こと、魔王討伐クエスト。
強大な魔王に苦戦こそしたものの、終わってみれば誰も欠けることなく。
「楽勝でしたね!」
「もう、二度とごめんよ」
私とアメリアはあまりに普段どおりに。
「俺たちも早く2人に追いつかないとな……」
「戻ったらまた特訓の日々が始まるッス!」
後ろで見ているだけだったマルコットたちは悔しそうに。
私たちは、平和な日常に戻ろうとしていた。
◇◆◇◆◇
今日はどのクエストを受けようか。
魔王を討伐した勇者となっても、生活に変わりはなく。
私は気ままに冒険者として暮らしていた。
「おねえさま!」
「アメリア! ……と、なんで王子?」
パーッと笑顔を浮かべて、私に走り寄ってくるアメリア。
その後ろには王子の姿。
アメリアはいつものようにガバッと抱きついてくるので、私は受け止めつつよしよしと髪を撫でる。
気持ちよさそうに目を細めるアメリアを、王子は機嫌悪そうに睨みつけていた。
「アメリアがずっとシャーロットのことを話しているのだ。
だから――私も付いてこようと思ったのだ」
事もなげに言うが、勘弁して欲しい。
何かあっても責任取れないからね?
「心配には及びません、おねえさま。
そこのボンクラ王子は、
華やかな笑顔で何ということを言うのか。
おそるおそる王子の顔をみるも、彼に怒った様子はない。
「何、事実だしな。貴様の罪はすべて冤罪だ。
調べればすぐに分かることだろう」
「それが分かっていながら、なぜあのような愚かな振る舞いを……?」
婚約破棄の宣言。
念願叶っての冒険者人生。
まるで物語のように、すべてが上手くいったとは思っていた。
それは私の思惑通りに進んでいたわけではなく。
もしかして私の願いを知ったアメリアと王子が、私が「夢を掴み取った」と思わせるためにわざと――?
「愚かな王子は、平民を溺愛するあまり目を曇らせた。
無実の公爵令嬢を追放した罪は重い。
愚かな王子は貴族籍を失い、平民として生きていくことを余儀なくされた。
――それだけの話だ」
私が何を想像したかを察した上で。
王子は肩をすくめてみせた。
「お姉さま、こんなアホ王子は放って今日のクエストを受けましょうよ!」
「ま、待ってアメリア?」
私の腕にしがみついたまま、べーっと王子に舌を出すアメリア。
王子は嫉妬にわなわなと震えると、なぜか私の腕をつかんだ。
「ま、待てシャーロット。
俺は本当は貴方のことがーー」
「王子! お姉さまのことを思うなら、その想いは胸に秘めたままにしておくべきです!」
いつぞやとは逆の構図。
王子とアメリアは私の腕をガッツリとホールドしたまま、まるで離そうとしない。
ええっ……?
「それでは貴様の一人勝ちではないか!」
「計算通りですよ、負け犬はおとなしく引っ込んでください!」
「き、貴様! よりにもよって負け犬だと!?」
ひ、ヒロインちゃん?
王子に憧れた元・平民の少女は、もうそこにはいなかった。
王子とヒロインは、いつまでも口げんかを続ける。
悪役令嬢の私を取り合って。
どうしてこうなった。
「アホ王子は、とりあえず冒険者登録でもして来てください。
私とおねえさまは愛の逃避行――じゃなくてクエストに向かうので」
「ま、待て。俺も行くぞ?」
王子の制止の声も聞かず、
「さあ、行きましょう。おねえさま!」
アメリアは私の手を引き歩き出した。
本当に王子を置いていく気マンマンのようだ。
(……ま、まあ良いか)
ムキーと肩を怒らせる王子。
王子とアメリアは、気安く言い合える仲だということだろう。
楽観的にそう結論付ける。
アメリアがこっそりと、王子の名前をパーティーメンバーに書き加えていたことは知っている。
過去の確執も特にない。
騒がしい仲間が増えたとでも思っておこう。
「おねえさま、幸せにしてくださいね!」
花が咲き誇るように、アメリアは私にそう笑いかけた。
「もちろん!」
久しぶりに心からの笑みを浮かべた気がする。
これからも楽しい冒険者生活が続いていくのだ。
これにて完結です!
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それでは最後までお読みいただき、ありがとうございました〜!