突撃!まふゆの晩ご飯!   作:レアブルー

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トマトとパスタ

「今年の梅雨は雨が少ないと思ってたけど、最近になって急に降ってきたなー」

 

夏も入りかけの季節、梅雨が過ぎた時期ではあるがこれまでの降水量を取り戻すかのように降りしきる雨。ジメジメとした空気をエアコンの除湿で乗り切る男が1人。

 

「洗濯物も乾かないし、空気感が苦手なんだよね雨の日って」

 

肌に張り付くような湿気と夏の暑さが合わさった、蒸れる様な熱気はなんともいえない不快感を与える。

 

「除湿機能でだいぶマシになるんだけど、エアコンのだと温度上げても寒いときあるんだよなー」

 

そんなことを呟きながら夕飯の準備をしていると不意にピンポーン、とチャイム音が鳴る。

 

「……あれ、配達でも頼んだっけ」

 

こんな激しい雨の中、来客する予定など立てているはずもなく、日頃のずぼらさにより通販を多用している男は心当たりのない訪問に出ようとする。

 

ガチャ

 

「……は?」

 

男が扉を開けようと手を出そうとした時、触れていないのに鍵が回る。開け放たれた扉の先に見えたのは雨に濡れた犬のようにびしょ濡れのまふゆだった。

 

「……」

「ちょ、なんでそんなびしょびしょで……っておい、濡れたまんま廊下を歩くんじゃない!」

「……居たんだ」

「そらいるわ、俺の家だぞ。というかタオル持ってくるからそこで待――」

「お風呂借りるからいい」

「は?いや貸すのはいいけど……え?」

 

勝手知りたりすぎている男の家で脇目を振らず浴室に向かうまふゆ。時間帯的に学校帰りだろうか。制服を着ているが雨によってびしょびしょになっており、滴る雨水により廊下が水浸しになっている。そしてそのまままふゆは入った洗面所の扉を閉めると、玄関で呆然としたまま男とまふゆと同じくらいびしょびしょになった廊下が残る。程なく、大して厚くもない洗面所のドアの先からシャワーの音が聞こえてくる。当然まふゆがシャワーを浴びる音だろう。

 

「――人の家に来てシャワーを浴びるのに躊躇がなさ過ぎるだろ……」

 

 

 

 

しばらくの時間がたった後、まふゆが洗面所から出てくる。ほんのり上気した頬と解かれて下ろされた髪が湯上がりであることを示している。流石に着替えは常備していないようで、どこからか取り出した男のTシャツとズボンを履いている。

 

「……よく男の服を勝手に着られるな。いや俺はいいけど」

「着替えが無い」

「そりゃそうだろうよ」

「なに、着たらダメなの?」

「わー!バカバカ!脱げとは言っとらん!!抵抗は無いんかっていう感想ですぅ!!」

「別に」

「あーそーですか、どうも余計なお世話でございましたねぇ!」

 

突然服を脱ぎ出そうとしたまふゆに焦る男。男は咄嗟に目を腕で覆っており見えていないがその姿を見てまふゆが少し笑ったようにも見える。

 

「で、今日は何?」

「いや突然来られても今作ってるパスタしかないが」

「じゃあそれでいい」

「俺の晩御飯なんだが……」

 

あとでもう1品作るか……と呟きつつ、今作っている料理の作業を進める。

 

既にパスタは塩を小ぶりの鍋の中に4つまみ入れた塩水で茹で始めており、次にパスタのソースを別のフライパンで作っていく。

まずはニンニクを二片を潰して……といつもの流れで入れようとした男だが、まふゆが食べることを思い出しニンニクをしまいなおす。

タマネギをみじん切りにして、熱していないフライパンにオリーブオイルとともに入れる。強火で沸々と音がするまで火にかけ、そこからは弱火でじっくり火を入れていく。

多少色づいてくる一歩手前くらいに塩味であるアンチョビと具材のシーフードミックスを入れる。アンチョビとシーフードの海鮮の旨みがオリーブオイルに溶け出し、タマネギが飴色に色づく前にこの間冷凍保存しておいたトマト缶の残りを入れる。

そこにオレガノ、バジルを少量ずついれ、火を弱火よりの中火にして煮詰めていく。

少し煮詰まってトマトがポコポコ沸いてきたら、粘度が付いてきたパスタのゆで汁で少しソースを伸ばす。一度煮詰めることでトマトの余計な酸味や水分が飛び、甘みと旨みが引き出る。

そこに丁度茹で上がる少し前のパスタをゆで汁からしっかり水分を切って入れる。乾いたパスタの表面にトマトソースが絡むように少し火力を上げて丁度良い濃度になるまで絡める。

最後に火を消してから香り付けのオリーブオイルを一回しして軽く和えて完成。

 

お皿に盛って、テーブルで待っているまふゆのもとに運ぶ。

 

「ほい、シーフードトマトパスタ的なヤツ」

「またトマト?」

「文句言うんじゃありません、元々そう言われないために自分で消化しようとしてたんだよ」

「……そう」

「じゃあ、俺は自分用作ってくるから食べてな」

「まって」

 

男が台所へ向かおうとするとまふゆがそれを引き留める。

 

「半分に分けて食べればいい」

「え、いや新しいの作りゃいい――」

「分ければいい」

「いや流石に量が――」

「なに、一緒に食べたくないの?」

「ハイ、ご一緒させていただきマス」

 

圧のある無表情の中にほんの少し悲しそうな表情を浮かべたまふゆに対して、男はすぐさま踵を返して自分の食器を取り出す。元々、一人暮らしで料理回数を減らすために多めに作って、食べきれなければ保存という量を作っていたため、2人で同量分けてもそこまで少なくはならない。

 

「んじゃ、手を合わせて」

 

 

いただきます。

 

 

いつも通り黙々と、二人して食べ進める。会話がなくとも人と共に囲う食卓は1人の食事と何か違うものを感じることが出来る。まふゆはそれを求めていたのかもしれないな、と男は感じる。

 

「ごちそうさま」

「おそまつさん。……そういえば今日はどうしたんだ、傘を忘れるようなお前じゃないだろ」

「後輩に貸した」

「なるほど、納得した」

 

男の家での傍若無人さからは考えられないほど外では"良い子"のまふゆ。大方、傘を忘れた後輩を言いくるめて、自分の傘を渡したであろう光景は男にも容易に想像できた。

 

「連絡くれれば迎えに――」

「……」

「――行くのは嫌ですねそうでしたはい」

 

何度も言わせるな、という呆れの表情を浮かべたまふゆを見て、男は自身の発言を取り消す。

 

「せめてびしょ濡れになる前に適当なところで連絡くれ、風邪引いたらどうするんだ」

「……」

「別に傘渡しに行くとかでもいいしさ」

「……分かった」

「それわかってないやつだな、目をそらすんじゃない」

 

まふゆは今着ている男のTシャツの袖を握りながら、男と目を合わせずに返事をした。

 

「今日は帰る」

「ん?まだ制服は乾いてないけどどうするんだ」

「換えの制服置いてる」

「おい、なんで俺の家にお前の制服置いてんだ」

「……」

「そっぽ向いてごまかそうとするな。こっちは見つかったら面倒どころじゃないんだぞ」

「今日は役に立った」

「いやそうだけども……え、まさか濡れた制服も置いていく気じゃないだろうな?」

「じゃあまた来るから」

「おーいまふゆさーん?無視しないでー?」

 

男の呼びかけに答えず、無慈悲に玄関のドアから先ほどよりも小雨になった外へ出るまふゆ。残されたのはご丁寧に干された生乾きの制服一式と、呆然とした間抜けな男が1人。

 

「――とりあえず乾いたらクリーニングにでも出すか」




「……そういえばまふゆ、俺のTシャツ借りパクしてないか?」
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