突撃!まふゆの晩ご飯!   作:レアブルー

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スパイスとお肉

「あーさむさむ。最近は特に冷え込むな」

 

冬も深まり、冷気が厳しくなってきたこの頃。強い昼の日差しすら気休めにしかならない冷え込みに布団から中々出られない男が1人。

足だけを布団の外に出しては、急速に冷える身体の末端に耐えられず引っ込める行動を繰り返すことウン回。もはや外界は人が生きていける場所では無いと、男は聖域(オフトゥン)に身を潜めていた。

 

――ガチャ。……とっとっと。

 

足音が聞こえる。この男は一人暮らしであり、音がしたようにしっかり鍵もかけている。必然的に入ってくることが出来るのは何かあった時用に合鍵を渡している家族か――

 

「ついにインターフォンすら鳴らさなくなったな――まふゆ」

「……起きてたんだ」

 

いつの間にか念のため作成していた予備の合鍵を持っていった少女、まふゆのみである。布団から頭のみ出す男と、"音を立てないように"ゆっくりと扉を開いたまふゆの視線が交わる。

 

「……なんでそんなコソコソしてるんだ」

 

まふゆは少しの沈黙の後、表情を変えず視線を外して言った。

 

「――――寝てて起こしたら悪いと思ったから」

「絶っ対今考えたし、普段はそんなの気にしないだろこっち向かんかい」

 

男がそういうもまふゆは何処吹く風か聞き流している。

そして外した視線の先に気になるモノがあったのか、まふゆの視線が止まり"あるモノ"を見つめていた。

 

「……ん、ああ"コタツ"か。寒いしとりあえず取り出してみた」

 

一人暮らしにしてはそこそこ広いリビングの中央に、これまでのテーブルではなく、和の心を思い出させるコタツが置いてあった。ご丁寧に床には柔らかめの絨毯もひいてある。テーブルの上にパソコンが置いてあるところは現代っ子仕様といったところだ。

 

「――とりあえず布団から出たら?」

「寒いから無理!!」

「……」

「わお、まふゆさんの目線の方が冷たいかも」

「……少し動けばいいだけでしょ」

「そうは言ってもこの寒さだとその道のりがまた遠く感じて……あれ、まふゆ?」

 

見苦しくも言い訳を続ける男を無視してまふゆはコタツの方に――パソコンの方に向かう。パソコンの電源を入れると起動した画面に"慣れた手つき"で文字を打ち込む。

 

「好きな曲名と生年月日」

「あのーまふゆさん?なんでパスワードを知ってるんですかね?あと一度も触らせた記憶が無いのにやたら手慣れた操作に見えそのファイルは開けちゃだめぇー!!!」

 

これまでナマケモノもかくやといった男が、あれほど出たがらなかった布団を蹴飛ばし、まふゆの元へ駆け寄る。すぐさままふゆからマウスとキーボードをひったくると、開かれていた深層のファイルを閉じた。

 

「やっと出てきた」

「まふゆ……恐ろしい子……というかマジでなんで知ってるんだお前。というかまさか中身も既に――」

「お腹すいた」

「はい!誠心誠意作らせていただきます!」

 

男は気づかなかったことにした。知らねば無いものと同じ。正気度直葬待ったなしの最悪の想像を頭からかき消すため、まふゆの言葉に全力で乗っかる男であった。

 

 

 

「では今日は朝カレーを作っていきたいと思います」

「誰に言ってるの」

 

今回男が作るカレーはカレールーを使わずに、家にあるスパイスを使ってカレーっぽいものを作っていく。材料は鶏もも肉、適当なスパイス、タマネギ、ニンジン、その他調味料だ。

 

フライパンに普段より気持ち多めに油を敷いてタマネギを炒めていく。このとき軽く塩をする。これは味付けではなく水分を出して炒まりやすくするためだ。炒めている間にニンジンを耐熱ボウルに入れて少量の水と共に少し柔らかくなるまでレンジでチンしておく。

 

タマネギが多少炒まってきたら火を弱火にしてカレーの根幹、スパイスを投入していく。今回は家にあったクミン、コリアンダー、ナツメグ、ターメリック、ガラムマサラ、オールスパイス、黒コショウ、砕いた唐辛子を適当に入れていく。

 

スパイスを炒めている間にお肉、今回は鶏もも肉を食べやすいよう一口小に切ってフライパンに入れる。火は中弱火にしてスパイスが焦げ付かないくらいでお肉も炒めていく。焦げそうな場合はお水を少量足すと良いが油がはねやすいので注意。

 

お肉の表面がある程度焼けたらトマト缶「またトマト?」「トマト缶は万能なんだぞ!座って待ってなさい!」チンしたニンジンを入れて、食材に火が通るまで煮ていく。あと少しで火が通りきるかなーというところで味見をする。先に水分が無くなりそうであれば都度水を足す。

 

お好みで塩、オイスターソース、ウスターソース、バター、うま味調味料、オレガノなどを少量ずつ投入し味を調える。煮詰めてここから味が濃くなるので気持ち薄めくらいで。水分が良い感じに飛んでとろっとカレーっぽくなったら完成。

 

「ほい、特製そのときの気分カレーだ」

「手当たり次第にあるもの入れてた様に見えるけど」

「まあ大体あってる。一応道中で味見してるから大丈夫だ」

「あと時間かかりすぎ」

「それはすみませんでした」

 

「じゃあ」

「ん」

 

 

いただきます

 

 

せっかくならとパソコンを脇に置いて、2人はコタツに入ってカレーを食べる。コタツとカレーのスパイスによる内と外の暖かさで寒い冬も乗り切れそうなぬくもり。いつもどおり黙々と食べ進め、2人は同時にお互いの茶碗のお米がなくなっていることに気がつく。

 

「はい」

「……いやいいけどさ」

 

一切の悪びれも躊躇もなく自分のお椀を男に渡すまふゆ。それに対して嫌な気が一切していないことに気がついた男は、自身の尻に敷かれる適性の高さに少し悲しくなった。

 

「どうぞお姫様」

「ありがとう」

 

男はまふゆの前に茶碗を置く。しかしまふゆはその"いつもどおり大きく"盛られた茶碗を見て少し複雑な気持ちになった。

 

「ん?どうしたまふゆ」

「……別に、なんでもない」

「――ほら、いっぱい食べる君が好きって言」

「なんでもないって言ったよね」

「はい、なんでもないです」

 

古今東西、乙女心というものは理解できないほうが悪と決まっている。何を言われたとしても女の子として、目の前の異性より量を食べるというのは恥ずかしいものなのだ。

この後"今更まふゆが意外と大飯食らいなんて気にしない"というノンデリ極まりないの一言により特大の雷が落ちたのは、完全に男の自業自得であった。

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